沈黙に積雪
蜜柑桜
雪に吸われて消えて欲しいのに
真っ暗な空から落ちてくる雪片が、白い街灯の灯りの中に、いくつもいくつも姿を見せる。
ひらひら落ちて、足元をうっすら白く変えていく。
通りの車の音も吸い込んで、しんとして、何も聞こえない。
小さく泣いても誰も聞かない。
君と会ったのは大学一年生の春だった。
女子校上がりで男の子となんて怖くて話せなくて、
初めての飲み会で困っていた時に、話しかけてくれたのなんて覚えてないでしょう。
偶然授業がいくつも重なって、
奇跡的に毎日大学で会って、
話せる数少ない男の子になったのに、
一言交わすだけでもどれだけ緊張していたかなんて、知らないでしょう。
二年目、三年目、
もっと仲良くなりたいと思っても、大して進歩しないまま。
でも三年越し。願いは、叶った。
閉館まで図書館にいるのも悪くないね。
以来、勉強会も飲み会も、卒業後ですら定期的に。
それでもあなたは、どんな気持ちで隣に座っていたか気づかなかったでしょう。
恋に恋してるだけなんて言われたけれど、やっぱり初恋だったよ。
楽しかった。
嬉しかった。
幸せだった。
だから怖かった。
お互い腹割って何でも話したよね。
女友達や家族に言えない悩みすら。
どれだけ救われたか分からない。
でも一つだけ、どうしても言えないことがあったのは分からなかったでしょう。
伝えたら、この関係が壊れてしまうのが怖かった。
言葉にして離れてしまうくらいなら、
隣で笑っていたかった。
あなたはいつも彼女が欲しいって言っていたけれど、
私の前で言うって言うことは、私じゃなかったんでしょう?
言っておくけれどいくら義理だって、
そんな手の込んだチョコレートケーキ、あげるわけないでしょう?
あの年も、あの年も、そう言ってやればよかったのかな。
だって、
心地よいこの温かさが消えるくらいなら、
一緒にお好み焼きとかつつきながら、笑える方が良かった。
別の人に告白されて、付き合ってみても、
手を繋いで、唇を重ねても、
本当は君の横にいたかった。
馬鹿だね。
やっと想いを言えたのが、
絶対に壊れないってわかった時になってからだなんて。
ごめんね。
結婚するって聞いた直後だっていうのに、
ほんとは言っちゃいけないよね。
自分勝手だって知ってる。
でも、
「時効だよね」なんて言う、
精一杯の君の優しさに、
涙が出るのを許してください。
ついさっき別れた君のメールの一言が、
冷たい雫に濡れる。
一番辛かった時、一番君に救われた。
その君の幸せが、祝えないのが悲しい。
君の中では、時効でいいよ。
でもまだ私の中では、消えてくれない。
次から次へと落ちてくる白い雪片が、世界の音を吸っていく。
それと一緒にこの想いも、
吸われて消えて欲しいのに。
沈黙に積雪 蜜柑桜 @Mican-Sakura
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