小学生の僕
僕が初めて鬼弦と出会ったのは、雪が今にも降りそうな、寒いさむい冬の日だった。僕はコンビニの前に座って、一人でジュースを飲んでいた。友だちの悠介とケンカをして、むかつくような悲しいような、そんなヘンな気分だった。
「こんにちは」
突然声をかけられて、僕はびくっと肩を震わせた。目の前に立っていたのは、知らない若い男の人。真っ黒な髪を顔に垂らして、黄色い目を光らせていた。
「俺は鬼弦。近くのスーパーで、買い物をした帰りなんだ」
男の人はそう言うと、僕に向かってほほ笑んだ。僕はどうしたらいいか分からずに、しばらく下を向いてもじもじしていた。
「暗い顔して、どうしたの? 何か、嫌な事でもあった?」
鬼弦は優しい顔をして、僕の話を聞こうとする。心を読まれているような気がして、僕の心臓はどきどきと音を立てた。
「俺で良ければ、話を聞くよ。せっかくだから、君の名前が知りたいな」
知らない人に名前を教えるなんて、何だか怖いし恥ずかしい。僕がじっと黙っていると、鬼弦の手がにゅっと伸びて、僕の頭を優しくなでた。
「大丈夫、大丈夫だよ。悲しいことが、あったんだね。とても、とても、辛かったんだね……」
……僕は涙が抑えられなくなって、鬼弦のお腹に顔をうずめて、しくしくと泣いた。鬼弦は僕のことを抱きしめて、「いっぱい泣いていいからね」と言った。
「僕……、悠介と、ケンカして……! でも、僕は、悪くないもん……! 悪いのは、悠介だもん……!」
「そっか、そっか。悠介くんと、喧嘩したんだね……」
鬼弦は僕の手を引っ張って、隣の公園まで連れて行ってくれた。僕の背中をさすりながら、泣きじゃくる僕をなだめてくれる。
「どう? 少しは、落ち着いたかな」
「……うん、ありがとう」
僕は目を真っ赤にしながら、優しい鬼弦にお礼を言った。鬼弦は黄色い目を細めると、ふと何かを思いついたように、ゆっくりと立ち上がった。
「ねぇ、君。もし良かったら、俺と一緒に豆まきをしない? 俺が鬼をやるからさ、君が俺に向かって、豆を投げてよ」
「え……?」
僕は思わずきょとんとして、鬼弦の顔をじっと見た。鬼弦はスーパーの袋から、鬼のお面と豆を取りだしている。
「ほら、今日は節分だろ? 俺は『鬼弦』だから、毎年鬼をやっているんだ」
お面をすっぽりとかぶって、鬼弦は笑う。それは何だか当たり前のようで、何度も繰り返されていることのようだった。
「……君の暗い顔を見ていると、俺まで悲しくなってきてね。苦しいことも辛いことも、何もかも全部、『鬼』の俺にぶつけるといい。そうすれば、気分がすっきりするよ」
そう言いながら、鬼弦は僕に豆を渡した。その白い手には、紫色のあざがついていた。
鬼塚くんは いつも鬼 中田もな @Nakata-Mona
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