第7話 異例の試験内容

「両方の……」

「試験を受ける?」


 ウォルター様の言葉の意味が分からなかったのはケインとエマも同じだったようで、揃って困惑顔になっている。


 多分、俺もそうなっている。


「どういうことですか?」


 あまりにも意味が分からないので、ウォルター様に訊ねてみるが、ウォルター様は肩をすくめた。


「軍から選抜試験についてそういう要望があったことしか聞いていないんだ。それにどういう意図があるのか、全く分からない」


 そう言って、お手上げとばかりに両手を上げ、首を横に振った。


 ウォルター様がやると、こういう仕草も様になる。


 美形はズルイなあと思っていると、なぜか俺の方を見てフッと微笑んだ。


「だからフェリックス。とりあえず、選抜試験受けてみなよ」

「そう、ですね」


 剣士と魔法使い、両方の試験が受けられるのならどちらにも角は立たないだろう。


 とりあえず、受かるかどうかはともかくとして、受けるだけならタダなので受けてみるか。


「ありがとうございますウォルター様。お陰で懸念が一つなくなりました」

「どういたしまして。まあ、本音を言えば政経学院を受験してほしいのは変わらないんだけどね」


 そう言ってウィンクをするウォルター様。


 また、周りの女子生徒から黄色い歓声が上がった。


 これだから美形は……。


「まあ、選抜試験に落ちたら考えておきます」

「うん、よろしく」

「あ、あの、医学校も……」

「まあ、一応候補には入れておくよ」

「あ、う、うん。えへへ」


 俺が士官学院選抜試験を受けないウォルター様とステラと話している間、ケインとエマがなんとも言えない顔で俺たちを見ていたと、後でウォルター様に教えてもらった。


 いや、本当に、なんで俺の進路にそんなに口を挟んでくるんだか。


 不思議でしょうがなかった。


 とりあえず、軍にどういう意図があるのかは分からないけれど、両方受けさせてくれるというなら、今回の選抜試験を受けてみようと思う。


 どっちかに受かった場合は、軍の判断だと言うことができる。


 自分で決められないから、第三者に決めてもらう。


 言葉にすると、どうにも情けない話なのだが、今の俺にはそれがとてもありがたかった。




******************************************************




「ちょっとネロ! 聞いた!?」

「うおっ!? ビックリした!!」


 王都にある軍本部。


 そこにある一室に、女性団員がノックもせずに『バーン!』と扉を開けて入ってきた。


 走ってきたのか、息も髪も乱れている


 部屋にいたネロと呼ばれた男性団員や他の団員たちは、突然入ってきた女性団員に文字通り飛び上がって驚いた。


「ビックリするだろうがケイト!! ノックぐらいしろ!!」


 本気で驚いたネロは、入ってきた女性団員……ケイトに文句を言った。


 しかし、文句を言われたケイトはそれどころではない。


「ゴメンゴメン、それより聞いた!?」

「はぁ……で? なんのことだよ? お前がそんなに興奮するような報告は聞いてねえよ」


 あまりに軽く流されたのでネロは溜め息を吐きつつ、ケイトの言葉の意味を考えたが、生憎そんなに驚くような報告は聞いていない。


 怪訝な表情を浮かべるネロに対して、ケイトはその興奮を隠しきれないようでネロの目の前のテーブルを『バンッ!』と叩き、またしてもネロは「うおっ!?」と驚かされた。


「お前! いい加減に……」

「申請! 通ったって!!」


 ケイトに文句を言おうとしたネロだったが、ケイトの言葉で遮られた。


「申請? なんの?」


 すぐには意味が分からず首を傾げるネロ。


 だが、その答えはすぐに教えられた。


「士官学院の選抜試験!! 前からアタシたちが申請してたことが通ったって!! 今度の選抜試験から採用してくれるって!!」

「!! マジか!?」

「マジだよ!!」


 ケイトの答えを聞いたネロは、一瞬信じられないという顔をしたが、すぐに「うおおっしゃああ!!」と、雄叫びをあげた。


 他の団員たちも、同じように吠えている。


「本当か!? 本当なんだな!?」

「うんうん!! 信じられないよね! でも本当だよ! さっき団長に聞いた!」

「そうか……良かった……これで、他の部署から恨みがましい目で見られなくなる……」

「うんうん……本当に良かったねえ……」


 しみじみと言うネロに、ケイトも若干涙目になりながら同意した。


 他の団員たちも「うんうん」と頷いている。


 彼らは今まで、他の部署の人間から恨まれているらしかった。


 それが無くなるということで、本当に良かったと安堵していた。


「それでね、その試験官をアタシとネロでやって欲しいんだって」

「マジか! やるやる! ケイト! ぜってー才能を見落とすんじゃねーぞ!? そんで、優秀な奴を他に取られないようにしろよ!」

「もちろん! ネロもね!」

「当たり前だ!」


 士官学院選抜試験の試験官というと、軍に所属している人間からすれば中等学院という狭い世界でお山の大将を気取っている鼻持ちならない子供を相手にするという、割と面倒な仕事なのだが、二人はやる気に満ちていた。


「おーし、まだ見ぬ新星よ、俺がちゃんと見極めてやるからな!」

「おー!!」


 こうしてネロとケイトの二人は、他の団員からの期待も受けて士官学院選抜試験に臨むのであった。


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