自分なんて……と思うひとたちへ

これはですね(笑)
レビューを書くのが難しい。いえ、めちゃくちゃ面白いんです! それはちゃんと書かせていただきたいのですが、この短編には「落ち」があるんですよね。そこに触れないように、みなさまの楽しみとして残すように書くとなるとどうするか悩みました。
なお、きれいに「落ち」が決まっていましてですね、ほんとう、短編の鑑のような作品です。読者がこうなるだろう、と想像しているところへ引っ張っていって、そして伏線で崩す。短編の良さというものを熟知されている。そのように考える次第でした。

本作では女性同士の愛情、恋愛的感情というものが表現されています。ガッツリ百合! というわけではないのですが、恋愛感情が生じ、その恋愛感情に悩まされる様は丁寧に描写されています。新しいのは、その悩みの種類ですね。「女性同士の恋愛っておかしいのではないか」というところが主ではなく、「自分は愛し愛される存在なのだろうか」という自分というものへの葛藤。これが主に来ているのですね。だからこの作品について、ぼくは百合以上に青春を感じました。
誰もが一度は自分に疑問をもったことがあると思います。ぼくもそうでした。今もそうかもしれません。周りの人間って、みんないい人に見えるんです。感じられるんです。それに比べて自分の心根の卑しいこと。心の狭いこと。ぼんやりとした劣等感を覚えるとともに、どうしてみんなのようになれないのだろうと感じたりすることがあります。
主人公の明梨も似たようなもので、彼女は「違和感を覚える度合い」が深いのですよね。そこには彼女のもつ背景が関与してくるのですが、とにかく彼女はこの社会において浮遊したような気持ちをもつに至っています。落ちもこの浮遊感に連動してくるので、おそらくはこの話の主題になっているのではないかと思っています。そういうこころの動き、悩みの深さというものを……この飛鳥休暇という作家はうまいこと描くんですよね。本当にうまいんです。本人はあれだけ破天荒なのに、こころの繊細さも持ち合わせているという感じ。小説においてたいせつと言われる「こころの動き」。これ書かせたら天下一品ですね、彼は。

ぼくはですね、この作品において明梨の葛藤をしっかり楽しんでほしいなと思うのです。誰もがもつ心境をえぐる感じで書かれています。いい意味で息苦しさを覚えます。だけどラストにはあっと驚く展開が待っています。そこまでに設けた「谷」は、ラストの「山」のためにあったのかと。ある種の爽快をも覚えさせてくれる作品でした。

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