雨
姿を消した四人が次に姿を現した場所は、崩れ落ちているダンジョンから離れた崖の上だった。
遠くの方には細長いダンジョンが徐々に低くなり、崩れ落ちているのが見える。
空には暗雲がたちこめ、冷たい雨が降り注ぐぎその場の全員を冷やす。
雫が周りに立っている樹木の葉を濡らし、音を立てる。
地面に倒れているフォンセとカマルに、ルーナは近づき手を伸ばした。
「…………お、兄ちゃん……。カマル、お兄ちゃん……」
掠れる声で二人の名前を呼ぶが、いつもの返事はない。それでも、何度も何度も名前を呼び続ける。
嗚咽を漏らし、地面に額をつけ両手で土を掴む。汚れるスカートなど気にせず、ただただ泣きじゃくる。
サタンは星壱郎の体から抜け、先程のスーツを身にまとった姿を現した。
彼の瞳は元の非対称に戻り、視線を雨が降り注ぐ上空へと向けた。
雨が星壱郎を濡らしていく。
『主』
「分かっているよサタン。ここで、立ち止まる訳にはいかないんだ」
サタンの言葉に、星壱郎は感情の無い声で返す。
今だ二人の死を受け止められていないルーナに星壱郎が近づき、左肩に手を置く。
「せ、星壱郎、さん。なんで、なんで……、こんなことになるの……。私達は、いつも三人、一緒だったのに……」
「…………ごめん。ごめんな……」
ルーナの言葉に、星壱郎はその場に片膝をつき「ごめん」しか言わない。
その言葉に、彼女は体をゆっくりと起こし、彼に顔を向ける。
「許せない。許さない。これは、誰かが仕組んだことだ。仕組まれたんだ……」
憎しみの込められた声が、雨音と共に響く。星壱郎はその言葉に、何も返さない。
ただ、地面に横に乗っている二人を見続けている。
「…………うん。俺も、許さない」
その声には抑揚がない。憎しみや怒りすら感じられるず、ただの〈無〉しか、分からない。
ダンジョンが完全に崩れ落ち、星壱郎達は、完全なるダンジョン攻略を果たした。
大きな代償を払って──……
※※
雨が降り注ぐ中、二人の体を星壱郎とサタンが崖の反対側にあった森の中へと運ぶ。
野生の動物などおらず、モンスターの気配もない。
そこに、手で星壱郎とルーナが二つの穴を掘り、二人を埋めた。
徐々に土が被さる二人を見届け、彼は目を閉じた。
そして、完全に二人を埋め、手を合わせる。
「…………行こう、星壱郎さん」
「あぁ」
言葉を交わし、簡単になってしまった二人のお墓に背を向ける。
「────行ってきます」
星壱郎は二人に言い残し、三人はその場から離れた。
雨が二人の墓替わりに置かれた少し大きな石を濡らしている。
天候まで二人の死を惜しむように……。
少し歩いていると、サタンが星壱郎を呼ぶ。
『主』
「どうしたのサタン」
『こちらを……』
マントの内側から右手を出し、星壱郎に何かを渡す。それは、藍色と黒色の二丁拳銃。
それを見た時、星壱郎が目を開きサタンを見上げた。
『人間には、このようなものが必要だと思った迄だ。あっても問題ないだろう』
「…………ありがとう、サタン」
二丁拳銃を受け取り、最後に彼は後ろを振り向く。そこには雨が当たり、揺れる葉達が雫を地面に落としていた。
「…………これが、俺の考えた物語──か」
その言葉を最後に、星壱郎はルーナの背中を追い、闇の中へと姿を消した──……
売れない物書き青年が自分の書いた小説に召喚士としていた転移した話。美少女ヒーラーと一緒に異世界冒険生活を始めました
─完─
売れない物書き青年が自分の書いた小説に召喚士としていた転移した話。美少女ヒーラーと一緒に異世界冒険生活を始めました 桜桃 @sakurannbo
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