第9話 試験官の驚愕と、試験終了後の受験生たち
「おい……見たか?」
「はい……見ました」
剣士科の試験である模擬戦を見ていた試験官の二人……ネロとケイトは、あまりの衝撃に言葉を失っていた。
二人の視線の先にいた受験生は、先程の魔法科の試験で十分合格ラインに達するほどの魔法を放っていた。
運の悪いことに、その後にさらに強力な魔法が放たれたことで印象が薄らいでいたが、その受験生は今の剣士科の模擬戦でも相手を圧倒して勝った。
その受験生の顔を見て、あれ? と思い、試験の内容を見返したネロが気付いたのである。
受験生、フェリックス=カインド。
魔法科の試験において十分合格ラインに達するほどの魔法を放ちながら、剣士科の模擬戦にも勝利した。
しかも相手は、剣術大会の地区大会上位者だった。
フェリックスは、剣術クラブの人間として中途半端な存在なので大会に出ることを自粛していた。
なので知らなかったのだ。
相手が、普通なら剣士科の試験を突破できるほどの実力者であることを。
それを、魔法科の試験でも結果を出した人間が圧倒した。
その事実に、ネロは身震いした。
「おいケイト」
「ええ、分かってますよお」
「絶対取るぞ、アイツを」
まだ試験中にも関わらず、ネロの持っているリストのフェリックスの名前の横には、大きな花丸が書き込まれていた。
試験後、解散を告げられた受験生たちは同じ学院の受験生たちと集まっていた。
その中でも更に剣術クラブと魔法クラブに分かれて集まり、ようやく終わった選抜試験の打ち上げをしようという話で盛り上がっていた。
特に魔法クラブの人間は、普段やらない激しい運動をさせられたことで疲労困憊であり、一刻も早い癒しを求めていた。
疲労困憊ならすぐに家に帰ればいいのだが、目標であった試験の終了したこともあって、どうしても打ち上げはしたかった。
しかし、しんどいのでバカ騒ぎなどしたいとは思えず、体力の有り余っている剣術クラブとの合同打ち上げなど論外。
自分たちだけで落ち着ける場所での打ち上げを求めていた。
「ねえ、早く行こうよ。もう喉がカラカラなんだけど」
「どっかのカフェでいいんじゃね?」
「この人数で入れるところあるかなあ?」
「テラス席沢山があるところなら知ってるよ」
「お! じゃあ、そこに行こうぜ。一刻も早くこの疲れ切った身体を休ませたい……」
口々にそんなことを言っている魔法クラブの人間にエマは遠慮がちに声をかけた。
「あ、あの、フェリックスは?」
魔法クラブのエースであり、試験でも凄まじい結果を出したエマの言葉に、皆の視線が集まる。
その後魔法クラブの面々は、一人でいるフェリックスに視線を向けたあと、エマに向き直った。
「アイツ、体力余ってるみたいだし、剣術クラブの打ち上げにいくんじゃない?」
「そうだよね」
「わざわざ誘う必要ないって」
確かに、エマから見てもフェリックスは自分たちのように疲労困憊にはなっていない。
元々剣術クラブでも活動しているので体力が自分たちとは違うのだ。
自分たちは今ガッツリとした食事なんか取りたいと思わないが、体力の余っているフェリックスならお腹も空いているだろうし、剣術クラブの打ち上げに行った方がいいだろう。
エマはそう判断して、フェリックスを誘うことはせず自分たちだけで打ち上げに行くことを了承した。
しかし、エマの思惑は外れていた。
実は、剣術クラブでも同じような会話がされていた。
「うああ、腹減った」
「俺、ちょっと記録伸びてたぜ」
「マジかよ。俺、緊張してちょっと記録落とした……」
「まあ、後は飯食いながら話そうぜ。どこ行く?」
「肉! 肉食いたい!」
「それは大前提だな。その上でどこに行くのかって聞いてんの」
「そんなの、いつものところでいいんじゃね?」
「そうだな。じゃあ、行くか」
そんな風に話がまとまったとき、ケインが皆に声をかけた。
「なあ、フェリックスはどうする?」
その言葉に剣術クラブの人間はフェリックスを見たあと視線をケインに戻した。
「別に誘わなくてもいいんじゃないか?」
「そうだな。普段俺たちの半分の鍛錬しかしていないんだから、あんな体力測定のあとだと飯なんか食えないだろ」
「そうそう。一人だけ肉を前にして青い顔されたら飯がまずくなる」
「それに、魔法クラブが誘うだろ」
口々にそう言われたケインは、それもそうかと思いフェリックスを誘わなかった。
その結果、誰もフェリックスを誘う者は現れず、一人で帰ることになったのだった。
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