上沼さんに恋して

ラブレター代筆家の顔を持つ筆者のエッセイ。今回はタイトルどおり、上沼恵美子さんへのラブレターを書くという依頼を受ける。

本作の中盤から実際のラブレターが載せられますが、このエッセイを読まれる方はまずですね、「大阪ラプソディー」という曲を聴いてください。ラブレターのくだりに入るまでにです。いち読者としてのお願いです。
「大阪ラプソディー」は上沼さんが海原千里という芸名で漫才をされていたとき、お姉様とともに歌われた曲です。昭和51年。当時の大阪の情景と情緒をのびやかな声で歌い上げられているのです。私はこの曲を聴いて、少し涙が出そうになりました。当時の大阪にはきっと、歌詞に載っているような男女がいただろうからです。半世紀近くが過ぎ去った今も、粋な二人が御堂筋でデイトをしていたという事実は変わらないのです。時代の波のむこうにたゆたう、それでも確実に響いていただろう靴音。これを想像したわけですが、この世界を歌い上げる上沼さんとはなんと魅力的な女性かと感じました。彼女のことが好きになってしまいました。きっとあなたも好きになると思います。

そこで、ラブレターです。あなたの好きになった上沼さんに、筆者がラブレターをしたためてくださるわけです。自分のことのように気になってしまいますよね(笑) 筆者も「大阪ラプソディー」でインスピレーションを得られたようで、その歌の繊細さから想像される上沼さん像を見事な筆致で描かれています。ある固有名詞を自然と文章にしのばせてくるあたりもすてきです。
このエッセイは事実として面白く、そしてあなた自身を巻きこんだRoman d'amourに発展する可能性をはらんでいるのです。

え、なんでいきなりフランス語なんだって? いーや、昭和51年の大阪、お洒落といえばおフランスざんしょ?