自宅ごと異世界に飛ばされたアラフィフおっさんが、金髪美女エルフのリクエストで食事を作るお話

Y.A

第1話 鳥の丸焼きと、味噌キノコ親子丼

「今日は鳥を捕まえることができたからご馳走を作るぞ。なにを作ろうかな?」



 男ヤモメのアラフィフおじさんが、就職氷河期の中、苦労して入社した会社を早期希望退職。

 会社側は次のステップを目指してください、などと綺麗事を言っていたが、要は私のようなオジサンはいらないってことらしい。

 これでも身を粉にして働いたつもりだったんだが、時間の流れというのは残酷なものだ。

 幸いにして俺は独身で他に養う家族もなく、すでに両親も亡くなっているから介護の必要もない。

 俺は一人っ子なので兄弟もいない。

 親戚との付き合いも薄い。

 ちゃんと貯金はしていた方だし、割増退職金も貰える。

 しばらくは失業手当で食えるし、両親が住んでいた実家には農地もあり、食うに困ることはないだろうと田舎に引っ込んだまではよかったが……。


「この鳥、ホロホロ鳥に似ていてとても美味しいけど、 この世界ではなんという名前の鳥なんだろう?」


 突然、自宅やその周辺にある農地ごと異世界に飛ばされてしまうなんて、まるで物語だな。

 慌てて家の周囲を探ってみたが、まったく人の気配はない。

 運良くお米や野菜は田畑で自作しており、一緒に移転してきたので助かった。

 水は、庭にある井戸がそのまま使える。

 調味料は味噌を自作しており、醤油は作り方がわからないので、在庫が尽きたら味噌溜まりを利用するしかないか。

 お酒は、その辺で採取した果物やお米で試しに作っているところだ。

 どうせ俺はそこまでお酒にうるさくないので、ようはアルコール成分が入っていて、酔えればいいと考えている。

 甘味はアマズラがあったのでそこから採取し、養蜂ができないかなと、巣箱を作ってミツバチを呼び寄せようとしていた。

 上手くいけばいいのだが。


 そんな自給自足の生活で、今日は狩猟用のエアガンで鳥を打ち落とすことに成功した。

 田畑を荒らす害獣駆除のために罠猟と猟銃の免許を取得し、狩猟用の猟銃とエアガンを購入しておいて助かったと思う。

 この世界にもいた猪や鹿を相手に、山刀やナイフ、自作の槍で戦うのは、大した運動経験もないアラフィフおじさんには辛かったからだ。

 だが、猟銃の弾には限りがあるので大切に使っていくことにする。

 田畑の周囲に罠を仕掛け、弾を自作できそうなエアガンで農作物を狙う鳥や小動物を狙う。

 残念なことに俺は鶏を飼っていなかったので、肉も得られて一石二鳥というやつだ。


「鳥の下処理にも慣れてきたな」


 エアガンで撃ち落としたホロホロ鳥に似た鳥を逆さに吊るし、首を切って血を抜いた。

 血が抜けたら、次は鳥の毛をひたすら抜く! 抜く! 抜く!

 お肉を食べるにはとても手間がかかることに、俺は今の生活を始めてから気がついた。

 抜いた鳥の羽毛はちゃんと取っておいて、あとで羽毛布団でも作ろうかな。

 毛を抜き終わったら、表面を火で炙って残った毛を焼いていく。

 続けて、下腹部をナイフで切り裂いて心臓、レバー、腸などを取り出す。


「あとは、頭と足を切り落としてと。砂肝と腸は中を綺麗に掃除をしてから、ハツとレバーはそのまま一口大にカットして、ニンニク味噌とショウガ醤油に漬ける」


 内蔵は痛むのが早いので、明日にでもニンニク味噌焼きとショウガ醤油焼きにしてお酒のおつまみにしてしまおう。

 こうなると、冷蔵庫が使えなくなってしまったのは痛いな。

 この見渡す限り自然だらけの異世界で、電気を確保するのは難しいだろうから仕方がない。

 無事に下処理を終えた鳥はお腹の中をよく洗い、その中にカットしたニンジン、タマネギ、ジャガイモもあったので、猪の脂身から取ったラードとニンニクの微塵切りで炒めてから詰める。


「鳥のお腹は、削った木の串で留めてと。足も糸で結んで畳み込む。野菜とニンニクを炒めたラードの残りは鳥の表面に塗って……あっ!」


 そういえば、オーブンがなかった。

 電子レンジはあるが、電気がないので使えない。

 幸いうちには竈があったので集めた薪を燃やして使っているが、ようやく竈での調理に慣れてきたところだ。

 大きなフライパンがあるので、これでイケるか?

 木の串で留めたお腹の方から鳥を焼いていき、十分ほどで裏返し、また十分ほど焼く。

 貰い物……会社を希望退職する前に参加した後輩の結婚式の引き出物だ。五万円の実質白ワインと水を入れ、そこから三十分ほど弱火で蒸し焼きにする。

 火力が強すぎると水分がすべて飛んでしまうので、時折様子を見ながら水分を足すのを忘れないようにしないと。

 皮が焦げたり、肉がパサパサになると美味しくないからな。


「もういいかな?」


 蒸し焼きした丸の鳥を鉄串で刺して火の通りを確認するが、もう完全に火は通ったようだ。

 完成した『ホロホロ鳥風の丸焼き野菜詰め』を大皿の上に載せ、竈で炊いていたご飯をお櫃に移す。

 電気とガスを失い、薪と竈でご飯を炊くようになったので不便さを感じることは多かったが、ご飯は竈炊きの方が圧倒的に美味しいと思う。

 ご飯の粒がよく立ち、ピカピカ輝いているのだ。


「あとは、味噌汁を温めてと」


 朝に干し椎茸で出汁を取り、ミョウガと茄子で作った味噌汁を温めていると、ちょうどいいタイミングで家の中に入ってきた人物がいた。


「ユウジ、森で採ってきた薬草とハーブ類を持ってきてあげたわよ。うわぁ、マロマロ鳥の丸焼きが美味しそうね。ご飯も炊き立てじゃないの」


 このホロホロ鳥に似た鳥、マロマロ鳥って言うのか。


「ユーリさん、おすそ分けありがとうございます。よろしければ、一緒にいかがですか?」


「ありがとう。明日、森で採れる甘い果物を持ってきてあげるわ」


 俺が昔読んだファンタジー小説の設定によると、エルフは肉を食べなかったような気がするんだが、やはり創作物と現実とは違うようだ。

 俺の家の周囲には誰も人間は住んでいなかったが、近くの森にはエルフ族が住んでおり、そこの住民であるユーリさんがよく家に遊びに来るようになった。

 日本だと空想の種族であるエルフだが、この世界には実在する。

 その姿はまるで妖精のように美しく、長い金髪が日に当たるとキラキラと光り、神々しくもあった。

 なお、どうして俺が彼女のことを『さん』付けで呼ぶのかといえば、彼女はまだ二十歳前後にしか見えないのに、実年齢が三百歳を超えていたからだ。

 年功序列が染み込んだ元社畜にして日本人としては、年上には敬意を払わなければ。


「ユーリさんもいるのなら、鳥の内臓も焼いて出しますね」


 マロマロ鳥の丸焼き野菜詰め、内蔵のニンニク味噌焼きとショウガ醤油焼き、ご飯、ミョウガと茄子の味噌汁、自家製大根とキュウリの漬物。

 なかなかにボリューミーな食事になったが、ユーリさんがいるから問題ないだろう。


「「いただきます」」


 ちょくちょく俺のところに食事を食べに来るようになったため、自然と『いただきます』を覚えたエルフというのはなかなかにシュールな光景である。

 早速、お皿の上に載っているマロマロ鳥の丸焼き野菜詰めを切り分けていくが、ちゃんとお腹に詰めた野菜にも火が通っていてよかった。


「マロマロ鳥のお肉はサッパリしているけど、旨味が強くて美味しいわ。マロマロ鳥から出た肉汁が、お腹に詰めた野菜にも染みていて最高ね。ご飯おかわり!」


「はい、どうぞ」


 エルフは見た目は非常に華奢なのに、とてもよく食べた。

 なにもユーリさんだけが例外ではないそうだ。

 なんでも、エルフは森のみならず自然界にいる様々な精霊たちと会話をし、時には精霊を駆使しながら魔法を使うそうで、とてつもないエネルギーを使うらしい。

 マロマロ鳥の丸焼き野菜詰めも、内蔵のニンニク味噌焼きとショウガ醤油焼きも四分の三はユーリさんの分で、さらにご飯も丼で食べ、必ずおかわりをしていた。


「お米って、やっぱり美味しいわね」


「この世界に、お米はないのですか?」


「あるのかもしれないけど、これほど美味しくないかもしれないし、普段エルフは草原に生えている麦を食べているわ」


 森に住むエルフたちは、食べるものをすべて狩猟採集で賄い、麦も野生種のものをそのまま食べているようだ。

 農作業をするエルフは存在せず、そりゃあ品種改良されたお米の方が美味しいに決まっている。

 俺が別世界に飛ばされても、日々害獣と戦いながら、自宅周辺の田んぼでお米を作り続けているのは、野生種の麦の味が微妙だからというのもあった。


「ふう、ごちそうさま」


 夕食や翌日の分も考えて作ったんだが、ユーリさんがよく食べるので全部なくなってしまった。


「(美味しそうに食べてくれたらそれでいいんだけど)」


 この世界に飛ばされてきた当初、それまでに色々とあったせいで、俺は他に誰も人間がいないこの環境を喜んでいた。

 だが、 時が経つにつれて段々と寂しくなってきたのは事実で、ユーリさんと知り合えたのは幸運だったと思う。

 人間が一人で生きていくのはなかなかに難しいと思う。


「ユウジ、夕食はなにを作るの?」


「まだ考えてないんですよ」


「さっき、とても美味しそうな猪を見つけたのよ。私が狩ってくるから料理して。私の魔法で狩れば、ユウジのリョウジュウのタマも節約できるでしょう?」


「そうですね。じゃあお願いしようかな」


 この近くに猪がいるとなると、田畑に被害が出るかもしれない。

 罠は沢山仕掛けてあるが、早めに駆除するに越したことはないと思う。


「私は、ミソヅケとカクニ、アブリチャーシューが食べたいわ」


「醤油はまだあるけど、将来に備えて試作する必要があるか……」


 やっぱり、慣れ親しんだ醤油があった方がいいよな。


「ユウジ、私も手伝うわ」


「ありがとうございます」


 亡くなった両親は作っていなかったが、確か祖父母は手作りで醤油を作っていたと聞いたことがある。

 前に蔵の中を探したらそれらしき古い記録が見つかったので、頑張って解析してみることにするか。

 俺、大学では一応史学科だったから……あまり関係ないか。


「じゃあ、早速猪を獲ってくるから」


「俺は田んぼの様子を見に行きます」


「美味しいお米のためだものね」


 猪を狩るために家を出て行った美しい金髪エルフを見送ってから、俺は田んぼの様子を見に行った。

 リストラ、田舎での自給自足生活、異世界移転、金髪美女エルフ。

 人生にはなにがあるかわからないが、段々とそう悪くない生活だなと思えるようになった気がする。


 異世界でも美味しいお米が食べられるよう、頑張って農作業に取り組むことにしよう。










「ユウジ、キノコを沢山持ってきたわよ」


「ええと……。 もの凄い色や形のキノコがありますけど、これって食べられるものなのでしょうか?」


「ユウジ、そんな素人みたいなこと言って。色が派手だから毒キノコ、色が地味だから食べられるキノコ。なんて風説あてにならないのよ」


「それは俺も知っていますが、見たことないキノコばかりなので」


「どれも美味しいわよ。エルフは食べられるけど、人間には毒、なんてこともないから。コレなんて、人間の間ではもの凄い値段で取引されているのよ」


「紫色……高貴な色だからですか?」


「人間って、紫は高貴な色だったんだ。知らなかったわ」




 翌日、ユーリさんが森で採った果物とキノコを沢山持ってきてくれた。

 このところ彼女が家にやって来る頻度が多くなっているが、俺も特に予定があるわけではないのでまったく問題ない。

 なにより寂しくなくていいじゃないか。


「あとはこれね」


「卵ですか。これは鳥の卵ですか?」


「マロマロ鳥の巣を見つけたの。マロマロ鳥の卵は味が濃厚で美味しいわよ」


 ホロホロ鳥に似た鳥の卵か。

 お肉の方はもの凄く美味しいから、これは大いに期待できそうだ。


「ユウジが前に話してくれた『オヤコドン』を作って欲しいのよ」


「親子丼ですか……」


 この前、 茶飲み話でユーリさんに日本の食べ物について色々と説明したのだけど、その中で特に興味を示したのが親子丼だった。

 鳥肉と卵だから親子という説明を、最初受け入れてくれなかったのだ。

 『お肉にした鳥が産んだ卵なら親子だけど、ただ鳥肉と鳥の卵を使っても親子丼にならないような気がするわ。だって血縁じゃないもの』と。

 意外とエルフは理屈屋なんだなと思ったものだが、まさか自分でケチをつけた親子丼が食べたいと言い出すとは思わなかった。


「ネーミングは正しくないけど、とても美味しそうだから」


「わかりました。あっ、でも鳥肉が……」


 昨日、俺がエアガンで撃ち落としたマロマロ鳥は全部食べてしまったからなぁ……。

 主にユーリさんが。


「ないの? マロマロ鳥のお肉」


「なくはないんですよ」


 冷蔵庫がないので、保存を兼ねて味噌漬けにしてあるマロマロ鳥のモモ肉はあるのだけど、これを親子丼の材料に使うと醤油ベースのツユと味が喧嘩してしまうのだ。


「オヤコドンって、味付けがミソだと駄目なの?」


「醤油を使うのが基本ですね。あっ、でも……」


 そういえば、前にどこかのお店で塩親子丼を食べたことがあったな。

 ということは、味噌親子丼があっても問題ないのか。


「作ってみましょうよ、味噌親子丼」


「そうですね。作ってみましょう」


 というわけで、味噌親子丼の調理に入ることにした。

 自作している味噌の方が在庫が沢山あるので、醤油が作れるようになるまでは、味噌で代用できるものはそうしていかないとな。


「味噌漬けしてあったマロマロ鳥のムネ肉を一口大にカットする。筋などは取り除く。タマネギもカットして、出汁……出汁かぁ……」


 異世界で生活するようになって実感したのは、出汁のありがたさだよなぁ。

 一部では批判する人もいる市販の出汁や旨味調味料だけど、自分で出汁をとるとなると本当に手間がかかるのだ。

 おかげでもう在庫がないので、今日はユーリさんが持ってきてくれたキノコで旨味を補うことにしよう。


「水、味噌漬けで使った味噌、アマズラから採った甘味料、酒、マロマロ鳥のムネ肉、タマネギ、謎キノコを煮込みます」


 親子丼専用の鍋はないので、今日もフライパンで仕上げることにする。

 グツグツと煮えてきた鳥肉と野菜が美味しそうだ。

 味噌の香りも食欲を誘い、味噌親子丼も悪くないような気がしてきた。


「さて親子丼だが、卵を半熟で仕上げるべきか。それともしっかりと火を通すべきか……」


 ここは日本ではないので、卵を生で食べるのは危険な気がするのだ。


「卵は半熟がいいに決まっているわ」


「あの……。 エルフは生卵でお腹を壊すことがないんですか?」


「うーーーん、昔はあったって聞いたけど、これを飲んでから食べれば大丈夫だから!」


 と言って、ユーリさんが俺に見せてくれたのは、ガラスの瓶に入ったなにやら薬のようなものであった。

 色が赤い液体……しかも原色系で毒々しい色だな。


「これは腹痛を治す魔法薬だけど、先に飲んでおけば腹痛予防もできるから」


「凄い薬ですね……」


 なるほど。

 卵を生で食べてもお腹を壊さないよう、先に魔法薬を飲んでおくのか。

 エルフって、日本人よりも生で卵を食べようとする情熱が上なのかもしれない。


「わかりました。じゃあ半熟で仕上げますね」


 マロマロ鳥の卵を割って、さっとかき混ぜる。

 この時に、卵をかき混ぜすぎないのがコツだ。

 黄身と白身が分かれていると火の通りが不均一になり、トロトロに仕上がるからだ。

 まずは、溶いた卵の三分の二をよく煮えた鳥肉とタマネギ、キノコに回しかけていく。

 フライパンに蓋をして卵を固めてから、火を止めて残り三分の一の卵を回しかければ、半熟でフワフワの『味噌キノコ親子丼』の完成だ。


「丼にご飯をよそい、その上に完成した味噌キノコ親子丼を載せ、仕上げに薬味の小ネギを刻んだものを振りかけて完成だ」


 小ネギは、自宅の畑に植わっているものである。


「うわぁ、美味しそうね」


 自家製のセロリの漬物と、朝に作ったキャベツとニンジンの味噌汁を一緒に出し、今日も二人での昼食となった。


「やっぱり、ユウジの作る料理は美味しいわ。半熟の卵がトロリとして、お肉も適度な歯応えがあって、キノコの触感もいいアクセントね。汁が染みたご飯も最高! おかわり!」


「どうぞ」


 ユーリさんはよく食べるけど、とても美味しそうに食べてくれるので作り甲斐がある。

 一人で食事を作って食べていた時は、最初は気ままでよかったんだけど、しばらくすると寂しさも感じてしまって……。

 だから、頻繁にユーリさんが遊びに来るようになったのを、俺は内心嬉しく思っていた。


「ごちそうざま」


「デザートは、ユーリさんが持ってきたアケビを出しますね」


 種を含んだ白い実の部分をスプーンですくって食べると、上品な甘さがしてとても美味しかった。

 アケビはまだ両親が生きていた頃、よく食べた懐かしい味だ。


「ユウジの家って広いのね」


「昔は、一人暮らしじゃなかったんですよ」


 祖父母と両親、俺が住んでいたけど、俺が東京の大学に入学し、就職氷河期を乗り越えてどうにか都内の会社に就職してから二十年以上。

 その間に祖父母、父と相次いで亡くなり、最後は母が一人で暮らしていたけど、ついに介護が必要になって介護施設に入所した。

 都内で働いていた俺はこの家に戻るわけにいかず、その間に母も亡くなり、この家は俺がリストラされるまでの数年間、無人だったのだ。

 そしてリストラされた俺は、まるで都落ちのようにこの家に戻って来て、農業と害獣駆除のための狩猟を始めた。

 経験がないので最初はどうなるか心配だったけど、意外となんとかやれている。

 子供の頃はこんな生活は嫌だったんだけど、今は悪くないと思っている。

 人間は、年を取ると考え方が変わるものだな。


「ユウジは一人で寂しくないの?」


「前は気楽でいいと思っていたんですけどね。なぜかここに飛ばされてからは、どこか寂しさを感じることもあります。年老いた証拠でしょうか?」


 俺も年を取って、感傷的になったのかもしれない。


「まだ五十歳にもなっていないのに、ユウジは年寄り臭いことを言うわね。うちの村の長老たちじゃないんだから」


「エルフの長老って、いくつなんです?」


「みんな、余裕で千歳を超えているわよ」


 千歳って……。

 エルフは長生きだな。


「口うるさい人が多くて、私たちのような若いエルフは辟易しているのよ」


 三百歳で若いのか。

 やはりエルフは長生きだな。


「ジェネレーションギャップというやつですか?」


「なにそれ?」


「俺がいた世界の言葉ですよ。世代間の価値観の違いと言いますか。人間もエルフも年代が変われば、全然考え方が違うということです」


「そうなのよ! だから私は毎日村に戻るのが嫌なんだけど、森で野営するのも結構大変なの。だからここに住むわ!」


「ええっ! ここにですか?」


「駄目?」


「いやぁ……駄目ってことはないですけど……」


 俺もまだ男だったようだ。

 金髪美女エルフの願いを断れなかったのだから。

 この家は8LDKで、納屋と蔵は別という造りなので、居候が一人や二人増えても問題ないというのもあった。

 むしろ部屋は余りまくっている。


「あとね。ユウジは、一生懸命お米を作っているじゃないの。でも、一人だと害獣に対応できないで収穫できなくなってしまうかもしれない。私はお米が好きだからそれは嫌なのよ。ということで、ユウジ、私のお部屋はどこかしら?」


「空いている部屋ならどこでもいいですよ」


「ありがとう、ユウジ。荷物を運び込んだら、田んぼを荒らす害獣がいないか、一緒に偵察に行きましょう。夕食の食材も探さないといけないし、この世界の食べられる野草や薬草を教えてあげるわ。そうだ! 近くの川で魚やエビも獲れるのよ。ユウジならどうやって調理するか教えて」


「じゃあ、行きましょうか」


「……」


「どうかしましたか?」


「私たちって、知り合って結構経ったのに、ユウジはいつまでも他人行儀な口調なのね」


「それは……。ユーリさんが年上だからですよ」


 悲しいことに、会社員時代の癖ってやつだな。


「確かにエルフである私の方が年上だけど、見た目はユウジの方が年上に見えるじゃないの。私のようにもっと砕けた口調で。はい、どうぞ」


「じゃあ、行こうか。ユーリ」


「それでいいのよ。このところお肉が続いてたから、今日は魚とエビをメインにしましょう」


「どうやって料理しようかな?」


 味噌キノコ親子丼はとても美味しかったが、まさかユーリさんと同居することになってしまうとは。

 誰も知り合いがいない世界に飛ばされたので、今さら世間の目を気にしても仕方がないのも事実。

 しばらくは、金髪美女エルフと共に、気ままに生活してみることにしよう。

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