子宮ナンバー

トウヤ

1

 誰に言っても信じてもらえない。子宮ナンバーがない女の子を見たことがある。

 暑い夏の日の午後だった。当時小学四年生だった私は、市民プールで泳ぎ終え、更衣室で帰るための支度をしていた。部屋中に塩素のにおいが満ちていて、私は息を止めながら水着を剥ぎ取り、服を順番に着ていった。

 更衣室には私ともう一人、同じ年くらいの女の子がいた。そしてその子がスカートに足を通すとき、私は間違いなく見たのだ。彼女には子宮ナンバーがなかった。

 私は自分の着替える手を止め、名前も知らない女の子を見つめる。彼女は私の視線に気づいているのか、いないのか、もくもくと着替えを続けていた。

 まだ恐れを知らなかった当時の私は、無遠慮にも彼女にこう聞いた。

「ねえ、子宮ナンバーないの?」

 私の言葉に女の子は動きを止め、こちらを見返す。

「え?」

 私は履いていたズボンを太ももまで引きずり下ろし、もう一度尋ねた。

「こういうの、ないの?」

「ああ、うん」

 女の子はTシャツを頭から被ろうとするのをやめて、あいまいな調子で笑った。

「まあ、うん。あはは」

「そっか……」

 そのあと会話を続けたかは覚えていない。でもきっと女の子はそのまま立ち去ったのだろう。それから今に至るまで、二度と会うこともなかった。

 子宮ナンバーがない女の子。そんな子、いるわけない。誰に話しても、「見まちがい」とか、「シールで隠してただけ」とか、「外国人じゃない?」と言われる。

 たしかに、信じてもらえないのも当然の話だ。子宮ナンバーがなければ戸籍も住民票もないことになる。そうなると学校にも通えない。保険証もないだろうから、風邪を引いたとき病院だって受診できないだろう。

 それでも私は見たのだ、子宮ナンバーがない女の子を。

 いったいあの子は、なんだったのだろう?

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