もしかして私、殺される?! ~野生ウサギ。飼いうさぎになったけど、今日命が終わるかも~

野菜ばたけ@『祝・聖なれ』二巻制作決定✨

第1話 気を抜いたら殺されるわ。



 朝の柔らかな日差しに、私はゆっくりまぶたを上げたの。

 

 頬に伝わる少し硬いフローリングの感触。

 淡いコーヒーの香り。

 そしてちょっと遠くの方で聞こえる、何人かの人の声。

 

 そんな中、寝起きで固まった体を反射的な伸びと欠伸でちょっとほぐす。



 すぐ側にある窓を見れば、こげ茶色をした小さなドーム型巣箱から顔だけが生え出た私が居たわ。

 真っ白なモフッ毛に長い耳、そして何よりまだちょっと眠そうな赤い瞳。

 本来ならパチッとした目なんだけど、流石に寝起きだけはどうにもならな――。

 

 カタンッ。


 近くで聞こえた物音に、脳内思考を止めてハッとした。



 そうだった!

 私は今、と一緒に住んでいるんだった!




 巣箱からチョンッと飛び出ていた自分の頭を、慌てて中へと引っ込める。

 少ししてから恐る恐る外の様子を覗いてみれば、ソファーの上の定位置に黒髪黒目のモサモサ頭をしたアイツが座っていたの。


 人間に照らし合わせれば、スタイルは多分良い。

 外に出る身なりをすれば、おそらく人間の雌にもモテるでしょう。

 だけど私は騙されないわ!


 どれだけコイツが普段はとても爽やかで、笑顔がちょっと良くて頭も良くって、運動だって出来たとしても、絶対に騙されてなんてやらないの。


 だってコイツは――。


<……ちょっと喉が乾いたわね>


 起きがけにいきなり考え事は、やっぱりちょっとしんどかったわ。

 とりあえず水分補給よ。


 そう思い、一応外の安全を確認してから飲み物ゾーンにヨタヨタと歩き出す。



 水にありついてると、アイツがソファーから腰を上げた気配がして。


 何をしようとしてるのかは、すぐに予想が付いたのよ。

 だって向かった先が戸棚だったし。

 ザラザラザラ……って音がしてたし。

 この音は絶対にアレしか無い。

 

 ちょっと期待しながら待っていると、ほらやっぱり。

 案の定隣にコトリと皿が置かれたわ。


<何よ、くれるの?>

「いるだろ? ごはん」


 そうやって屈託なく笑う時は、まぁ悪くはないのよこの男。


<……まぁ断る理由は無いしね>


 鼻を鳴らしてそう思いつつ、私はカリカリやり始めたの。


 カリカリカリカリカリカリカリカリ。

 うーん、この触感がマジでたまらん……。


 モグモグしてるとアイツが背中を撫でてくるけど、まぁ許してあげなくもない。

 撫でるこの手が実はちょっと大きめで温かくて、意外とアリかもとか思っちゃう。

 だから思わず頬も、ちょっと緩んじゃった――時だったの。

 彼が「そういえば」と呟いたのは。


「ウサギ肉って鶏のムネ肉みたいな感じだって、この前誰かが言ってたな……」


 その言葉に、体が勝手にビクッ!と震えた。



 思わず彼を見上げれば、その目はテレビに行っている。

 そこではちょうど熱々の鉄板の上で焼かれている分厚い牛肉ステーキが……って、ギャーッ!!


 私もっ!

 私も食べる気なのかしら、もしかしてコイツ!!



 いや、ホントは分かってた。

 コイツはかなり怪しいって!


 だってコイツ、出逢った時からちょっとおかしかったもの!




 ――忘れもしないわ、この悪魔と出逢った日の事は。

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