「新入社員をあてがわれて逆ハーレムの話ですか?」

 

 なんとかレンリを見送ったアリカタの元に見計らったかの様にキサキが顔を出した。

「アリカタくん。おはよう」

「あ、キサキさん。おはようございます」

 手を止めて頭を下げようとしたアリカタにキサキは続けるように促してソファーに腰掛けた。

「それで? ヤッた?」

 そのストレートな言葉にアリカタはむせた。

「い、ヤッてないです。まだ早いじゃないですか」

「いや、年頃の女の子と旺盛な男性だったらすぐヤると思っていたのだが違ったか」

「ぐ……。我慢しました」

「……、ヤッたって言ってたら蹴り飛ばしていた所だ」

(せえふ! でもまだ地雷がありそう……)

 アリカタは作業する手は止めずに心の中で呟いた。

「お嬢から聞いたか?」

「新入社員をあてがわれて逆ハーレムの話ですか?」

「聞いたのか。それについてはなんて言ってた?」

「優秀だけど筋肉に偏り過ぎだと」

「やはり押しが強すぎたんだな……」

「反抗期もあるんじゃないですか?」

「お嬢はいつだって反抗期だったよ。変わったのはお前のおかげだ」

「俺?」

 アリカタが手を止めて首を傾けるとキサキはにやりと笑った。

「お前の履歴書を見てから女らしくなった。恋する女はすぐ分かる。小さなときからずっと見てきたからもうお嬢の親みたいなものだ」

「親、ですか」

「俺はな。教育係だったんだよ。お嬢の」

「教育……」

「蹴り武道の師範代しててな。引き抜かれたたんだ」

「あー、筋肉の英才教育。ですか」

「まあな。あのふたりから直でお嬢の蹴りを鍛えるように頼まれていつの間にかこんなになるまで一緒にいる」

 キサキは白髪交じりの髪をかきあげた。

「それも、もう終わりだな」

「やめるって事ですか?」

「ああ。お嬢は引き止めるかもしれないが俺の役目は終わった。あとはお前が引き継ぐんだ。アリカタ」

「えっと、お嬢の事を色々ご教授願えませんか?」

「勿論だ。全て教えてやるよ。お前がお嬢をずっと支えられるように」

 

 アリカタに全てを伝え終えたキサキはあっという間に居なくなった。レンリが必死に引き留めようとしたがそこは長年一緒にいた弊害だろうレンリの考える事はキサキによって先読みされており気が付いたら部屋は空っぽだった。

 キサキの部屋の扉を開き膝から崩れ落ちるレンリをアリカタは優しく撫でる。なんて事はせずサンドバッグの前に連れて行って思いっきり蹴りを入れさせた。

 うおおおおおおおおおおおおと叫びながら全力で蹴りを入れるその脚力は普段の(と言っても普段もおかしいのだが)レンリからは考えられないほどの物だった。

 アリカタは衝撃がサンドバッグから伝わった瞬間に意識が飛んだ。ついでに身体も宙に舞った。

 

 

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