現代日本ディストピア習作

シカンタザ(AI使用)

前編

「新しい時代を拓く。新しい社会を切り拓いていく。今年の目標としての開拓の『拓』。これをテーマにしたいと思う」

暁総理大臣が年初の講演会で抱負を述べた。

「火星への本格的な植民が始まり、新しい世界を拓くということで、皆さんもいろいろと思いを巡らせていると思います。私自身、この国の将来に希望を持ちたいと思っております。その希望というのは、何といっても国民の皆様の幸せです。私はこの国に生まれたことを感謝し、国民の皆様には心から幸せになっていただきたいと願っております」

暁総理はそう言って深々と頭を下げた。会場からは盛大な拍手が起こった。

「しかし、そのためには何よりもまず私たち自身が幸福でなければなりません。そのためには何をすべきか――。今日はそのことについてお話ししたいと思います」

再び大きな拍手が起こる。

「私たちは今、かつてないほどの繁栄の時代を迎えています。富める者も増えました。しかし、その一方で貧しき者もまた増えております。これは決して好ましいことではありません。そこで、富の再分配について考えてみたいと思います」

会場が再びざわつく。

「再配分と言っても、それは単に税金や保険料を増やすということではないのです。国民一人ひとりが自分の力で自分の生活を守っていける力を身につけることが必要だと考えます。具体的には教育と医療の充実です。そして、もうひとつ重要なことがあります。それは、豊かな人が貧しい人に施すという意識を持つことです」

再び拍手が起きる。

「今の日本は平和で豊かであり、多くの人は恵まれていると感じています。それならば、自分たちはもっと豊かになれるはずだと考える人も多いでしょう。もちろん、そのとおりだと思います。ただし、そのためにはどうすればよいのか? それは個人の努力だけではなかなか難しいことでしょう。特に若い人たちはいろいろな誘惑も多く、自分を見つめ直すことも大変かもしれません。そんな人たちのために国はできる限りのことをしてあげなければならないと考えます。それが政治の責任なのです」

ここで一呼吸おいて聴衆の反応を見る。

「国ができることの一つは、教育を受けさせる機会を提供することです。そのための奨学金制度を充実させていきたいと考えております。さらに、優秀な人材を育てるために、高校までの学費は完全に無料とし、大学についても無償化を実現していきたいと考えております」

会場から驚きの声が上がる。

「しかし、ただ無条件に援助するわけではありません。奨学金にしても授業料免除にしても、返済義務のある貸与制ではなく、給付型にしたいと考えています。つまり、成績優秀者には返還不要の恩典を与えようということです」

これにはさすがにどよめきが起きた。

「現在、日本では経済的に困窮している家庭に生まれて、大学に進学できない子供たちが数多くいます。そういう方々にもチャンスが与えられるようにしなければなりません。幸いにして我が国では昨年、『社会的要請の高い職業に関する特例措置法』が成立し、一定の条件の下に高卒資格を得られるようになりました。これによって高校に進学しながら働くことも可能になりました。この制度をさらに拡充し、誰でも希望すれば高校卒業資格を取得できるようにします。このことによって、貧困ゆえに進学を諦めていた高校生たちが救われることになります」

「素晴らしい!」

「いいぞ! 暁さん!」

「ありがとうございます!」

会場からは大きな拍手が湧き上がった。

「このような形で……」

バタバタバタ!会場に乱入する集団が現れた。

「なんだなんだ!?」

聴衆がどよめく。

「暁総理!ここで死んでもらう!」

集団の一人が火炎瓶を投げた。残りの者が刃物を持って舞台へ上がろうとする。

「うわあああ!!」

会場はパニック状態になった。

「総理を守れ!」

SPが総理の周りに集まった。

「みんな落ち着け!」

会場警備の責任者、浅沼警部補(38)の指示で警官隊が突入した。あっという間に暴徒を鎮圧し、怪我人も出さずに事態を収めた。

この事件によって、この日の講演は中止になった。

しかし、この一件をきっかけに、日本中で反政府デモが頻発した。そして、それに呼応するように各地で暴動が発生した。

政府は治安出動し、鎮圧にあたったものの、混乱を収めることはできなかった。

一方、野党はこの機に乗じて内閣不信任案を提出、与党はこれを可決させ、衆議院解散総選挙へと踏み切った。

「国民の皆様、どうか冷静になってください。私たちには暴力に訴えて政権を奪うようなことはできません。憲法九条の精神を踏みにじる行為です。お願いいたします」

選挙カーの中で暁総理大臣は訴え続けた。しかし、その声も空しく、与党は議席を大幅に減らした。

「これが新しい時代の幕開けなのか?」

テレビのニュースを見ながら少年は呟いていた。

「どうなんだろうね」

少年の姉も複雑な表情をしている。

「でも、これで少しは世の中が良くなるといいよね」

「そうだな」

そう答えたものの、僕自身はあまり期待していなかった。

あの事件の後、確かに社会情勢は大きく変わった。しかし、それは一部の富裕層による支配体制が変わっただけで、庶民の生活は何も変わらないのではないかと思っていたからだ。

政権交代し、総理となった時雨総理がやったことは、旧政権に近しい人物を粛清することだった。

まず、前総理の個人的な友人や親戚縁者など、親しい間柄の人物を次々と逮捕していった。彼らは裁判なしで次々に処刑されていった。

次に、前総理にとって都合の悪い情報をネットで流したり、SNSに書き込んだりした人々も次々と逮捕された。

さらに、マスコミに対しても厳しい対応をとった。特にテレビに対しては放送免許のはく奪を含む強硬策に出た。

一方で、野党に対しては比較的寛容な態度を見せた。

これまでは前政権の政策を批判することはあっても、それに代わる代案を提示することができなかった。そのため、批判する対象を失ってしまい、野党は存在意義を失っていたのだ。しかし、今回の事件を受けて、多くの国民は怒りを覚えた。そして、それを原動力として、新たな政党が次々と生まれていった。

中でも一番大きな勢力となったのは「反国晴党」という新自由主義を掲げる左派系の政党である。この政党の特徴は既存の政治システムを否定していることにある。政治家の世襲を禁止し、官僚や大企業の既得権益を排除し、富の再分配を推し進める。その理念を実現するために、あらゆる手段を使う。それがたとえ非合法的なことでも厭わない。実際、過去に暗殺未遂事件が起きているほどである。

また、若者の取り込みにも積極的だ。若年層への教育に力を入れることで、若い世代の支持を得ようとしている。

そんな彼らが次の標的にしたのは、よりにもよって自分たちを支持する若者の父親であった。

父親たちはいわゆる"お金持ち"で、多くの企業を傘下におさめ、莫大な資産を持っていた。

そのため、以前から政界に進出するのではないかという噂があった。事実、何度かそのような話もあったらしい。しかし、結局はそういう道を選ばなかった。それどころか、自分の会社が政治献金することすら拒否していた。

「俺たちは金儲けのために働いているんじゃない。自分たちの信念に基づいて行動しているんだ」というのが彼らの口癖だった。

その彼らが突然、逮捕されたと聞いた時にはさすがに驚いた。

「おい、どういうことだ? なぜ父さんが逮捕されるんだよ!?」

若者らは叫んだ。

「これは国家反逆罪にあたる」

時雨総理と反国晴党党首は冷たく言い放った。

「ふざけるな!」

若者たちは決起する。

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