和菓子には心と意味が。たとえそこが、異世界であったとしても

いにしえの時代、砂糖は高級品だったそうです。舌を楽しませ、のみならず目をも楽しませる美しい造形の菓子は、今よりはるかに娯楽の少ない時代、それを手にできる人々にとっては何物にも代えがたい愉しみのひとつであったことでしょう。

和菓子――の中でもとりわけて、上生菓子というのをご存知でしょうか。花や鳥、ほかにも多くのものを象って作る、練り切りなどに代表されるあれのことです。
上生菓子とは季節を現わし、土地柄を現わし、時には短歌や俳句のように含意をはらんで心を伝えるものでもあるそうです。その意匠と美しさを通して。

救世の勇者として召喚されたはずが、魔法も剣も使えないという理由で右も左も分からない異世界で放り出されてしまった和菓子好きの高校生ナギ。その彼が、和菓子好きの知見と和菓子作りの腕を駆使して異世界に店を打ち立て、評判が評判を呼んだ末に一触即発の国家関係を取り持つ切り札として見出されてしまう――
あらゆる問題を「食」「料理」を通じて解決してゆく創作作品は古くから今に至るまで枚挙にいとまがありませんが、贈り物として心を伝える「和菓子」という存在は、僅かな火種で燎原の火のごとく燃え広がりかねない人同士の対立を鎮めるにおいて、相応しい題材ではないでしょうか。

だいぶん堅苦しい書きくちでレビューをしてしまいましたが、本作はゆるっとふわっとコメディありちょっぴりお色気もあり? で軽妙に読めるおはなしです。
私的には、「なぜ異世界で、和菓子の材料を用立てられる条件が整っていたのか?」の理由づけが逆転の発想で、「そうきたかー!」と思わされたのが、とりわけ痛快だったりしていました。
午後にお菓子を抓むような心地で、おひとついかがでしょうか。