第47話◆閑話:気難しい狼侯爵
「おい、見ろよあれ、すげー立派な狼が店の前に座ってるぜ。店の看板狼かな? それとも客のペットかな? 良い子で待ってて賢い子だなー」
「ちょっと、勝手に他人のペットを触ったらダメだよ! 大人しくて良い子にしてても凶暴かもしれないし、従順なのは飼い主にだけってよくあることでしょ」
「えー、ちょっとだけちょっとだけ、やばそうなら触らないからー。看板狼でしゅかー? ご主人様を待ってるんでしゅかー? 良い子でしゅねー?」
「グルルルルルルルル……」
「ほら、めちゃくちゃ怒ってるよ。っていうかその話しかけ方は、人間の言語を理解している知能の高い生き物はバカにされてると思うよ? ね? 君、すごく頭良さそうだもんね? って、うわ、コイツ狼侯爵としか見えないよ、それ以外は鑑定を弾かれて何も見えないや。ホントにすごい奴だ!!」
「マジか!? 侯爵ってめちゃくちゃ地位の高い貴族だよな? 立派な見た目通りの由緒正しい狼なんだなー。こんな立派な狼ならご主人もきっとすごいテイマーなんだろうなぁ」
「フフフンッ!」
「主人を褒められて喜んでるのかな? 人間の言葉も完全に理解しているみたいだし、俺が鑑定できないとなると普通の狼――魔物じゃないよね? もしかして神格持ちレベルかな?」
「フフンッ!」
「ものすごく得意げな顔をしてるぞ。そっか神格持ちってことは、神様に近い存在なのかー。この町の守り神みたいなものか? 侯爵で神様かー、ふらっと立ち寄った町でありがたいものを見たな。御利益ありますように、ナンマイダーナンマイダー」
「何意味のわからないこと言ってるの!? って、何ナチュラルに餌付けしようとしてるの!? でも賢い子だね、サラマンダーの干し肉に釣られてないよ」
「フンッ!」
「くっ! やっぱ神様ならちゃんとしたものじゃないとダメか? ほぉら、レッドドラゴンのメンチカツとマジカルチェリーのパイだぞぉ」
「ちょっと、皿まで出して何やってるの!? 人のペットに勝手に餌をやったらダメでしょ!!」
「ん? 確かにそうだな。仕方ない、やっぱお供えはやめておこう」
「グルルルルル……」
「え? 片付けたらダメ? 置いてけ? じゃあご主人様には内緒な。ついでに酒もつけようか? 御利益よろしく!!」
「ちょっと!? 人のペットにお酒をあげるのはさすがにまずいよ!!」
「ウー……」
「でもこの顔は出したものはそのままよこせって顔だな。よっし、今から出すものは全部内緒だな! 俺達と侯爵様の秘密!!」
「アス、お待たせ。買い物が思ったより長引いてしまったよ。何か美味しいものでも食べにいこうか」
「ムフゥ……」
「ん? 何かあんまり嬉しそうじゃないな? そろそろ昼だけど腹はまだ減ってないのか? あ、口の周りが赤くなってるぞ! さてはお前、誰かに何か貰ったな!? しかも酒の匂いまでするぞ!?」
「グフッ!?」
「あ、目を逸らしたな! ということはやっぱ何かを貰って食べたな!? 普段はそんなことをしないのに珍しい。何かお前の興味を引く相手だったのか?」
「グフゥグフゥ……」
「そう、口の周りが赤いのはマジカルチェリージャムが載ったパイ? それから、珍しい肉に釣られた。え? レッドドラゴン!? そんなもの貰ったのか!? 俺で滅多に食べることのできない高級品じゃないか!!」
「グッフッフッ!」
「レッドドラドンの出る場所でたくさん狩ろう? いや、あれはSランクを超えるやつだから、俺のランクではレッドドラゴンの出る場所には行けないな。そんな残念な顔をするな、人間社会は柵が多いんだよ。お前達の世界だって柵くらいあるもんだろ?」
「ムフゥ……」
「で、そんな高級なものを貰ったってことは何かお返しをしたんだよな? タダでは働かない、タダでは貰わない、それが誇り、お前達の生き様だもんな」
「ガフガフガフガフ」
「そっか、女運のなさそうな二人組だったから、恋のライバルが現れたら勝てるように加護を与えた。そっか……でもそれ、ライバルが現れる以前に相手がいないと意味がないやつだな」
「ガフゥ」
「それは自己責任? なるほど? 肉は美味かったし悪い奴らではなさそうだったから、配下の三十の軍団も縁があれば力を貸す? それ人間には普通に縁がないやつだな?」
「フ……」
「つまりだいたいタダ飯を食ったってことか。さすが侯爵クラスというかなんというか、お前達との契約の難しさを感じるよ」
「フン」
「そうだな、そんな侯爵に対等以上の契約結んでもらった俺はラッキーだったなー、これからもよろしく頼むよ相棒」
「ワフー」
冒険者ギルド職員ユーグランスは定時で帰りたい えりまし圭多 @youguy
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