「「筋肉、筋肉はすべてを解決する!」」
与えられた自室(と言っても独房みたいな部屋だが)へと戻り社宅に運び込んでいたはずのダンボールからスーツを取り出し汗が引いた頃合いを見計らって身に纏う。
ネクタイを締めキサキから渡された水を少しずつ口に含み飲み込んで気分を落ち着けてゆく。
目を閉じると浮かぶのは先程までのレンリの姿だった。
(暴力少女、でも見た目は可愛いんだよなあ。やべ、また勃ちそう)
アリカタはマゾなのか、それともただ単にレンリの色香にやられているだけなのか。そこの所はアリカタ自身でも判らなかった。
頭の中で悶々とした思いがくるくると回っていると扉がノックされた。
「キサキだ。出てこられるか?」
「はい。汗も引きましたし大丈夫です」
「では、挨拶をするぞ」
「はい」(挨拶? 誰? 誰に? 社長? 会長? 俺は死ぬ?)
「そう固くならなくていい。あいつらはただ陽気なおっさんと思えばそれでいい」
「そんな感じでいいんですか?」
「私たちの直属の上司はお嬢だからな。会社とは切り離して考えろ」
(とうさん、かあさん。俺、入社する会社を間違えたかもしれません)
アリカタは心の奥で祈りを捧げた。
キサキの後に続きリビングへ入ると中にはレンリとリナ、それに加えてふたりの男とひとりの女性がいた。
「やあやあ、来たねアリカタくん」
髭をたくわえた男が口火を切った。どこかで見たことのある顔だとアリカタは思った。
「おとうさま。まずは自己紹介ですよ」
リナが促すと
「おお、そうだったな。Tグループの会長をしているイサオだ。よろしくアリカタくん」
と豪快に笑った。画面でしか見ていない会長の顔がすぐ目の前にあった。
続けて
「私は社長のナリヒトだ。よろ」
とアロハシャツの上からでも分かる筋肉を持った男が自己紹介をした。
「で、この人が家政婦のソノタさんです」
リナが言うと家政婦のソノタは一礼をした。言葉は発しなかった。
アリカタは名乗ってお辞儀をした。
ナリヒトはそんなかしこまらんでもいいよとアリカタに近寄りアロハシャツを勧めてきた。
レンリの蹴りを受けて無事なニンゲンがこいつかあ。どんな筋肉をしている? とイサオは興味津々だった。
アリカタは礼をした直後から再び気絶した。社長と会長に挟まれ脳がオーバーヒートを起こしたのだ。
ただ、短時間で何度も気絶を繰り返した為に”相槌を打つ”や”軽い返答を返す”と言った技術を脳が無理やり習得してしまった。なので傍から見ていたらしっかりと会話に参加している様に見えた。
そんな様子を見てキサキは内心でホッとため息を吐いた。
(あのふたりをあれだけあしらえれば上々。やはり彼で良かった)
「パパ、おじいちゃん。手を出すのはそこまでにして。わたしのアリなんだから」
レンリはかかとを鳴らしながらアリカタに近づきネクタイを引っ張った。
「あんたもわたしのモノだって自覚を持て!」
そう吠えて再びアリカタは顔面を蹴り上げられた。
アリカタの視界がちかちかと光り、脳が揺れる。薄れる意識の中で目に入ったのはピンクドットのおぱんつだった。
全く同じ場所を蹴り上げられ前回よりも少し腫れが大きかった。
「あらあらまあまあ。照れちゃってそんなに気に入ったのかしら」
リナはアリカタの頬に濡れタオルを当てつつレンリをからかった。
「毎年の事なんだし、べつに」
ついっと顔をずらしてそっぽを向いたレンリの頬は少し赤らんでいた。
「そうかそうか、ようやくレンリに春がきたなあ。いや、長かった」
ナリヒトはアリカタの上着をいつの間にか脱がせてアロハシャツに替えていた。
「もやし、レンリはなぜ筋肉が付いてない男を選んだのか」
イサオは真剣に悩んでいた。
「今の女の子は細身の子が好きなんでしょう。わたしは筋肉さんが付いていたほうが好きですよ」
「「筋肉、筋肉はすべてを解決する!」」
イサオとナリヒトはリナの言葉に呼応する様に自らの筋肉を見せるポーズをとった。
そんなふたりを見てレンリは
「だから嫌なんだって」
と小さい声で呟いた。
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