戦いの中で精霊使いの乙女が華麗に舞い踊る、本格ファンタジー

精霊使いの力で盗賊としても逞しく生きる踊り子の『キャロル』は、ある日奴隷の少年『レビン』と出逢う。貴族の息子であるはずなのに過酷な境遇に堕ちたレビンと関わっていくうち、キャロルにもまた壮大な陰謀や運命が待ち受けていて――。

第一章まで読了しました。
昨今流行りのゲーム的なファンタジー作品というよりも、古き良き正統派ファンタジーといった印象でした。学校の図書室でその手の本を読み漁っていた自分としては、非常にスムーズに飲み込めて楽しむことができました。
歴史ある国々や盗賊都市、ギルド組織などの設定が綿密に練られており、そこに加えて精霊といった要素も、独自の世界観を構築しています。オリジナルの固有名詞がたくさん出てくると読者は倦厭してしまいがちで、「そういうのは避けるべき」と執筆初心者は教えられますが、本作の場合は高い文章力によって難解さを減らしており、冗長さなど感じないまま受け入れられました。
その理由はひとえに『文章』が良いからです。この世界の風景や生きる人々の描写だけなく、戦闘やダンスシーンに至るまで、どこを読んでもリアリティや高い文章力を感じられます。
ストーリー、設定、キャラクター、本来の意味での『ファンタジー』の世界――それらを描き出す文章力。あらゆる部分で隙がなく、総合的に見て非常に高い実力が伝わってくる作品でした。

ただ難点を挙げるとすれば、この作品にしか存在しない『個性』や『強み』というものが、個人的には見出せませんでした。
続きが気になって夢中で読み込んだり、読んだ後も強く記憶や印象に残る感じは正直薄いです。他の面白い小説を読むことや、日常生活の作業を中断してまで、「この作品を読みたいんだ」という気持ちにさせられれば『強い』のですが、そこまでではなかったかな、と。
「じゃあどうすれば強烈な個性や尖ったオリジナリティを出せるんだよ」と聞かれると、答えには困ってしまいますが……。その難題に即答できるようなら、誰も執筆で苦労していませんからね。

とはいえ、終盤のレビン奪還戦からの『彼』の正体や活躍、そして凸凹に見えるメンバーの新しい旅立ちなどは、非常にワクワク感があって良かったです。
二章以降の展開に期待が持て、完結した時は読者の記憶に残るような、忘れられない作品になる可能性も強く感じました。
王道で本格派なファンタジー作品を読みたい人には、間違いなくオススメです。

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