中編
決起した若者たちのリーダーは、正木悠馬という。父親が陸上自衛隊の幕僚長である、というだけで担ぎ上げられただけに過ぎない。
彼の父親は自衛官だったが、出世コースから外れた人物だったらしい。
そんな人間が政治家になるには、国民からの信頼を勝ち取る必要があった。そのためには手っ取り早く金が必要だったのだ。
そして、自衛隊内の同志を集め、クーデターを起こした。だが、それは失敗に終わった。
当然だ。日本中がクーデターに賛成していたわけではなかったからだ。
それでも、父親のクーデターに協力した者は罪に問われた。
結局、父親は刑務所に入ることはなかったが、資産の大半を失い、家族もバラバラになってしまった。
悠馬は母親とともに親戚の家に預けられることになった。
それから10年――。
彼は政治家になりたかったわけでも、正義感が強かったわけでもない。ただ、自分の母親が楽をして生きられるようにしたいと思っただけだ。
だから、政治の世界などどうでもいいと思っていたのだが、今や彼の立場は大きく変わってしまった。
悠馬にとって幸いなのは、自分が人質になったおかげで、仲間たちの命が助かったことだった。
もし、彼が捕まっていなかったら、他の仲間は全員殺されてしまっていたかもしれない。
それだけは何としても避けなければならなかった。もちろん、日本政府が約束を守る保証はない。
しかし、ここで日本政府に対して抵抗してしまえば、今度は自分たちの命がない。
「くそ! 俺は一体何をやってるんだ?」
悠馬は歯ぎしりをした。
今の彼にできることといえば、こうしてじっとしていることしかない。それが何よりも腹立たしかった。
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
妹の声が聞こえてきた。
妹の祐奈は小学校5年生だ。彼女はこの家の長女として、いつも両親を支えている。
「ああ……。心配かけてごめんな」
そう言ってやるのが精一杯だった。
悠馬たちがいる場所は東京郊外にある古い洋館だった。周りには鬱蒼とした森が広がっている。
ここは父親が持っていた別荘の一つだ。父親はそれなりのお金を持っていた。その財産を使って買ったものだ。
もっとも、今はここに住める状態ではなかった。あちこちが崩れ落ちており、とても人が住めるような環境ではない。
「お父さんたちはいつ帰ってくるのかしらね」
祐奈が不安そうな顔で言う。父親はずっと帰ってきていない。
「さあな。俺たちのことなんて忘れちまったんじゃないのか」
悠馬が自嘲気味に言う。すると、ドアの向こう側から声がした。
「おい、ガキども。ちょっと来い!」
悠馬と祐奈はビクッとする。
誰か来たようだ。おそらく政府の人間だろう。彼らはここへ来る前に何度も確認しているはずだ。ここには自分たちしかいないことを。
それなのにわざわざ呼び出すということは、何か重要な用事があるに違いない。
悠馬は覚悟を決めた。もうすぐ自分は殺されるかもしれない。
その時はせめて祐奈だけでも逃さなければならない。
「行くぞ、祐奈」
「うん」
2人がドアを開けると、怪しい男たちがいた。
「正木悠馬と祐奈だな。お前たちに反政府軍のリーダーになってもらう。拒否をしたら両親の命はないものと思え」
「なんだって!?」
悠馬は驚愕の声を上げた。こうしてまた反政府運動に身を投じることになる。
悠馬は反政府軍のリーダー就任のあいさつをした。
「俺たちのお父さんやお母さんを苦しめた政治家たちを許せない! 俺たちと一緒に戦ってくれないか?」
人々は口々に叫んだ。
「そうだー」
「ぶっ殺せ!」
「俺も戦うぞ!」
たちまち、会場には怒号が飛び交った。
「ありがとう! みんなのおかげで勇気が出たよ。それでは、まずは敵を倒すための準備から始めようと思う。今日はそのための武器を取りに来てもらった。この中には銃に触れたことのない人もいるんじゃないかな。安心してくれ。僕が使い方を教えるから」
悠馬はそう言いながら、ライフルを組み立てていく。
実は、これを使えるようになったのは、ある父親のおかげなのだ。
悠馬はライフルを組み立てると
「民の口をふさぐのは、川をせき止めるよりも危険である。せき止められた水が一時に決壊したならば、必ず多くの人を傷つける。民の口をふさぐのも同様なのである。もうこの政治はこの銃によって決壊するんだ。この運動は不退不転なり、不断不絶なり!民衆は、一度動き始めたら、決して止まらない。たとえ政府がどんな手段を用いて止めようとしても、それは無駄である!」
彼、リーダーとしての才能を発揮していた。
「みんな!銃だけでない!とっておきの秘密兵器がある!諸君、見てくれ!」
悠馬に促され、反政府軍の高官が見せたの兵器は、まさに衝撃的だった。
「これは戦車砲を改造したものだ。これなら奴らを一掃できる。今こそ、革命を起こす時だ!」
悠馬は同志たちに向かって叫ぶ。
「おおーっ!!」
再び、群衆は沸き立った。
そして政府との戦いが始まった。
最初は銃での戦いだったが、次第に強力な武器を手に入れていき、政府軍を圧倒していった。反政府軍は快進撃を続けていた。
そして、ついに政府軍の本拠地に攻撃を仕掛けることになったのだ。悠馬と祐奈は反政府軍の幹部たちから信頼されていた。特に悠馬の存在は大きかった。彼はリーダーになる前から銃器の扱いに長けていたし、何よりリーダーとしての資質を備えていた。
「さあ、いよいよ政府軍との決戦だ!」
悠馬が演説すると、聴衆たちは熱狂に包まれた。
「撃てぇーッ!!撃ちまくれェーッ!!!」
悠馬の号令一下、兵士たちは一斉に発砲を開始した。しかし、政府軍の兵士は特製の防弾チョッキを着ていた。
「くそっ!なんて頑丈な鎧だ……」
悠馬は悔しげに呟いたが、すぐに気を取り直して指示を出した。
「ひるむな!弾幕を張って、敵の前進を食い止めるんだ!」
悠馬は兵士を鼓舞した。
「うぉーッ!」
兵士たちは勇ましい声を上げて銃撃を続けた。
しかし、やがて銃弾を使い果たしてしまった。
「しまった……弾薬が尽きたか」
反政府軍の進撃もここまで。悠馬と一族郎党皆殺しの刑に処された。
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