攻略対象者が抗うことで見えてくる世界の残酷さと奥深さ

一読よくある「ゲーム世界への転生モノ」を舞台にしていますが、世界観の作り込み方が圧巻です。

この作品を読んでいると、ゲームの進行上では当たり前の設定や小道具が、
いかに理不尽で不可思議で非合法でご都合主義かを改めて痛感します。
それこそ、この手のストーリーでよく目にする
「この世界の人たちは実際に生きている(ゲームじゃないの)」
という転生ヒロインの言葉(あるいは心の声)すら、薄っぺらに感じるほど。

そして、それを攻略する側(転生女子)視点ではなく、
攻略される側(ゲーム世界の異性キャラクター)視点で展開されると、世界観、倫理観のエグさが本当に生々しいです。

本作の主人公は、そんな攻略対象者の中ではおそらく脇役ポジションとなる一介の伯爵家の三男坊。
(もっとも、彼自身は非常に勤勉な努力家で、若くして功績のある受勲者であり下位ながら尉官であり爵位持ちというウルトラハイスペック男子)

この三男坊を通して見る、「ヒロインを取り巻く世界」の一種異常性が際立ちます。
そして、一体何が「異常なのか」を一つ一つ丁寧に紐解いていくわけですが、
その過程で明らかになっていく真相が本当に容赦ないです。

10代の主人公が背負うには、あまりに残酷で過酷な責務と真実ですが、
それをポップな表現で軽やかに描くギャップが、いい味を出しているんです。
うっかり時折笑ってしまうのですが、
人物像の掘り込みや作り込まれた世界観の重さとエグさは、ちゃんとエンディングまで健在なんです。

それをサクサク読ませてしまう。
ゲーム性をちゃんと活かしつつ、浮世離れしない「異世界らしさ」を作り出している面白い作品です。

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