こたつ部。足を踏み入れれば開かれる、暖かくて新しい世界

こたつでぬくぬくすることを目的とした部活にまつわる一冬のラブコメです。
フフッと笑えて、愛らしさに心を解きほぐされて、素晴らしい物語です。

冬北高校に連綿と受け継がれてきた「こたつ部」。部員は当代部長の熱騎(あつき)君と後輩のぬくもちゃんの二人きり。だからと言って、寂しいことはありません。二人がお喋りしたり、しなかったり、熱騎君がぬくもちゃんに蹴られたり。二人の日常は平穏ながらも楽しくて、『ああ~俺もこんな高校生活が送りて~』のレベルは99、カンストです。それだけじゃありません。冬北高校には、こたつ部を筆頭とした不思議で面白い存在――〝七十七不思議〟――が山ほどあって、突然彼らを訪ねてきたりします。更にはメチャメチャキャラの立った卒業生や、新入部員なんかもやってきて、本作を明るく元気に盛り立てています。そんな風に穏やかだったり、賑やかだったりと、メリハリついて面白い本作。とんでもなく勢いのあるギャグから、変でシュールだけどほっこり落ち着くような可笑しみまで色とりどりに取り揃えて、笑えること、笑えること。

また、同時に部員達の人間ドラマとしても逸品。ヒロインであるぬくもちゃんは、人見知りで他人が苦手。熱騎君とか心を開いた相手には結構グイグイ接することができるけど、クラスメイトとか知らない人とは難しい。熱騎君はそんな彼女を受け入れて、その上で先輩として何ができるか考えている。先輩として、部長として、残せるものとは。ぬくもちゃんもまた、これから先輩となり、部長となること、その意味や責任、そして自分の気持ちについて考えている。別に重ったくなる程その悩みが語られることはありません。ただ、確かに過ぎて行く日常、近づいていく熱騎君の卒業。そのゆったりだけど決して止まらない流れの中で、二人も変わりゆくことを認め、生きていく。そんな愛らしい二人が本作では何と…………どうなっちゃうの!!? 気になりますよね、是非読んでみてください!

とまあ、令和のこたつ部はこんな感じです。実は平成のこたつ部もあって、こちらも素晴らしい作品なんですが、まあ本作を読んだ後でも、前から読んでも良いと思います。だって、良いものは何時読んだって素晴らしいものですから。みなさんの平成と令和はどうですか。きっとどちらにも良いことがあって、その他、それぞれの嫌なことや悲しいこともあるでしょう。でも、熱騎君とぬくもちゃんがまっすぐ2022年の冬を過ごしていったように、明日は必ず訪れます。悪いことの他、良いことも必ず来る。こたつに足を踏み入れて新しい何かに出会う日があるのなら、足を抜いて旅立つ日も来るもんです。でも、このこたつにはいつ戻ってきたっていい。桜が咲いても震える程寒い日だってあるじゃないですか。そんな日の為に、また戻ってきたい暖かさと目を見張るような清新な感覚が、この物語にはある。ああ、俺もこんな高校生活が送りたかった!
みなさんも是非ご一読を!

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