低体温少年

西園ヒソカ

ぬくもりの伝導



「二佐ぁ、早くココアちょうだい」

「オメーは静かに待てもできねェのか」



 俺の所作をこたつの中から不満げに見つめる黒の瞳がふたつ、ある。決して焦らしているわけではない。うまいココアを作るのは、それなりに時間がかかることなのだ。


 まず少量のお湯で粉をとき、ペースト状にする。このとき甘さを調節できる純ココアを使うのが俺のコダワリであり、わがままな男、染(そまり)の好みでもある。


 そうしたら牛乳を加えてレンチン。

 砂糖は使わず代わりに蜂蜜。気分しだいでバターをすこし。


 こうしてうまいココアが完成する。



「二佐が作ってくれるココアって、ほんとにうまいのな」



 ほかほかの笑顔を浮かべるこいつを思えば、こんな労力、元からないのと一緒だ。


 そもそも部屋の中でも特に冷えるキッチンに染を立たせるわけにはいかない。


 内地から引っ越させたのは、そのような環境から守るためだ。



「冬っていいなあ。いつでも二佐のおいしいココアが飲めるし」



 のんきにそんなことを言っているこいつは、20度以下の環境下に長時間置かれると文字通り「溶けて」しまうという難病を抱えている。溶ける、なのか、空気と同化して消える、なのか。解明されていないことばかりである。



 体温が気温に影響されやすく、全国でも発症例の少ないその病気は国の指定難病として扱われている。


 本来ならそれ専用の病棟に移るべきであるが、染の場合、沖縄というこの地で余生を過ごしたいという儚い願いが人々を動かしたのだ。



「二佐、いつものお願い」

「……はいはい」



 オレは染の背中に回り、ゆっくりと抱きしめた。彼の白いゆびさきまでオレの体温があたたかに伝わるように、と。



「二佐ぁ、あいしてる、」



 染の声は冷えびえとしている。

 彼の声に自身の体温がこもることはない。余生を、誰よりも愛してくれる者と過ごしたい。それが染の願いであるから。



「大丈夫、オレも愛してる」



 染の言葉にあたたかさが燈るまで、オレはなんだってするだろう。異国の腕のいい医者だってこの地に呼ぼう。染の願いはなんでも叶えよう。死にたくなったらオレが殺そう。


 彼の体温なんかに絞め殺させてたまるものか。……



「愛してる」



 もう一度染の身体をつよくだきしめた。

 なんだってしよう、染。

 オレがお前を殺すまで。





 

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