荒廃した世界を主人公と一緒に歩むような…。圧倒的没入感のある作品です!
- ★★ Very Good!!
困窮し、人々の欲望が表出し始めた世界。
記憶が曖昧な状態で目覚めた主人公・まりんは欲望に満ちた男たち、そして、暴走する兵器会社の人々に追われる。
そんな中、男の子と出会い、彼を守ろうと努力するも、殺されてしまう。彼を守れなかった無力感、そんな自分に怒りを覚える彼女がもう一度目を覚ますと、そこは雪が降り積もる一面の銀世界。
そして、現れたのは巨大な怪物。
主人公の怒りに呼応するように現れる不思議な炎。そして、助けにきた人々の中にいた女性・ミリルには、あの時助けられなかった男の子と同じようなあざがあって…。
精緻な文体は荒廃した世界にとてもよく合っていて、没入感がある。そのため、主人公含め、その世界で生きている人々の輪郭をはっきりと脳内に描かせてくれます。
加えて、主人公の記憶が曖昧であることが読者である私とも合致し、SFならではの退廃的な世界観に入り込んだような感覚を加速させてくれます。
3章(5話読了時点)で「期待度」としてこのレビューを書いていますが、主人公の炎の秘密、“良い人”で終わらないミリル、そもそもどうしてこんな世界になってしまったのか…。
まりんの“約束”としてよく出てくる父の存在も忘れてはいけませんね。どうしてまりんがその約束にこだわるのか、その過去は…?
多くの謎が残るのですが、私の中でそれがきちんと「期待感」になっているのは、作者様の実力を文体から感じ取っているからでしょう。つまり、必ずそこに理由がある、と感じさせてくれているわけです。
ネット小説にしては1話毎が長い方ですが、退屈を覚えることも、集中力が途切れることもありませんでした。そのことからも、特に文章力の高さが伺えました。
まりんやミリルの不思議な能力、世界の秘密などを、主人公と一緒の目線で解明していく。
圧倒的没入感と、それに伴う一体感を感じられる、SFならではの、硬派で素敵な作品。今後に期待です!