かめぱんのblog_8月31日の記事

 先週末、〇〇ちゃんの一周忌の法要が終わりました。件の喪服ももう何度着たことか。


 H先生が亡くなってしばらくの間、僕は本当に抜け殻状態でした。でも6月頃、お父さんが僕を家に招いてくれたんです。何度も。

 今では、僕が〇〇ちゃんの話をしたいがために重い酒瓶を背負ってH先生の家へ足繫く通っていたときと、ほぼ同じような状態です。


 お父さんの語るH先生像はシビアでクールな感じなんですが、個人的に印象に残った話があります。


 去年の春先、知り合いの息子さんが浪人するかどうかを悩んでいたとき「浪人経験のない親が、息子に何とアドバイスしたものか」と相談されたお父さん。試しにH先生にそれを丸投げしてみたところ、H先生はこう言ったそうです。


「まずは努力してる自分が好きかどうかかな。そういう子は努力が実らなくても経験自体が宝になるので。でももう辛いと感じるなら、すっぱり諦めて遊びに行きなさい、と思います。

 言い方が悪いですが、中途半端に勉強ができる子ほど、将来への備えや未来のために目の前のことをないがしろにしすぎる。


 無理して勉強に時間を費やさなくてもいい。上を目指さなくても専門学校でも、勉強はできます。勉強時間を減らした分だけバイトとか恋愛とか別の経験を積めば、それも宝です。


 親御さんも、我が子が立った、歩いた、喋ったと、その時々を尊いと感じていたときのように、今現在の息子さんの様子を見て、率直にどう感じるか紙にでも書いてみては」


 言いそう。僕も「先のことを悩みすぎるな」とよく言われました。H先生って「今」をとても大切にする人だったと思います。


 それと、以前H先生が卒業アルバムに適当な歌詞を書いていた話を書きましたが、先日お姉ちゃんがH先生の遺品の中から〇〇ちゃんの卒業アルバムを見つけて、僕に見せてくれました。


「これ、絶対歌詞じゃないと思うの」


 H先生から〇〇ちゃんへのメッセージは以下。


『一会のためによきことを』

『〇〇の今しかない一瞬を、どうか大切に使って』

『〇〇はどんなに迷った時も、必ずどの道を進むべきかがわかると思います。〇〇の美点は暗闇の中を照らす灯台の光のような強さ。卒業おめでとう』


 明らかに僕らのやつより丁寧で、あからさまに長文です。あのやろう。


 ところで僕のブログを何度も読んでいるというお父さんが「名前が出てこないから少し寂しい」と感じるそうなので、今日は〇〇ちゃんの名前を書くため筆を執りました。彼女を知らない人が何人見るかわからないけど、名前も可愛いのでぜひ見て。そして口に出してみてください。



 会光佳ちゃん。

 僕の大好きなあの子はえみかちゃん。


 ちなみにH先生のHはイニシャルではありません。高校時代、ほとんど猥談みたいな僕ら男子の秘めやかな相談事を彼はやたら真面目に聞いてくれたので、陰でエッチ先生と呼ばれていたのが由来です。



 中2のときと今の僕はもう、さすがにまったく同じ人間ではありません。えみかちゃんへの恋心も10年を経て徐々に変化しました。

 変わることや忘れることはすごく寂しい。だけど生きている人間にとってそれは自然なことだし、大切な人のことをだんだん思い出せなくなる自分のことも、まあ許してやろうかな、と最近は思います。


 僕は今もえみかちゃんのことが好きです。想いの形は変わっても、いつまでもかけがえのない女の子。







 鶴上 会光佳さん(旧姓・浦島)

 鶴上 辰彦先生


 お二人の冥福を謹んでお祈り申し上げます。

 小瓶 發幸 拝

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【1万】一会のためによきことを 平蕾知初雪 @tsulalakilikili

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