合わせ鏡のその向こう。紫に染まるのは、過去か未来か現実か。

 こちらは長編作品「共感応トワイライト 〜なごや幻影奇想ファイル〜」の追加エピソード。然し回れ右をする必要はない、このままぜひどっぷりと彼らの世界に浸っていただき、次に本編を読みたくなるはずだ。

 名古屋のとある場所にある『樹神探偵事務所』。ここは非現実的な現象を解決してくれる、知る人ぞ知る探偵事務所。
 今回の依頼人は百貨店に勤務する美しい一人の女性。聞けば、ある時期から「ムラサキカガミを忘れるな」という言葉と共に、鏡に恐ろしいものが映るという。

 少し気障だが面倒見のいい先生、特殊な能力を持つ心優しい高校生、不思議な雰囲気の和装美人。
 魅力溢れるキャラクターと、ヨダレの出そうな名古屋飯、そしてまるで合わせ鏡のようにあらゆる角度から眺め、暴かれていく怪異の正体。

 こちらが物語へ「引き込まれない」よう注意しないといけないほど、読む手が止まらない構成の巧さはあっぱれの一言!

 ムラサキカガミを忘れるな。
 ムラサキカガミを忘れるな。

 繰り返されるこの言葉。読んでいくうちに、もしかすると誰もが感じたことのある悲しさや焦燥を思い出すかもしれない。けれど、目を見開いてそこに映ったものを見てほしい。

 都市伝説を取り扱いながらも、じんわりと心が解されるオススメの一作です。

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