レイシェルトとエリシアのドレス その2


 と、ミシェレーヌ王妃に相談にのってもらったのが十日ほど前のこと。


 国王の宣旨を終え、ようやくエリシアに想いを告げたレイシェルトは、腕の中の愛しい少女を見下ろし、胸に幸せな気持ちが満ちあふれるのを感じていた。


 繊細なレースがふんだんにあしらわれた白いドレスを着たエリシアは、見惚れずにはいられないほど可憐で、己の腕の中に閉じ込めてずっと見つめていたくなる。


「本当に、よく似合っている。……きみの好みにはかなっただろうか?」


 いくらレイシェルトが満足していても、エリシアが気に入ってくれなければ意味がない。


 おずおずと問うと、愛らしい面輪を真っ赤に染めていたエリシアが、こくこくこくっ、と弾かれたように頷いた。


「も、もちろんです! こんな豪奢ごうしゃで可憐なドレス、私にはもったいないほどで……っ! あまりに綺麗で、うっとりしてしまいます……っ!」


「うっとりしているのはわたしのほうだよ」


 無意識に口元がゆるむのを感じる。


「きみがあまりに愛らしくて、このままずっと腕の中に閉じ込めて誰にも見せたくないほどだ」


「ほぇっ!?」


 告げた途端、エリシアがすっとんきょうな声を上げる。愛らしい面輪がれた林檎りんごのようにますます紅くなった。


 己の言葉がエリシアの頬を染められたのかと思うと、それだけで嬉しくなる。


「エリシア……」



   ◇   ◇   ◇



「エリシア……」


 レイシェルト様の甘い微笑みに、私は気を抜けば脱魂して砂の柱になってさらさらと崩れ落ちそうになるのを、必死でこらえていた。


 だって! 天空の太陽よりもまぶしい推し様が、目の前で甘やかな微笑みを浮かべてらっしゃるなんて……っ!


 ねぇ、これほんとに現実? 都合のいい妄想じゃない?


 だって、生まれた時からずっとずっと黒髪黒目の邪悪の娘とさげすまれていた私が聖女の力を認められたばかりか、二年前に出逢ってから、ずっと憧れていたレイシェルト様と……っ!


 だ、だめ……っ! だめよ、私! 思い出しちゃ……っ! 思い出したらどきどきしすぎで爆発四散しちゃう!


 ぱくぱくぱくぱくと今にも喉から飛び出しそうな心臓を必死でなだめようとしているのに、くすりと笑みをこぼしたレイシェルト様の指先が、そっと私の頬にふれる。


「頬を染めたきみも愛らしいね。花ひらいた薔薇のようだ」


 は、はぅ……っ! だ、だめです、レイシェルト様……っ! ここでそんなことを言われたら、ほんとに気絶しちゃいます……っ!


 しっかり! しっかりして私……っ! こんなところで気絶して推し様にご迷惑をおかけするなんて、言語道断なんだから……っ!


 と、必死で理性を奮い立たせていた私は、レイシェルト様にお礼を申し上げるのが洩れていたことにようやく気づく。


「あ、あのっ、レイシェルト様……っ! 先ほどは国王陛下の宣旨せんじの直前で緊張してしまい、お礼を申し上げられなかったのですが……っ! こんなに美しいドレスを私のためにお選びいただきまして……っ! 本当に、ありがとうございます……っ!」


 本来なら深々と頭を下げるべきだろうけれど、レイシェルト様の腕の中にいる今は、身を折ると頭をレイシェルト様の胸にぶつけてしまう。


 仕方なくぺこりと、それでも心からの感謝を込めておじぎすると、レイシェルト様から返ってきたのは、なぜか戸惑った声だった。


「いや、その……。今日はきみにとって記念すべき日だからね。きみに似合うドレスを選ぶなら、慣れていらっしゃる義母上にお任せするべきだったのかもしれないが……。その、きみのドレスはどうしてもわたしの目で選びたくて……」


「レイシェルト様……っ!」


 レイシェルト様のご厚意に、感動で胸が熱くなる。


 それに加えて、少し気恥ずかしげなこの表情……っ! 尊すぎますっ! 瞬きするのも惜しいですっ!


「ありがとうございます……っ! お忙しいレイシェルト様にお手間をおかけしてしまったことは申し訳ないことですが……。それ以上に、こんなに綺麗なドレスをお選びいただけるなんて、光栄すぎて、何と感謝を申し上げればよいかわかりません……っ!」


 胸にあふれるこの気持ちをどうやって伝えたらよいのか。


 顔を上げ、碧い瞳を見上げると、レイシェルト様が柔らかな笑みをこぼした。


「感謝などいらないよ。わたしが愛らしいきみを見たかったのだから。……本当に、よく似合っている。ますますきみに魅せられてしまうよ」


「っ!? レ、レイシェルト様……っ!?」


 ぼんっ、と爆発しそうなくらい、一気に顔が熱くなる。


 と、とんでもありません……っ! いつだってレイシェルト様に魅せられているのは、私のほうなんですから……っ!


 そう言いたいのに、口を開けば心臓が飛び出してしまいそうで、うまく言葉が出てこない。


「きみが喜んでくれていると知られて、嬉しいよ」


 甘く微笑んだレイシェルト様の大きな手のひらが、そっと私の頬に包む。


「エリシア……。この気持ちを、どうやって伝えたらいいだろうか」


 熱を宿した声をこぼしたレイシェルト様の端正な面輪が、ゆっくりと近づいてくる。


 む、無理! 無理無理無理……っ! 麗しいご尊顔がこんなにも近くにだなんて……っ!


 ぎゅっと固く目を閉じた私の唇に、ちゅ、と優しくくちづけが落とされ。


 私は、幸せとどきどきで意識が飛びそうになるのを、必死でこらえた……。



                             おわり



~作者より~


 書籍化記念おまけSSをお読みいただき、ありがとうございました~!(ぺこり)

 ついに明日、『転生聖女は推し活がしたい! 虐げられ令嬢ですが推しの王子様から溺愛されています!?』の発売日となります~っ!ヾ(*´∀`*)ノ


 おまけSSでもわかるとおり、WEB版からかなり加筆修正しております!

 

 紙書籍・電子書籍ともに、声優・水中雅章様の「思わず貴女もドキドキ! ヒーローの甘々ボイス3選!」がついてまいりますので!( *´艸`)


 もう、本気で耳が融けちゃうレイシェルト様の甘々ボイスをぜひぜひ聞いてくださいませ~っ!ヾ(*´∀`*)ノ


 続刊は売り上げ次第ですので、よろしければお手にとっていただけましたら嬉しいです~!(ぺこり)


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