別の日の学校への行きしな

俺は標準語をだいぶマシに使えるようになっていた。イントネーションも多分いけてる、はず……。


「あのさ、アカリ」

「うん……」

「昨日、テレビで〇〇さんが喋ってたじゃん?」

「うん……」

「あの人が言ってたこと、凄く面白くなかった?」

「うん……」

「あの人、イケメンじゃん? やっぱりモテるんだろなぁ」

「……」

「でさ、お金持ちじゃん?」

「……」

「沢山女の人が寄ってきそうだよね……て、あれ、アカリ、聞いてる?」

「……っ」

「ねぇ、アカ……」

「じゃんじゃんじゃんじゃんうっさいわ!!」

「ア、アカリ……?」

「い、い、加減……関西弁で話せやあっ! アホ!!」

「うわあ! ア、アカリ!?!?」


アカリは急に胸ぐらを掴んできた。学校への行きしなまさにその時なのに。


「ちょ、こ、こけるから、」

「お前、今すぐなおせ!」

「へ……?」

「今すぐ、関西弁になおして、コウジ」

「え、でも、」

「はよ。うっざいねん、お前。殴んで」

「ひぇぇ!? わ、わかったから……! 殴らんといて!! アカリ、ごめん!」


俺はアカリが怖い。小さい頃から。


「なんなん、一週間前から?」

「ごめん、アカリ、ほんまごめん……」

「うちにゆうてたんに、自分が喋ってるやん。調子狂うねんけど」

「ほんま、ごめん、アカリ、俺が悪かったって」

「なに、いちびってんの?」

「ち、ちゃう!」

「関西弁のうちを馬鹿にしてんの?」

「ほんまに違うねん! そういうつもりじゃなくって、」

「ほな、どういうつもりなん?」

「……っ」

「ゆうてみ?」

「そ、その……アカリにもゆうた……テ、テレビで、標準語はモテるってゆうてた、から……そ、それで……俺、アカリのこと、す、好きだから……アカリにモテたくてさ……」

「標準語、戻ってる」

「あ。ごめん……一週間やってたから……」

「はぁ、なーんや。心配して損したわ」

「え、アカリ、心配してくれ、」

「急におかしなったんかおもたわ……うちは……関西弁のコウジそんままが好きやのに……」

「え、アカリ、今なんて……?」

「……コウジ、聞こえてたやろっ!!」

「いや、ほんまに、聞こえんかったって! もう一回ゆうて?」

「ふん、知らんし……もう言わんし」

「ごめんて、アカリ」

「それでいいやん。これからも標準語喋ったったらええやん? でも、うちはもうコウジとは喋らんけど」

「すねやんといて? 俺達幼馴染やろ?」

「幼馴染を上手いこと使おうとすんの、嫌やねんけど」

「……っ」

「しゃーないな、もう一回だけやで?」

「うん、ちゃんと聞いとく」


「私、コウジくんのこと、好きだよ!!」

「え」

「お前がやってんの、これとおんなじやで」

「……」


俺は失神した。


「あれ? コウジ、息しとる?」


俺はギャップで萌え死んだ。

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いい加減……関西弁で話せやっ! アホ!! ABC @mikadukirui

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