4.アインとナタリー。







「あの、貴方はどうして一人で鍛錬しているのですか?」

「……え?」



 ある日のことだった。

 一人で黙々と、様々な事柄を練習するアインを毎日観察していたナタリー。いよいよ我慢できなくなり、直接そう声をかけた。

 すると六つ下の少年は、幼い顔を傾けて王女を見る。


 どうやら、彼はナタリーの素性を知らないらしい。

 ナタリーは父から少年のことを聞いていた。だから、なおのこと気になった。



「どうして、自身の努力を人に見せようとしないのですか?」――と。



 この学園の学生はみな、自分に強い誇りを持っている。

 悪く言えばお高く留まっている、ということなのだが、少なくともこのアインという少年にはそんな雰囲気はなかった。

 だから、王女は訊ねる。


 貴方はこのままで、いいのか――と。



「えー、っと……」



 彼女の問いかけに、少年は困ったように頬を掻いた。

 そして、一つ頷いて答えるのだ。



「そうですね。きっと、その方がみんなに認められるとは思います」

「それなら――」

「でも、ですね? ボクはこう思うんです!」



 青く広がった空を見上げながら。

 まるでありのまま、自然のままに、生きているかのように。




「大切なのはきっと、自分の中の自分を裏切らないことじゃないか、って!」




 まだまだ愛らしさ残る顔に、柔らかな笑みを浮かべて。

 アインは、ナタリーにそう語った。



「自分の中の、自分……?」



 それに、彼女は首を傾げる。

 意味は分からない。それでも、なにか大切なことのような気がした。

 だから王女は、こう考えたのだ――。



「それなら、教えていただけませんか?」



 この少年から、教わろう、と。

 きっと、それは将来この王都を統べるために必要なことだったから。そして、このアインという少年にはすでに、その素養が備わっていると思ったから。



「え、え……?」

「うふふ。肩肘張らないで下さい」

「わ、分かりました!」





 困惑する彼に、微笑みかける王女。

 しかし、この時が二人にとって学校での最後の会話になるのだった。


 

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魔法学園の嫌われ者、才能を教員から嫉妬され退学処分となり冒険者に。~でも相手はそれで窮地に追いやられ、こっちは自由になれたので楽しく生きたいと思います~ あざね @sennami0406

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