アメリカ大陸の歴史の暗部にまっすぐ切り込むホラー児童文学の好編です
- ★★★ Excellent!!!
柴田恭太朗様主催の自主企画【三題噺 #11】「GW」「東」「井戸」への参加作品として執筆されたという今作。
この三題を出されて、アメリカ大陸の歴史の暗部にまっすぐ切り込むホラーを思いつく発想力と、作者さまの知的好奇心の旺盛さに、心から盛大な拍手を贈ります。
じわじわと恐怖を煽るストーリーテリングには、派手な演出や擬音描写はないに等しいのですが、読み進めるごとに文面から滲み出してくる不穏な空気の表現が秀逸です。
ほぼ一万字に届く文章量を一エピソードで括っていますが、読むのが全く苦にならず、あっという間に最後まで読破していました。
主人公アビゲイルの一人称視点で語られる心理描写と情景描写、それぞれの強調したいところと、さらっと流したいところの書き分け分量とバランスが絶妙なんだと思います。
友人エミリの相談相手として登場する主人公アビーですが、「他人事」だと思っていた怪異が、いつの間にか我が身のことになっている……
その混乱と恐怖、切り替わりスイッチのキーアイテムとして序盤から匂わせていた「ウィジャボード(西洋版コックリさんみたいなもの)」と「カメ」が、作中小物として覿面に機能していて、ホラー心が大変満たされました。
いつ使うか、今でしょう!
という中盤までの焦らしからの後半一気の怒涛の展開、個人的に大好きです。
始めちょろちょろ中ぱっぱの丁寧なホラー(炊き立て)が、実に美しいです(って言うと一気にギャグっぽくなるので自重します)。
話の軸は全て「子ども」たちなのですが、ターゲット読者層そのものは児童に絞っていないことが窺えるのも「文芸寄りの児童文学作品」として、とても好感が持てました。
おそらく、子ども視点と大人視点では読んだ感想がまた違ってくると思います。
本来、コミュニティーを問わず、守られて大切にされて然るべき子どもたちの未来——しかし、振り返ると必ずしもそうではない現実、理想との乖離、その果ての犠牲の歴史から、本作は目を逸らさせてくれません。
そこに「人種」というさらに重たいテーマが加わってきますが、それを全て内包した上で、淡々とフラットな筆致で失ってはいけない人間性を問いかけながら、読み手に改めて熟考する余地を与えている良作だと思います。
いわゆる復讐ものとは一線を画すホラーです。
一万字以内で、本当によくまとめてあるなあと感心脱帽する読み切り短編として、本当に充足感のある作品です。