全てを
魔法陣を書いていないにも関わらず、星壱郎は体の向きをワイヴァーンへとゆっくり向け、召喚魔術を行った。
すると、何も書かれていなかった彼の足元に突如として魔法陣が大きく浮き出てきた。
紫色に光が輝き、星壱郎の後ろ、魔法陣から一人の男性が黒いマントで体を隠し、姿を現した。
耳が見え隠れするほど黒髪に、尖った耳。
閉じられていた目がゆっくりと開かれ、真紅に染められている瞳が姿を現す。
妖しい笑みを浮かべている口から覗く八重歯が、男性の感情に乗っかるように光っていた。
『我を呼び出すとは──。貴様、何者だ?』
マントで体を隠している青年──サタンは、楽しげに目を細め星壱郎に問いかける。
鋭く光る瞳が彼を捉えているが、今の星壱郎にはそのようなことなど関係ない。体を震わすことなどせず、見つめ返した。
「俺の名前は神咲星壱郎。召喚士であり、お前の主となる者だ」
力強く言い放ち、挑むような瞳を向ける。その瞳を受け取ったサタンは、口を歪ませ笑い声をあげる。
『ハッハッハッ!! 面白い人間だ。だが、我を呼び出すということは、それ相応の代償がある。分かっておるな?』
「あぁ。なんでいい。お前が欲しいもん。俺が出せるものならなんでも出してやる。払ってやる。だから──この腐った世界の全てを制圧しろ!!!!!」
憎しみの込められた血走った瞳を開き、喉が切れそうなほどの声量で叫んだ。
『────
楽しげにサタンは口を開いた。すると、ずっとマントで身を隠していたサタンは、両手を左右に広げた。
黒いスーツを身にまとい、首元には白いカフス。
右肩から左の胸ポケットには二本の鎖が装飾されており、光っていた。
手には黒い手袋をはめており、足元は黒い革靴。執事を思わせる服を身にまとっていた。
『貴方は死にます。それも、一瞬で──』
ワイヴァーンの方へとサタンが体を向け、右手を左胸に添え、左手は後ろの腰に回す。
余裕な笑みを浮かべ、静かにそう口にした。
その様子など気にせず、ワイヴァーンは咆哮し、太く大きな尾をサタンの右側面から薙ぎ払おうと動かした。
「……──終わりです。
胸元に当てていた右手を、口元に持っていき人差し指を立てた。その瞬間、ワイヴァーンの体がいきなり切り刻まれた。
大量の血飛沫が舞い、地面や壁を赤く染めていく。
サタンや星壱郎にも鮮血が降り注ぐが、二人はそれを気にする様子など見せない。
大きく声を上げ、横に倒れ込むワイヴァーンを見つめるだけだった。
大きな音と地響きを鳴らし、ワイヴァーンは横へと倒れる。そして、そのまま動かなくなった。
その光景を、ルーナは口元に両手を当て、目を見開き見ていた。その目線の先には、なんの感情か分からない表情を浮かべている星壱郎が、倒れたワイヴァーンを見下ろし立っている。
「せ、いいちろう……さん……」
今までとは明らかに違う雰囲気を纏い、声をかけることすら出来ない。そんな中、サタンが姿勢を崩さず星壱郎の前へと下りた。
両足を地面につき、星壱郎より少し高いため見下ろしながら、妖しい笑みを向けている。
『では、代償を──』
「待て。まだ、終わっていない」
星壱郎の言葉に、サタンはキョトンとする。
右手を顎に添え、首を傾げた。
『ワイヴァーンは倒しました。他に何を?』
「俺が言ったのは、ワイヴァーン討伐だけじゃない。この腐った世界の制圧だ。今回のダンジョン攻略だけでは、何も終わっていない」
抑揚のない声で、星壱郎は口にする。
『────と、言いますと』
「まだ、お前の力が必要だ。代償ならいくらでもくれてやる。目、腕、足。終わったあとならいくらでもな。だから、俺に力を貸せ、サタン」
左右非対称の瞳は濁っているが、強い意志を感じる。
サタンはその瞳で見られ、口元に歪な笑みを浮かべ体を震わせる。
『面白い。いいだろう。なら、これからも力を貸そう。だが、これではタダ働きになる可能性がある。今貰える代償だけ、頂くぞ』
それだけを口にし、サタンは右手を前に出し星壱郎の頭に乗せた。
『貴様の体のみを、貰うぞ』
「どういうことだ」
『貴様の体に、我を取り込ませろ。そうすることにより、我は実態を手に入れることができる』
「今のその姿は違うのか」
『これは仮の姿だ。これでも力は使えるが、一つの技しか放てん。先程のな……。現世で我の力を利用したいのであれば、実態がなければ本来の力を出すことは出来んぞ』
「…………分かった。なら、お前の力を使う際、俺の体を貸そう」
『その言葉、忘れぬ事がないよう、頼むぞ人間』
「分かっている」
そんな会話をしていると、ダンジョンがいきなり大きな音を立て始め、天井から砂や石が落ち、崩れ始めた。
「ダンジョンが!!!」
ルーナが天井を見上げ、顔を青くし声を張り上げる。
星壱郎も天井を見上げるが、表情一つ変えない。
『早速、我の出番か』
「頼んだぞ、サタン」
『主の仰せのままに──』
右手を胸に添え腰を曲げたサタンは、そのまま姿を黒いモヤへと変え、彼の体へと入っていく。
閉じていた目を開くと、その瞳は非対称ではなく、両目が真紅に染められていた。
『
崩れるダンジョンの中心、星壱郎の体に入ったサタンは右手を広げ前に出した。すると、フォンセ、カマル、ルーナの地面に魔法陣が現れ、紫色に光る。
その一瞬で、姿を消した。
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