「きみのために作ったんだ。まあ俺だけの力じゃないけど」
レンリが玄関前に到着するとアリカタが立っていた。
「なんだ? 出迎えなんて」
アリカタは不思議な顔をするレンリを玄関扉を閉じた所でお姫様抱っこした。
「おいクソアリ。降ろせ! 降ろせ!! 降ろせったら!! おーろーせー!!!」
肘を受け、蹴りを受けてもアリカタは無表情でレンリを抱き上げて歩き続けた。
「おい!!! そろそろ降ろせったら!!!」
「お嬢。いいえ、レンリ。座ってください」
腕の中で暴れるレンリをアリカタはそっと椅子に座らせた。
レンリは座った事でようやく落ち着いたのか周囲を見渡して口をぽかんと開いた。
「アリ……。これは」
そこにはテーブルいっぱいの料理。グラスがふせられナイフとフォークが並べられている。
「こ、これ。アリが作った……の?」
レンリが言葉をひねり出すとアリカタはようやく笑顔を作った。
「きみのために作ったんだ。まあ俺だけの力じゃないけど」
この日の為にアリカタはソノタから料理の訓練を受けた。厳しい訓練だったがレンリの為ならと一所懸命にこなした。
「レンリ、お誕生日おめでとう。成人おめでとう。結婚しよう」
アリカタは片膝をつきレンリの右手をとって甲に唇を落とした。
「あっ……」
レンリは一瞬気が遠くなった気がしたが慌てて顔を左右に動かした。
「アリ。これサプライズでパパとかおじいちゃんとか出てくるんじゃないの?」
その言葉にアリカタは首を振った。
「俺もみんなで祝った方がいいって言ったんだけどさ。大人の時間だってさ」
アリカタはすっと立ち上がると部屋を出た。
出ていった方角からがらがらと何かを引きずる音がしてアリカタはホワイトボートを持ってきた。
「それ、今日の為に買ったの?」
「違うよ。会社の備品を借りてきた。社長……、お義父様に許可もとってある」
ため息をつくレンリに「見て、レンリ」とアリカタは言葉をかけた。
それと同時にホワイトボードを裏返す。するとそこにはレンリの誕生日、成人を祝う電報が貼り付けられていた。
「これはお祖父様。これはご両親。こっちはお兄様夫妻」
「直接言えばいいのに……」
「セナちゃんとハシュカちゃんからも来てるよ」
レンリが慌てて近寄ると確かにセナとハシュカの名前で祝電が来ていた。
「あいつら……。この事知ってたな」
「ごめん。内緒にして貰ってた」
祝電を前にぼーっと立つレンリの右手をアリカタは再びとって言った。
「レンリ、結婚しよう」
レンリは反射的にアリカタの頭に抱きついた。そして、額をコツンと頭に当ててて呟いた。
「うん……。うん。する。します。アリ……、ちがうや。ミキヒロさん」
「どうする? 今から書く? それとも食事?」
「えっと、シたいって言ったらだめ、かな?」
「俺はゆっくりと食事をしたい。語らいたい。けどきみがそう言うならそれに従うよ。だってきみのものだから」
レンリに手を引かれてアリカタは寝室へ消えた。
夜が更けるまで料理はそこにあり続ける。せっかくレンリの帰宅時間に合わせて作られた料理だったがヒエラルキーはレンリが最上位なのだった。
浴槽の中でアリカタの膝に収まったレンリはうっとりとした表情で腹を擦った。
「1回でいけるかな?」
「どうだろう。運の問題も大きいからなあ」
それにしても、とアリカタは顔をしかめた。
「レンリはワイルドだと理解していたはずだけど想像以上だった。傷にお湯が染みる」
首筋や腕、背中など色々な所に引っかき傷や噛み跡がついていた。
「ごめん。興奮しちゃって」
しゅんとするレンリの頭を撫でてアリカタはやわらかく笑った。
「最近蹴ってなかったらそれもあるかもね」
「そうだった。ちょっと忙しくって」
「上がったら料理を食べよう。栄養をとらないと」
「でも、冷めちゃってない?」
「温め方も教えてもらってるし、一応冷めても大丈夫な料理にしてる」
「そっか」
しばらく話を続けてお風呂から上がったふたりは一緒に料理を温め直し食べた。
「お酒解禁と言う事でワインがあるけどどうする?」
「ちょっと今は無理かな」
大ぶりの肉を豪快にかじりながらレンリは首を小さく横に振った。
「そういえばレンリは就職ってどうするの?」
「あー、色々と来てはいるんだけどさ。わたしがなりたいのとは違ったのなんだよねえ」
「レンリは何になりたいの? 気になるな」
アリカタが首を傾げるとレンリは視線を肉からアリカタに移してにやりと笑った。
「空港のアレ。麻薬とか探すやつ」
「もしかして逃げた相手を容赦なく蹴られるからとか思ってる?」
「え? だめなの?」
「過剰な取締で訴えられるかもしれないよ。多分だけど」
「ええー! 私の蹴りが活かせると思ったのに!」
「ホコリが立つから素振りしないで」
ふたりだけの夜は長く続いた。今日から毎日ふたりだけの夜が過ごせるのかとドキワクしたレンリだったがそこから数週間はパーティーが詰め合わせになっておりその感情処理に付き合わされたアリカタは合間合間に筋肉をつけていて良かったと本気で思ったりしたのだった。
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