終幕後話
一途な人物が理想の性格像だと言う人は少なくないが、その想いが強い故に起きるすれ違いは大きな事件へと変容することがある。
ストーキングや覗き見、家宅侵入に誘拐に監禁。
もしくは、極度な被害妄想とか。
僕の方が先に好きだったのに……なんて言ってしまえばただの可哀そうなジャンルへとなり下がるだけだが、それに付随して『だから、あいつはおかしい』とか『あの子に近づいてくる奴は全員敵』みたいに逆上すると、それは、ただの恐怖しか生まれない。
嫉妬と一途は裏表。
好きという感情が執着とも書けるとするならば、妬ましさを抱えている人はそれに近い感情なのかもしれない。
そんなこの一連の、事件とも言える出来事にインスピレーションを受けて――僕は一つの短編小説を書いた。
タイトルは『嫉妬の鋏』という名にすることにした。
この作品をどこかの賞に投稿するか、文化祭用の作品にするか悩みどころだがとりあえずストックが一つ増えたということで喜んでおく。
そして。
この事件の顛末はというと、例の男子生徒は退学になり、なんとなくの情報が朝担任の先生からクラスへと報告されたが、詳しいことは濁して「皆さんもこうならないように気をつけてください……では」と軽い注意喚起の養分に使われただけで終わった。
当たり前の日常がどんなものか知らないが、全体的には影を落とさぬ穏やかな日常が流れ続けている。
そして、文芸部も落研もその空気に漏れず、あるべきはずの日常を取り戻していた。
「……それで、あるべきはずの日常とは果たして、これであっていたのか?」
「はい! あっていたと思いますよ」
いや違うだろう、そう心の中で言っていても何も伝わらない。
実際に口に出しても何も変わらない。だって、さっき実証して意味がないと分かっているからだ。
「おやおや……部室に来た途端、二人して肩寄せ合って……お熱いですねぇ」
「塚本、お前だな? お前がなんか変なことを吹き込んだんだな」
「いいや? ボクは何にも言ってないよー! ね、三白夜ちゃん?」
「はい、これは私が私自身で考えた故の行動です!」
そう言って、ますます距離を詰めてきたので、同じぐらい間を開ける。
おいおい、このまま続けていったら窓と三白夜さんとの挟み撃ちになっちゃうんですが大丈夫ですか? やがて、僕だけ窓から落ちるというバッドエンドは見たくないよ?
こんな風に。
僕たちらしい僕たちなりの変な日常が帰ってきた。
桜は、じきに花びらを落とし葉桜へと変わりゆくだろう。
……と、ここでタイトル回収する素晴らしい文言を言えるのが、一流の主人公というやつなのかもしれないが残念ながら僕は平凡な主人公なので、ご期待に沿えず申し訳ないが紛い物でもいいなら一つだけ僕の正直な気持ちを言っておくことにする。
そんな細かいことなんて深くこだわることじゃない。
あるがままを受け入れる事が僕の僕たる物語なのだ。
散漫な世界だけど、深くこだわらない 不透明 白 @iie_sou
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