第2話 それは冗談でいいのよね……?
あれは、凍えるような冬の日だった。
雪が積もっている中をピョーンピョーンと飛んでいると、後ろからとっても嫌な気配がしたの。
恐る恐る後ろを振り向いたら案の定、なんとキツネの野郎と目が合ったちゃった。
それからは一目散よ!
逃げて逃げて逃げて逃げて、でももうダメだと思った時だった。
パァンッ!
乾いた音が山にこだましたと思ったら、次の瞬間私の天敵だったキツネの野郎がドサッと雪に倒れた込んだのよ。
……私?
私はその……腰が抜けたわ。
だってしょうがないでしょう?!
とっても大きな音だったし、逃げるのに必死でそれ以外なんて見たり聞いたりしている暇なんて無かったから、ホントに突然の事だっだし。
そんなの驚いて腰だって抜けちゃうって!
動けなくなっちゃった私の所に、ザックザックと雪を踏む足音が近づいてきたのよ。
恐る恐るそっちを見ると、誰かがこっちに歩いてきてて。
肩に猟銃を下げたのは、若い細身の男だったわ。
黒い服の上から赤いチョッキみたいなのを着た、ちょっとウェーブの掛かったボッサボサ黒髪頭の男。
そいつはまずキツネ野郎を見つけると、ちょっと満足げな顔になったの。
そして私に気が付いて。
……え?
その時の私?
もちろんまだ腰が抜けてるわよ?
当たり前じゃない!
そんなのすぐにどうにかなったりするもんじゃないわ!
お陰様で、ソイツが私を覗き込んでも全く抵抗出来なかったわ。
長い前髪の後ろに隠れた黒い目までしっかり見えちゃったくらい、近くで見つめ合ったもの。
でもやがて徐に首の後ろを掴まれて、ビローンと持ち上げられたままお持ち帰りされちゃって……。
で、連れてこられたのがココ。
その後は、問答無用でお風呂に放り込まれた後しっかり丸洗いされたわ。
「お前、実は真っ白だったのか……!」って言われた時には心底腹が立ったけど、タオルでちゃんと拭いてくれたし、ふわっふわに乾かしてくれたし。
その後ご飯までくれた上に、暖かい寝床まで用意してくれて。
だからちょっとだけ勘違いしちゃったのよ。
『本当は良いヤツなのかも』って。
でももうちょっと、ちゃんと考えるべきだった。
だってアイツ、私の事なんていつだって殺せちゃうんだから!
あのキツネの野郎と同じように、猟銃でバンッと一撃よ私なんて。
あぁもしかしたら毎日ご飯をくれてたのだって、私を丸々太らせて、それから食べる算段だったのかもしれない。
え、じゃぁまさか今日で私のウサギ生もおしまいっていう事なのかしら。
ちょっと待ってよ、なんて事なの……。
そう思ってブルブルブルブル震えていると、アイツに「お前ってさ、もしかして俺の言ってる事理解できてる?」なんて言われたわ。
分かるわよ!
分かるからもう愕然よ!
だって死刑宣告でしょう?! こんなの!
すると何を考えたのか、アイツの視線がフイッとテレビの方に逸れたの。
コイツ結構気分屋の所があったりするから、もしかしたら気が変わったのかも。
そうよ、そうだわ!
っていうか、そうであってくださいお願い!
「……毛皮にもなるかなぁ」
――ゾワリとしたわ。
もう間違いない。
コイツ絶対、私の皮を綺麗に剥いでステーキにして食べちゃう気なのよ。
更にガクガクブルブル震えていると、アイツが「どうかしたか?」という顔で振り向いたけど、私はもう涙目で震える事しか出来ない哀れな養殖ウサギだわ……。
……え?
怖いんなら逃げたらいいって?
無理よそんなの!
だってとっくに腰が抜けちゃってるんだもの!
アイツの手の下でガクガクブルブルして、好きなようにサワサワモフモフされるのでもう私は手一杯よ!
そんなだから、本気なんだか
むしろそれが出来た私を、褒め称えなさい愚民たち!
~~Fin.
もしかして私、殺される?! ~野生ウサギ。飼いうさぎになったけど、今日命が終わるかも~ 野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中 @yasaibatake
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