後編
その後の日本はこんな国になった。
宗教、家族、私有財産、自由、民主主義を消し去った。国家や支配層のエリートがほとんどすべてを所有し、統制した(財産権と相続権の廃止、銀行、通信、輸送の国家による中央集権化など)。銃、監獄、裁判なしの処刑が必ず必要となった。国家や支配層のエリートが国民の能力とニーズを決めた。全ての私的行為は国家に奉仕するために行われるべきとする。私益と公益の区別はない。あらゆる事項が政治化するので、どのように考え、何をすべきか、国家や支配層のエリートが全ての人に命令することになる。権力を維持するために国民が触れられる情報や知識を統制する。良心の囚人(信念や信仰、人種、発言内容、あるいはセクシュアリティで囚われる非暴力の人)が存在する。宗教・文化・経済・軍事の専門家や知識人の政治的な中立性を認めない。密告や不穏分子とみなされた人への私刑を奨励する。国家が資源・資産・労働力を集める場合、一般市民の生活に配慮する必要はない。必然的に軍国主義となった。
そんな国で俺、東山慎吾22歳は火星植民事業を手掛ける国営企業の新入社員となった。
入社式で社長が挨拶をする。
「入社おめでとうございます。わが社は火星植民事業において、あなた方の能力を存分に発揮していただきます。皆さんの適正に応じて、以下の2つの仕事をしていただく予定です。1つは、火星での作業全般の管理監督業務、もう1つは、ロボットスーツを用いた警備業務となります。また、どちらの仕事もロボットスーツを着用して行っていただくことになります。これからはAIの時代であり、人間は機械に使われ搾取される存在になります。しかしご安心ください。当社では皆さんをそのような立場に追い込むことは決してありません。当社の社員として、人間らしい豊かな生活を送って頂きたいと考えております我が社の方針は、『全員参加』と『自由競争』であります。もちろん、皆さんには充分な報酬をお支払いしますし、福利厚生施設の利用や、様々なサービスを受ける権利を有しています。どうかこの会社の一員となって、共に世界を変えていきましょう」
社長の言葉が終わると、会場から拍手が起こった。
翌日、俺の社会人生活は終わりを告げた。会社が反政府軍の襲撃を受けたからだ。
「逃げろ!」
「殺されるぞ!」
「助けてくれー!!」
俺は同僚と共に逃げ出した。
「どこへ逃げる?」
「どこでもいい!とにかく、ここじゃない場所ならどこでもいい!」
そう言いながら、ひたすら走り続けた。
やがて、目の前に一筋の道が現れた。
「これだ!」
僕はその道をまっすぐ進んだ。
「え?」
目の前に現れた光景を見て、唖然とした。
「何だよ?これは……」
そこは地獄だった。
「あぁ……」
「これはもうだめですね」
「えぇ、そうね」
「あーあ」
「残念です」
「ほんとうに」
「どうしましょう」
「しょうがないわよ」
「まぁ、そうですよねぇ」
「うん、仕方ないよね」
「じゃあ……」
「それでは……」
「「「お疲れさまでした~♪」」」
逃げまどっていた人たちが錯乱状態に陥った。そこへ反政府軍が現れる。
「「「「「うぉおおーっ!!!」」」」」
ズダダダダッ!銃声が鳴り響く。
そこへ街の中心部の巨大モニターから緊急メッセージが発せられる。
「国家緊急事態宣言を発出する。軍に警告不要の火器使用を許可した。住民はすぐにシェルターに避難しなさい。繰り返す。国家緊急事態宣言を発出する。軍に警告不要の火器使用を許可した。住民はすぐにシェルターに避難しなさい。」
メッセージの後すぐに治安部隊が到着し反政府軍との戦闘が始まった。戦闘開始から5時間後、治安部隊が反政府軍が退却を開始した。
「全市民は直ちに地下へ避難してください。繰り返します……」
10万人いた首都の人口は1時間後には3千人になっていた。
この事態を受けて、政府は戒厳令を発令した。
翌日、政府により全国民に向けてテレビを通じて演説が行われた。
「我々は、正義のために戦っている。」
「我々が恐れているのは、死ではない。恐怖でもない。敗北である。」
「我々は、民主主義と自由の国であり続けるために戦うのだ。」
「我々の目的はただ一つ。勝利することのみである!」
「諸君らの中に裏切り者がいる。そいつは、敵を支援しているだけでなく、祖国を裏切ろうとしている。それは許されざる行為だ!それは許されざる行為だ!そのような者を決して許してはならない!」
「これは単なる内戦ではなく、国家の存亡をかけた戦争である。」
「今こそ、団結せよ!!!!」
こうして、政府はクーデターを企てたテロリストたちを殲滅し、平和な世界を取り戻した。
「なんなんだ、このふざけた話は……」
俺は絶句していた。あまりにも馬鹿げた話だったからだ。
「信じられないかもしれないが、これが真実だ。」
そう言ったのは、俺の目の前に座っている男だった。
「俺は……俺たちはあの国を正すことができなかった。その結果が今の日本だよ。」
彼は自嘲気味に笑った。
「俺の本名は『水中悠馬』。今は反政府軍のリーダーをやってるが、元々はお前たちと同じ日本人だ。いや、正確には、お前たちの方が日本人らしいよ。」
「どういうことだ?」
俺は思わず聞き返した。
「言葉の通りさ。あの国は、外国から見れば理想郷だろうが、日本という国の形を消してしまえば、ただの独裁国家に過ぎないということだ。」
「じゃあ、なぜあんたがそんなことをしているんだ? いくら考えても意味が分からないぞ!」
俺は苛立ちを隠せなかった。
「そうだな、まずはそこから説明しよう。」
悠馬と名乗る男は話し始めた。
「俺はあの国で生まれ育って、あの国に絶望し、そしてこの日本に希望を託した人間だ。
だから、あの国が間違っていることを知っている。
そして、それを止めるために戦っている。」
「それは分かるけど、何のために戦うのかがよく分からない。俺たちは政府と戦いたいわけじゃないし、そんな義理もないはずだ。
それに、なんであんたが俺たちに協力を求める必要があるんだ?」
「確かにお前の言うとおりだ。だが、それでもなお、私は戦わなければならないのだ。」
「どういうことだ? その理由を説明してくれないか?」
「理由は3つある。1つ目は、日本という国の未来を守るためだ。
2つ目に、私の祖国に対する愛情からだ。
3つ目の理由として、私が愛国者であるということを強調するためだ。」
「愛国心なんてものは、ただの口実に過ぎないだろう! 本当の理由を教えろ!」
「いいだろう。まず、第1の理由について話そう。この国では、一部の特権的な人々だけが富を独占している。政治家、大企業の経営者、医師、弁護士、官僚、芸能人、スポーツ選手、学者、芸術家といった人々が、彼らの権力を維持させるために、莫大な財産を築いている。彼らは、税金を払っていない。それどころか、自分の懐を肥やすために税を無駄遣いしている。」
「それは君たちも同じじゃないか!」
「いいや違うね。私は彼らにも納税の義務があると思う。しかし、彼らのほとんどは、自分の財産を守るために脱税をしている。つまり、これは合法だ。それに、私の場合は、きちんと社会に貢献している。例えば、日本という国のシステムを維持することは、我々にとって必要不可欠なことだ。また、私は、自分が研究した内容を本にして売ることで収入を得ている。それも、立派な貢献だと思うが?」
「でも、あなたの本を買わされる人の気持ちになってみろよ!」
「君は俺のファンなんじゃないのか? だから、俺が書いた本を喜んでくれると思っていたんだが」
「俺が言ってるのはそういうことじゃなくて! 俺は、あなたの本が読みたくて、お金を払っているわけじゃないんです!」
「なら、どうして?」
「あなたが好きだからです!」
「えっ……それってどういう意味なんだ?」
「いや、それは……つまり、恋愛的な意味です!」
「そうなのかい……いや、そうだったのか……」
「はい」
俺は顔から火が出るような思いになった。俺の告白を聞いて、悠馬は顔を赤らめていた。どうやら、僕が言ったことを理解してくれたようだ。
「それで、君の意見は分かったけど、それだと私の書いた本を読む人はいなくなってしまうなあ」
「そんなことはありません! この国の人たちはみんな自分の好きなことだけをして生きているじゃないですか。そんな人たちに娯楽を提供しようと思ったら、こういうものしかできないんですよ!」
「なるほどねえ。確かにそういう人たちもいるだろうね。でも、私は違うんだ。」
「何が違うんですか? 現に今だってこうして話しているだけでしょう。こんな風にお話しするのは楽しいことですよね?」
「まあ、そうだが、それだけではダメなのだよ。」
「どうしてですか?」
「それは私が小説家だからだよ。君は小説を読んだことがあるかい?」
「あります。本屋さんに行った時に、たまたま目について買って読んだことがあります。確か『ミーたちの新世界』っていうタイトルだったと思います。」
「そう、それだ。あれはいい作品だったな。私はあの作品の熱狂的なファンなんだ。特に主人公がとても好きだったんだよ。」
「それでどうしたんですか?」
「いや、それがさ、主人公の女の子は実は宇宙人だったんだ。ところが、ある日突然……」
俺がはっ、として悠馬の話に割り込む。
「そんな話を聞きたいんじゃない!あなたが戦う理由です。確か理由が3つあるんでしたよね!?」
「……もう時間だ。すまないが行かなくてはならない」
「あ、待って!」
悠馬は迎えのヘリに乗ってその場を去った。
それから1か月後、日本は崩壊した……。
日本は国際連合の委任統治領となった。そして俺、東山慎吾は国連軍の一員として日本に駐留していた。
俺は今、とある部隊の隊長として任務にあたっている。
「さあ、今日も頑張るか!」
そう言って、朝の準備をする。そして、仕事場に向かうため家を出た。これが俺の新しい日常だった……。
あの件の後の水中悠馬のことは一切わからない。報道もされていない。秘密裏に殺されてしまったのだろうか。そんなことを思っていたある日、俺の前に悠馬が現れた。
「水中さん!?」
「やあ」
「あれからどうしたんです!?」
「特に変わったことはないよ」
「でも、あなたは反政府軍のリーダーだったんでしょう?」
「あれは嘘だ」
「え?」
呆然とする俺に悠馬は話を続けた。
「君の前だったからちょっとかっこつけたかっただけだよ」
「じゃあ……水中さんはただの作家だったというだけなんですね?」
「そうだよ」
「今は何をやっているんですか?」
「それは……」
悠馬が口ごもる。
「なんか後ろめたいことでもやっているんですか?」
「じゃあな!」
悠馬はそそくさと立ち去った。なんだったんだろう……。悠馬が立ち去った後、家までの道を歩く。とても長い道。一応のこの平穏な日々は長く続くだろうか?日本だったこの地にどんな未来が待っているのだろうか?誰も知る由もない。それでも、俺は生き続けなきゃいけない。あの内戦で俺の周りの人たちがたくさん死んだ。生きなきゃ。俺は家までの道を歩き続けた……。
完
現代日本ディストピア習作 シカンタザ(AI使用) @shikantaza
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