第4話 エマと通学路
振り返った俺の視線の先にいたのは、背中まで伸びた真っすぐな黒髪と黒い瞳をしたエマだった。
「ああ、エマか」
俺がそう言うと、エマは端正な顔を歪めいかにも気分を害したという表情をした。
「……ああ、ってなによ? なにか文句でもあるの?」
なんでそんな話になるのか分からない。
誰が声をかけてきたのかと思って、それが判明したからそう言っただけなのだが……。
「別に」
今更言い訳したところで、どうせエマには嫌われているし、面倒臭くなった俺はそれだけ言うと通学路を歩き始めた。
「なっ、ちょっ、待ちなさいよ!」
歩き始めたのだが、なぜかエマが付いてきた。
なんで嫌っているのに付いてくるのか?
なにか、俺がエマの気分を害するようなことをしてしまったのだろうか?
いや、どう考えても今会ったばかりでエマの気分を害するような時間なんてなかった。
じゃあなんなんだろう? と通学路を歩きながら考えているとエマが追い付いてきた。
「ちょっと! なんで先に行こうとしてんのよ!?」
「なんでって……学院に行くから」
「そ、それは、そうだろうけど……待てって言ってるのに、なんで先に行くのかって聞いてんの!」
「それこそなんで?」
ここ最近の俺とエマとの関係は、幼いころからの知り合いで同じクラスと同じ魔法クラブに属しているというだけ。
魔法クラブ内でも接点はほとんどないし、最近ではクラスでもあまり話をしない。
その上、俺のことを嫌っている。
そんな俺になんの用があるのだというのだろうか?
「そ、それは……」
エマはそう言ったきり口を閉ざした。
いつもハッキリと発言するエマが口籠っている。
珍しいこともあるもんだと思って言葉の続きを待っていると、ようやく続きを話し出した。
「……アンタが……フェリックスがこんな時間に登校してるなんて珍しいじゃない。だから、なんでなのかと思って……」
ああ、なんだ、そんなことか。
「いや、ただ単に寝坊しただけ」
今日は、なぜか母さんがいつもの時間に起こしてくれなかったんだよな。
おかげですっかり寝坊してしまった。
とはいえ、十分登校には間に合う時間なんだけど。
まあ、それが実情なので素直にそう言うと、エマはつまらなそうな顔をした。
「……あっそ」
「うん、そう」
それで、俺たちの会話は終わってしまった。
その後、一言も会話をすることなく、お互い無言で通学路を歩く。
エマは、なぜか一緒に俺の横を歩いている。
時折車道を通る魔動車の音が響いてくるだけで、ただひたすら無言の時間が流れた。
……なんだろう? メッチャ気まずいんですけど。
なんで付いてくんの?
話をしようにも、最近エマと話していないからなにを話していいのか分からない。
共通の話題である魔法に関しては、最近エマだけでなく他の人間にも追い抜かれ始めている俺から「最近調子はどう?」なんて聞けない。
そんなことを言えば「アンタの方がどうなのよ!?」って返ってくるに決まっている。
エマとの会話で魔法の話を封じられると、もう俺からはなにも話しかけられない。
ただ、それはエマも同様だったらしく、何度か俺の方をチラチラ見てくるのが分かった。
エマも、俺となにを話していいか分からないんだろう。
じゃあ、なんで一緒に登校してんだよ?
そう思うのだが、ここで「付いてくんな」と言うのはあまりにも横柄だし感じが悪い。
いくら嫌われている相手だとはいえ、そんなことは言いたくない。
結果、二人で無言のまま通学路を歩くことになってしまった。
時折、周囲の学生が俺たちの方を見てヒソヒソなにかを話しているのも気分が悪い。
そんな居心地の悪い思いをしているというのに、エマはずっと一緒に付いてくる。
「はぁ……」
一緒に登校しているのに無言の時間、鬱陶しい周囲の視線。
そういったものが煩わしくなってしまった俺は、最近すっかり癖になってしまった溜め息を吐いた。
俺が、溜め息とはいえ急に声を出したからかエマがビクッとしていた。
だから、そんな反応するのになんで一緒に登校してるんだよ。
その後も結局一言も会話をせず、終始無言のまま学院に到着した。
……なんだったんだ? 一体。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます