のどかな春の光景に隠された秘密と苦悩を描く、“文学ホラー”作品です!

 表題にもある有名な文言から着想を得て、描かれたらしい作品。描かれるのは、あるお花見での出来事です。

 文学的な表現をはらみながらも、決して“お硬い”印象はなく、一人称ということもあって、とても読みやすかったです。

 そんな春香る文学的体験の中で描かれるのは、満開に咲き誇る桜の秘密……。

 私としては表題からあるていど予想できたおかげで、「ホラー」とありながらも身構えることなく読むことができました。

 ただ、それだけではなくて、きっと冒頭から文に感じる春の温もりのようなものがあったからなのだと思います。

 確かに怖いんですが、それよりも美しいと感じてしまう。作品全体から醸される桜の香りがとても魅力的に感じました。

 また本作では、怖さだけではなくて主人公の苦悩も描かれています。決してそれが主題というわけではないのでしょう。ですが、その苦悩があってくれたおかげで、“怖い”だけじゃない。きちんと感情の起伏を伴う作品として、最後まで読み進めることができました。

 恐らくですが、ホラーが苦手な方でも比較的容易に読みやすい作品なのではないかな、と思います。

 咲き乱れる桜、酔いしれる花見客たち。そして――。

 春爛漫の景色に隠された秘密。ちょっとした怖さをアクセントに、覗いてみませんか?