此れは終わりのない物語─140字で綴られる静謐な青の世界 聖河リョウ
形のよい指先が夜天色の表紙を開く。
"掌編録"と刻まれているのに、白紙の頁が続いている。
「君、運がいいね。其れは月世界から入荷した新商品さ」
視線を巡らせると淡青色の睛をした少年が佇んでいた。三日月を模した徽章が襟元で光る。
「夜にそうっと開いてごらん。一日にひとつ、物語がうまれるんだ」
★★★
140字小説の標本箱
目次
連載中 全499話
更新
- 君、運がいいね。其れは月世界から入荷した新商品さ
- 床にころがるちいさな硝子星を少年の指先がつまみあげた
- こころにぽかりとあいた虚を埋める術を知らぬまま、"大人"になってしまった
- 君が月の光にのまれないように
- これ以上、弟を喪うのは耐えきれなかった
- にいさん、と口にしたところで、誰のことか思い出せない
- 物心ついたときから、彼女の背を追っていた
- 君がいない世界なんて、考えたこともなかった
- 僕たちはふたりでひとつの"星"だった
- 僕のこころは擦り切れて、灰になって、それでもまだ息をしている
- ここは私の"聖域"だ。けっして、誰にも触れさせはしない
- 君の大切なひとは、誰
- お前、ここで死ぬのかい
- 玉座でほほえむのは、"どちら"なのだろう
- 約束をしたんだ。君のためにうつくしい花を咲かせよう
- 星のいのちの灯火を繋ぐためには、贄が必要だった
- 僕はこの楽園から飛び立つことはできない
- 手の中で輝くアクアマリンは、花売りとして売られた、ちいさなこどもだった
- 素肌にガウンを羽織っただけの姿で現れる花売りは、聖域を踏み荒らす
- 綺麗だろう。これからもっと良い鉱玉になる
- お兄さん、名前を教えてよ
- これが最後だね、とは、言い出せなかった
- 僕がいなくなっても、泣かないでね
- 君のカルサイトは、まるで生きているみたいだ
- 身体の内側からひび割れる音がする
- 僕の手は何度でもきみを寝台に引き戻す
- あなたの"愛"が、僕を狂わせていく
- 侵食が進めば、もう二人ではいられない
- あなたが覚えていてくれて、……よかった
- 一番星の核があれば、どんな願いもかなうのだと思っていた
- 夜天のかけらを前に、シリウスの手は止まっていた
- では、月世界のゲートを開きましょうか
- 俺が鉱玉になったら、先生のコレクションにくわえてよ
- あなたと過ごせて、しあわせでした
- 金紅石の降る夜に兄弟ごっこは始まった
- あのとき、星の海に飛び込まなくて、よかったなぁ
- あたらしい年のはじまりに、ささやかなお祝いをするの。あなたにも来てほしくて
- 星の核を食べるなんて、どうかしてる
- シリウスの核の損傷は激しく、何百年も眠りについていた
- 塔の頂に辿り着くことができれば、僕たちは大人になれるんだろう
- たいせつなものは閉じこめておかないと
- 愛されたいと願っても、この両手は届かない
- 君、すこし、雰囲気変わった……?
- あわい菫を宿した指先が最後のひとつを柩におさめた
- 痛みを、共有したいのです
- レンズのせいで色合いが変わってしまうのだね。私は君の青い睛がすきだよ
- にいさんはどうしたいの
- 何十年、何百年、何千年経とうとも、この庭園に終わりはない
- 彼はいのちを燃やす花を弄び、そのかけらを喰らう
- 気づいたら此処にいる。覚醒しているはずなのに、夢の中にいるようだ
- 霧深き森に佇む療養所に其の花は咲いていた
- 少年は"弟"の手をとり、一面の銀世界に足を踏み入れた
- 星のささやきさえも凍てつくような夜だった
- 凍てつく夜にきっと弟の身体は耐えられない
- 榛の瞳はまっすぐに"弟"の輪郭をとらえていた
- そのまま夜天の闇に溶けてしまいそうで、おそろしかった
- 卒業おめでとう。ようこそ、ヴァシレイアへ
- すきとおる指先が、青を繋ぎあわせていく
- 愛ゆえに、お前たちは壊れていく
- 新しい先生はベラクルスアメシストと名乗った
- 星の雨、早く降らないかな
- 彼の"弟"が覚めない夢にとらわれてから、何百年が経っただろう
- 星と星をつなげば、漆黒のキャンバスに宝石が浮かび上がる
- 試してみるかい。この星は、愛か、毒か
- 星を模した薬には、鉱玉標本たちを狂わせる成分が入っているという
- 僕が、"君"のことを、あいしているとおもうのかい
- その星は終焉に近づいていた。もうじき、月のかけらが降ってくる
- 摘み取られる星の末路など、誰もがわかりきっている
- ぱらぱらとこぼれおちる欠片だけが、冬の湖に浸した硝子片のように、すきとおってうつくしかった
- 碧い瞳の少年は、人形がよく知る人物の面影を、色濃く残していた
- 最後にめぐったのは花降る街だ
- 灰の底でばらばらになっていた"僕"をすくいあげてくれたのは、彼だったのに
- 星を食む。星をこわす。星を侵し、同化する
- 未完成ビブリオテクに4000冊目の物語がおさめられる
- 彼の残骸がみつからなければいい、と、私はひそかに祈っていた
- 火照る肌にふれる指先はひんやりとして冷たい
- 祈る神も、許しを乞う神もいないけれど、"いけないこと"だと、心のどこかで理解していた
- あれは、僕らを喰らう、死そのものだよ
- やあ、君も鉱石倶楽部へいくのかい
- 僕は"店長代理"さ。待っているんだ。そのふるい扉が開かれる瞬間を、ね
- あれは物語だよ。鉱石少年たちの記憶なのさ
- さあ、そろそろ店仕舞いだ。灯りの消えた通路で、僕は目を覚ました
- あなたが何かを言う前に、逃げ出してしまった私の弱さを、今日だけはゆるしてほしいの
- その足では、新月の舞踏会は無理ね
- 僕の意識は、ゆるゆると輪郭を失い、正気すらもわからなくなって消えていく
- 僕をいざなう骸の手は、かつて、僕の" "だったモノだ
- 欠陥品なのか。……僕は
- 本当に、いなくなってしまうんだね
- 手になじむそれは、世界でたったひとつ、僕のためにつくられた特注品だ
- 僕はねむってばかりいるのに、君はたくさん傷ついて、僕の"心臓"を探している
- 僕と君が出逢って、4017日目の夜が来る
- 幼き日に、母がくれた優しさを、弟に捧げたかった
- 無理に眠らなくていいよ。ボクがそばにいるからね
- 私は君を愛している。君の望みなら、なんでもかなえてあげたいんだ
- 標本の壊れた心臓を、淡く色づいた花びらが撫でた
- あんなもの、どうだっていいよ。僕は、永遠に"子ども"のままでいい。何者にもなれなくていいんだ
- 下級生の成績表を手に、標本たちは頭を抱えていた
- 他者を見下すような深青の睛は、昔から気にくわなかった
- 地上にはほんものの"空"があるという
- 放課後の講堂にラズライトの愉しげな笑い声が響く
- 私は、気が狂いそうだったよ。核が無事でよかった
- 春は間近だというのに、体調は安定しない
- どれだけ身体を重ねても、胸の鼓動はちぐはぐで、なんだか寂しくなった
- 一日中、陽がのぼらない世界で、少年は蝋燭に灯をともす
- 僕は、ただの召使ですよ。時折、こうして主人の話を聞くために、訪れるのです
- いつしか、白い壁は七色に染まっていた
- 絶望に彩られた階段をのぼっている
- 彼はたましいの運び屋だ。星の舟に乗って、宇宙をめぐり、儚きいのちを救っている
- 荒廃した都市は、かつて芸術の都だった
- 機械人形の指先が金紅石のかけらを拾い上げる
- 星をみたでしょ。僕、あんなにきれいな夜天をみたのはじめて
- ずいぶんと遠いところから来たのだね。最果ての街へ、ようこそ
- 星がねむりにつく日に、すべてを思い出せるのだろうか
- どんなに君を想っても、この声は泡になって溶けてしまう
- おとなになんて、なりたくない
- ねえ、君、僕を鉱玉にしてよ
- まさか。君は最優先事項だった
- 先生にきいたんだ。今日、戻ってくるって。さびしかったよ
- 碧い翅を広げた蝶の群れが、ふたりの頭上を横切っていく
- 朝も、昼も、洋燈や蝋燭のやわらかな灯りが学舎で揺らめいている
- 鏡の中で、袖口をとめていたはずの真珠釦が揺れた
- 数百年だ。いい加減、待ちくたびれたよ
- 僕は大丈夫だよ、と“弟”は寝台にもぐりこんだ
- にがい薬より、僕はこっちのほうがいいな
- あまやかな夜はまぼろしで、目覚めたときには誰もいない
- 窓をうつ雨音の代わりに視界を掠めるのは色とりどりの花びらだった
- 竜の背で影が蠢く。彼は、かつてヒトだったモノだ
- 気高き青い瞳の主は、もうこの世界のどこにもいない
- 青く澄んだ鉱玉は、少年の魂をも歪めてしまう
- 聖なる竜の加護をうしなった星は、亡びの日を待つだけとなる
- 人が愚者の道を選ばぬように、竜は地上に鍵を放った
- 起きたら、一緒に考えようか
- 地下に並ぶ柩に花を。夜には星に祈りを捧げる。孤独な日々は、果てがない。
- 生白い指先がやわらかな髪をなで、そっとくちびるに触れた
- そこは僕の部屋ではないけれど、たしかに“僕”の居場所だった
- 1460の夜を越えて、星のかけらが降り注ぐ
- 頭の中で響いていた呪いの声は、もうきこえない
- 鉱玉に寄生されたにんげんはうつくしいよ
- 少年が手にしている本は、星が世界を覆い尽くす前の時代に記された神話だ
- 僕たちは互いの名を知らない。この界隈で真名にふれることは禁じられていた
- ひみつを共有するような、あまい、あわい感情をともなって、私たちは新たにうまれかわる
- 闇に覆われた世界で、箱船計画が進行していた
- ふたりで夜天の星々を指さして、ひとつ、ひとつ、輝きを追いかけた
- 兄さんと僕は、あまり似ていない。双子のくせに、なにもかもが正反対だ
- 救済機関の救いの手は、荒れ果てた界隈で生きる僕たちのところへは届かない
- 黄金の睛が薄汚れた私の輪郭をとらえた
- 僕が星拾いに夢中になっている間、兄さんは路地裏の闇に紛れている
- この手は、最愛の弟のいのちをつなぐことができる
- 柘榴石に似た残影が淡い空のむこうにとける
- 君を、鳥籠の中へ、閉じ込めないと
- 其れと出逢ったのは、運悪く手持ちの星屑を奪われた夜だった
- 闇に閉じ込められた世界には不釣り合いなやさしい子守唄だった
- 青に浸した指先は鉱玉のかけらのようにきらきらと煌いた
- 少年に宿る核はすべてのいのちを花に変えてしまう
- 僕が愛したのは花ではない
- ある者は呪いと恐れ、ある者は祝福とあがめ、私は彼を粛清する立場にあった
- あなたの大切な人も、きれいな花になってしまうかもしれないよ
- 生き残りがいれば、まっさきにお前を食らいつくすよ
- だまれよ、花喰い。お前の心臓も美しい花にしてやろうか
- すきとおる翅を追いかけて、中庭に迷い込んだ僕を、兄の手が引き戻す
- 半歩先を歩くにいさんは、授業に遅れる、と眉間にしわを寄せた
- 感情を失った瞳は文字の羅列を曖昧になぞるだけだった
- あなたの中に星がある。……きれいだね
- 僕よりも先に学舎に通っている兄は、純血の生徒たちとうまくやっているらしい
- 白衣をまとった男は、朔を地下から連れ出した構成員だ
- 大げさな鐘の音とともに、差し出されたのは温泉旅行のチケットだった
- 澄んだ水の底に、いのちのかけらを沈める
- 知らない街の知らない駅で、僕らは出逢った
- 扉をあけてごらん。僕はね、とある"物語"に招かれたんだ
- いつも傍にいてくれた君のぬくもりを忘れかけていた
- 籠のなかで果実を食むことも、やさしい手が頬に触れることもない
- 主人を失った僕には、標本たちの識別番号を解読する資格がない
- 僕のいのちを、半分あげよう
- 触れた先にあるものを、彼らはまだ知らなかった
- 僕たちの進む道は決して平坦ではなかったけれど、互いのぬくもりがあれば、どこまでも飛べるのだと信じている
- 自分が何者かもわからぬまま、覚めない夢を、幸福の日々を、繰り返す
- 標本箱に入れて、日が暮れるまで眺めていたいけれど、僕をうつさない睛に価値はない
- 貴方はシリウスね。おとぎ話を何度も読んだわ。私の王子様
- けれど、口元に浮かぶ笑みは、少年の方がずっとあまやかだった
- 記念日を祝うには、僕たちの関係はあまりにも脆かった
- 窓辺に佇む彼は、いつもと変わらぬやさしい睛をしていた
- 月の光が宿る瞳から、ほろほろと白銀の粒子がこぼれおちた
- こんな激情を抱えて、ひとりで生きていけるほど、強くはない
- 少年は月をたべていきている
- 手のひらできらきらと煌めく“彼”は、遠い昔におちてきた彗星の一部だ
- 小瓶の底に天青石のかけらを敷き詰め、指先ほどの星明かりであたためる
- 腕の中のぬくもりは、いつか離れていくものだと、理解していたはずだった
- 我慢強くて、自分を責めてばかりの、よわくてもろくてやさしすぎる心に、触れることはかなわないけれど
- いかりも、くるしみも、かなしみも、頭の奥底に押し込められたようで、ぼんやりと熱を帯びている
- 花の雨降る安息日。友は未だ夢の中にいる
- 希望なんて、はじめから手放してしまえばよかった
- 結晶と化した街が海の底に眠っている
- 彼らは、純粋に、人間を愛し、培養と再生を繰り返す
- 痕に秘められた意味を、少年はまだ知らない
- 弟が魅せるまぼろしは、美しく、もろく、儚かった
- あの頃の名残は、なにひとつ残っていない。ひとかけらも、なくなってしまった
- 流星雨が降る夜は、星のささやきが街を満たす
- ばらばらになった兄弟のひそやかな再会を知る者はいない
- ただ彼のぬくもりだけが、傍にある
- 貴女はレグルスじゃない。核も、なにもかも、違うだろう
- 最後の1頁にたどり着く前に、少年は眠りについてしまった
- そうやって、すぐ強がる。あなたの悪い癖だ
- 今日は雪でも降るのか。どうして、君が此処にいる
- 寝顔みたの、ひさしぶり。何百年前だっけ、……あなたは覚えてる?
- 君は、私を、裏切らないでしょう
- 淡青色の睛がうつくしいひとだった。僕の、はつこいのひとだ
- 先生に、会いに来ました
- その人間と、ともだちになりたいのだろう
- 逃げ出してきたんだ。夜のかみさまは、気まぐれだからね
- 器の底で、ぱちぱちと星がくだける音がした
- 見知らぬ少年のぬくもりが触れる。月のような黄金の瞳が、きらりと光った
- きれいなルビィの心臓だね
- これは、いつもしていることなのだろうか。僕には、記憶がない
- 次に会ったときは、僕の想いを伝えるよ
- あわい光を、灯火を、いのちを、絶やさぬように進んできた
- 深い夜の底は、花たちの領域だ。星は指ひとつふれることができない
- まばゆい光が満ちる朝は、星たちの聖域だ
- 夜天に浮かぶ欠けた月は、時折こうして地上の民をもてあそぶ
- ちいさな星は傍らに倒れる兄の手をつかんで離さなかった
- 星あかりさえ、ひび割れた菫の瞳には刺激が強すぎる
- 細い月明かりがちりちりと肌を焼く
- 海辺の療養所には傷ついた子どもたちが集う
- 僕らを迎えに来る列車はないけれど、ふたりなら何処へでも行けるだろう
- 鉱玉がはなつ光はかすかに青みを帯びていた
- “夢”は楽しかったですか
- もう、大丈夫。どこも痛くない
- 其れはただ祈るための存在だった
- 彼の描く紋様は、千年眠り続けたがらくたに鮮やかないのちを与えるのだ
- お前を縛っていた者たちは、もういない
- 彼の洋燈のあかりが必要だ。一歩先を照らす強い光
- “弟”がゆるりと濃紺のリボンをほどく
- 冬の海は灰青に満ちていて、ほんの少しさびしい
- 森へ入ってはいけないわ。先生に言われたでしょう
- 誰よりもきれいな蒼だ。ここに並ばないか
- 少年は鉱石棚を開けるそぶりをして、想い人の睛を眺めていた
- 散らばった核の破片を踏みつけた影は、シリウスに狙いを定めていた
- いつか本当の"夜"へ君をつれていく。そう言って微笑んだ友は、もういない
- そうか。今度は、お前がすべてを壊すんだな
- シリウス。お前は"生き残った"んだな
- でも、それは、本当にカノープスなのかな
- 青白い月の光。星のかけら。薔薇のかおりと太陽の蜜
- 抱きかかえて運ぶのは容易いが、幸福な夢の時間を壊したくはなかった
- ありもしない記憶を、歌うように口にする
- 莫迦にしているのか。もう、子どもじゃない
- 黒曜石に似た睛は、おだやかで、やさしくて、けれど、時折大人びた色香をまとって、少年のこころをかき乱す
- 少年はあおい紙片にそっと暗号を書き記す
- 星の煌めきが満ちる聖堂でいのりを捧げるものがいた
- 月の光につつまれて、青い竜がおちてきた
- 僕は星晶花のかけらを与え、其れを育てることにした
- 煌めきが、ひとつ、うまれるさまを、僕と竜はながめていた
- 此処は星の墓場か。……絶え間なく、終わりが降ってくるのだな
- "竜"の輪郭は消え失せ、困惑気味に眉を寄せる君は、どこからどうみても"人間"だった
- にんげんとは、ひどく、もろいいきものだった
- きれいだね、と笑う彼の人をあいしていたと気づくのは、きっと終わりの日だ
- あなたの前で、どんな顔をしていたのか、……思い出せない
- この短期間でよく飼いならしたものだね
- 少年は青い小瓶の蓋を開け、雨水をとじこめた
- いつでも、食べて、いいんだよ
- 深い傷を負った竜のそばで、少年が始まりの神話を口ずさむ
- かつて、この宇宙には“地球”とよばれた惑星があったという
- 星に呪われたこどもたちは、人ではいられない
- “弟”の頭をなでてやれば、困惑気味に眉をよせる姿があった
- 僕の声が聞こえるか
- 黄水晶と同化した瞳を覗き込んで、其れは微笑んだ
- 僕を送る"死神"が正式に決まった合図だった
- 中で眠っていたのは、夕暮れの空をとじこめた洋墨壜だった
- 死神は装束をまとったまま、白い部屋の片隅に溶け込んでいる
- 待ち合わせ場所、ここであってる?
- 呼吸をするたびに、かろん、と音を立てて輪郭の一部が崩れ落ちる
- 今日は、たくさん薬を飲んだから、きっとこわい夢は見ないだろう
- 彼のうたは星を癒し、毒をはらむ種を一掃する
- だいじょうぶ、と彼をなだめる僕のほうが限界を迎えていた
- ひさしぶりにこわい“夢”を見なかった
- とうに亡びた星の影を少年の瞳が追いかける
- 満月の夜にあらわれる、最古の"移動式図書館"が、この街を訪れるらしい
- ややあって、星の瞬きに似た熱をもたない瞳が、私をとらえた
- 僕に、“弟”なんていない。……いるはずがない
- もとは誰のものでもないだろう。空き部屋に、君が勝手に住みついたんだ
- 核に侵され、呻くこともできぬまま、削られていくいのちを前に、白き死神は手をさしのべた
- レグルスの器の中に、何者かが潜んでいるのか。聡明なすみれの瞳が微かに澱む
- 長い旅の果てに出逢った彼は、たったひとつの星だった
- あなた、可愛らしい顔をしているのに獅子の星を宿しているのね
- 気安く呼ぶな。僕の“光”、……アルフェッカ
- 此処は星と花の境界線。頼りない星明かりすら、君には毒だと思うけど
- 桔梗の名を与えられた僕は、先生の影となり、かろうじて動く花たちの世話をしている
- 無数の星が、しずかに僕たちの箱庭を見下ろしている
- この奇妙な関係は指先ひとつで始まった
- 本当に、あれは、恐ろしい生きものだっただろうか
- 夢の中に浮かぶ風景は、刹那のまぼろしでしかない
- ふるい歴史書に刻まれた、今はなき脅威のひとつにすぎない
- お前はルミナスの血族だ。清らかな血が毒を浄化するだろう
- 何百年、何千年経とうとも、月を宿した睛は美しいままだった
- 僕は“本物”を見たことがないのに、其れを知っていた
- 行き場のない怒りを、虚ろを、憎悪を、絶望を、どこへ解き放てばいい
- 金盞花は砕けたはずの指先をぼんやりとながめていた
- 星のかけらには毒があるのに、きれいなものには目が無いの
- 明日には跡形もなく、すべてが、私ごと消え去っている
- “卒業”したら海を見にいきましょう
- 魔女とよばれるいきものは孤独だ
- 星にうまれたあらゆる生命のおわりが、魔女によって齎される
- これは、いにしえからの決まり事なの。貴女に、祝福を
- この洋燈は、シリウスを導く光になるんだよ
- ギムナジウムの創設時から存在する部屋は、今では誰も寄り付かない
- 青い瞳ばかりが、いつわりのシリウスのように輝いている
- シリウスのことを想うとき、僕の核に宿るのは、ふたつの色だ
- 星のおわりなんて、こんなものかと、どこか他人事のように、僕は“僕”の死を眺めていた
- 君の絶望のふちで待っている
- ひとつの器が生を、得た
- 子犬のようになついてくる其れを、僕は覚えていない
- 君は、あの少年を知っているのか
- すみれの瞳が白銀のうなじをとらえる
- 私、ずっとここに居たのよ。あなたが来る前からね
- 待受画面の名もなき海が、静かに揺れる
- 君は、祈りと祝福だけを抱えて、進むがいい
- 人々は歓喜の声をあげたが、やがて誰も神子を思い出さなくなった
- 神子さまは、たったひとりで世界を救うと云われています
- その年の冬も、星は神子を選ばなかった
- 神子のたまごたちが世界中から集められたときには、星は機能を停止しようとしていた
- 最後の夜だというのに、交わした言葉は少なかった
- 新月の夜は灯りをともし、珈琲をいれる
- 彼のいのちが尽きた日を、これほどまでに覚えているのに、僕には向き合うことも許されない
- 明日の見えない者たちは、暗がりの中で突き進むしかなかった
- 核に喰われた少年たちの嘆きだと、ミモザが呟いた
- 星をつかまえたんだ。みんなには、ないしょだよ
- 満天の星空よりも、輝ける宝石よりも、たいせつなものがあった
- ほんの少しだけ生き長らえた、ちいさな灯が、燃え盛る
- 広げた両の手は血にまみれ、暗がりの道が広がるばかりだ
- 少女たちの祈りは実を結び、星の子どもはふたたび宙へと旅立つ
- この森に迷い込んだのなら、魔女の呪縛からは逃れられないはずよ
- 僕は、君の音が好き
- 弟とふたりで、逃げてきたのだと、記録に残っていた
- ルノ・ルミナスは、だれもきずつけないと誓った
- 蝶のはねが燃え、灰になっては宙へ消える
- ただ息苦しさに耐えるしかない、どうにもならない夜が来る
- めずらしい花びらを集めようと、中庭に集う生徒たちを避けて、友の姿を探した
- 螢石を散りばめたような碧い夜が広がっていた
- 眠りの底に沈む世界で、誰かの声は宙に溶けた
- お前は生きるんだ。生き延びるんだ。僕と共に
- 運び込まれてきたのは、少年のあどけなさを残す魔術師だった
- 碧い海を見ようと退屈な日常を飛び出した
- 伯父さんのところに戻りたい、と弟がつぶやいた
- 親友とも、恋人とも、呼べない、名前のない奇妙な関係は、今も続いている
- 彼のつよさは、皆の希望で、光そのものだった
- あの日、僕は“兄”のくちびるのやわらかさを知った
- あの日、はじめて“弟”のくちびるのつめたさを知った
- 新月の夜の星たちは、とにかくおしゃべりだ
- ただひとりの化け物が、剣を抜いた証が、散らばっている
- ばけものと呼ばれた其れは暗がりの中で生きていた
- おれは、……ひとじゃないのに。どうして
- 其れが、神聖な結界を破ってあらわれたのは、神が与えた最後の奇跡だったのだろうか
- お入り。ここが君の住処。好きに使いなさい
- 王の祝福は、とろけるように甘く、人の子をおおいに惑わせた
- 祝福を与えよう。君だけの名だ
- 神聖な森の奥で、彼らは絆を育んでいた
- ばけものの居所を突き止めた審問官は途方に暮れていた
- 初めから狂っているのさ
- もう、だれも、ばけものと呼ばれた人の子から、幸福をうばうことはない
- ほんとうに、優しい子。人を喰らうなんてうそのようだね
- 洋燈にとじこめた星あかりが薄れていく
- 彼女は“恋人”とともに退屈な日常から逃げ出し、ばけもの狩りを生業としていた
- わたしには、核がないもの。ばけものなんて、こわくないわ
- 真実は、うそで隠してしまおう
- 核をうしなった彼女は、ねむらなくなった
- あなたのいのちが、終わってしまう
- 寝台で身を寄せ合えば、あとは、深く、沈むだけだ
- 今宵は365日目の記念日だ。もしかしたら、君も物語の中に入れるかもね
- 瞬きする間に、僕は星空に呑まれた
- 兄さんがくれた星の輝きも、やさしい声も、額に触れるぬくもりも、全部、永遠に僕のものだ
- 森の奥のギムナジウムに一通の招待状が届いた
- 君、本が好きだろう。一緒にどうかと思ってね
- 此処は雪のかわりに花が降る。まっしろな“花畑”の中で少年は目を覚ました
- 彼の秘密は、ずいぶん前から知っていた
- 月食堂の船をおりた少年たちは、羅針盤とふるい地図を頼りに、丘の向こうを目指していた
- 兄とそっくりな菫色の睛からほろりと泪がこぼれた
- 視界の端で青白い光が弾ける。カノープスの洋燈が二人の往く道を照らした
- 少女の手に、古い羅針盤があった。盤面に孔雀石が嵌め込まれている
- 私たちは夜の底で咲く花だ
- 夜の湖に浸した核は、淡青色の光を帯びて、煌く
- まだ、核が馴染んでいないんだね。先生に薬をもらおうか
- 名もなきおとぎ話の欠片を抱え、少年は途方に暮れていた
- 星の海に沈んだあとは何処に行くのだろう
- 彼は、星の海に溶けて、消えてしまった
- 僕が、流れ星をつかまえようなんて言わなければ、今頃、此処に立っていたのは、兄だった
- 月に旅立った友の体温に、すこしだけ似ているような気がした
- 見廻りの灯をかいくぐり、扉を叩いたのは少年の方だ
- 君の瞳も、鉱石に似ているね。天青石のようだ
- あんなに大切にしていた“誰か”の名前も顔も声も香りも日々の営みも思い出せなくなっていた
- とうめいな曹達水に淡いすみれの影が沈んでいく
- 君の記憶は欠けていくだろう。何も思い出せなくなるよ
- 兄弟は身を寄せ合って、しずかに眠り続けていた
- 洋燈のあかりよりもまばゆい光が、夜天を駆けていた
- 薔薇は、陽の光が似合うと思うの。きっと、誰よりもきれいだよ
- わたしたちのダンスパーティーに招待できたら素敵ね
- 私は存在しない“星”よりも、あなたのほうが大事よ
- 青くて、つめたくて、きらきらしていて、きれいだと思うな
- 星は凍てつき、花は燃え盛る
- おねがい。これ以上、菫をこわさないで
- 花が、灰になるときは、薄青の月明かりがふる
- 青白く輝く星が彼女のたましいを楽園へと導くだろう
- ほんの少しギムナジウムを離れていただけなのに、洋燈のあかりが、なんだか懐かしかった
- いつの日か、ほんとうの“夜”にたどりつく。淡い夢を、ふたりでみていた
- いつの日か、本当の“夜明け”に辿り着く。儚い夢を、ふたりで見ていた
- 未完成ビブリオテクの地下書庫に、ふたつの足音が響き渡る
- あの日、僕はたったひとりの大切なひとを選んで、世界を破壊した
- 彼は、どこまでも愚かで、うつくしいいきものだった
- かみさまはどこにいるの。壊れたこころで少年がわらう
- 僕は独りで待っている。彼らが迎えに来てくれる日を
- 夜天にうかぶ星のうつくしさを、ひとりで輝く月のさびしさを、にいさんが教えてくれた
- やさしいぬくもりが離れていく。夢の中では、手をつないで離さなかったのに
- 冬の湖に浮かぶ星空は、どんな宝石よりも美しかった
- 北の空に鉱石の花が咲いた
- やさしい眼差しが、死のふちにたたずむ僕の心をそっと撫でた
- 白銀の雪が舞う世界で、少年は独りだった
- のろわれた両の手をやさしく包み込んでくれたのは、兄だった
- 今宵も老いた星が消え、新たな星が生まれ落ちる
- 孤独な少年に、兄が手を差し伸べる
- 少年がうみだす焔は世界を照らし、指先からこぼれる凍てついた結晶は熟れた熱をさましていく
- ぼくたちが、なぜ、物語を紡ぎ続けるのか。だれも、なにも、こたえられない
- あれは、呪いよ。このサナトリウムを蝕む毒
- あなたも、花の名前をもらったの?
- 花の少女たちは夜の底で咲き誇る
- 凍てついた月明かりがさしこむ図書室は、静寂に満ちていた
- ここは月の聖域。こわいものは何もないよ
- ちいさくて、はかない、いのちの燈火に名前をつけた
- 弟が目覚めたというのに、浮かない顔だね
- ただの燃料になるよりマシさ。私を楽しませてくれるのだからね
- そんなことをしても、クォーツはもどらないよ
- 祈りを捧げ、弟の目覚めを待っている
- 真面目だな、君は。そういうところも好きだけどね
- 三千年前に約束しただろう。覚えているかい
- ベラクルスアメシストは愛しい友のためにすべてを捧げるだろう
- 魔物も影も毒素もおとぎ話の住人だ
- 私のデュモルチェライトに何かしてごらん。真っ先に、その青い核を砕いてあげよう
- まっすぐに、誰かを愛せたらいいのに
- 愛をささげる者たちが羨ましかった
- 僕の、ともだち、だよね
- 最近、おかしいね。僕の顔ばかり見てさ
- あなたが新しい先生ですね
- 新しい教師の名はロゼといった
- 私の名を呼ばないで。カイヤナイト
- そんなに警戒しないでよ。君を食べたりなんてしないさ
- お前なんて、永遠に標本室で眠っていればよかったんだ
- 核には触れていないさ。貴方と違ってね
- 気落ちすることはない。顔をあげたまえ、カイヤナイト
- 皇帝に愛されたひとりの男が、狂ってしまった
- 金紅石の降る夜に、僕は“天使”をひろった
- “天使”だなんて、ほんとうは嘘で、だれも傷つけない優しい存在だと、信じたかった
- 僕のてのひらにこぼれ落ちた泪は、あわい黄金色の結晶と化す
- ジーン。お前、最近おかしいぞ。月食堂にも来ないなんてさ
- “天使”の歌は、あたたかくて、やさしくて、どこか物悲しい不思議な旋律に満ちていた
- 僕たちの日常は、唐突に終わりを告げた
- あの日、ふたりは名もなき者となった
- 大きくてやさしい手が、少年の背をさする
- 昏い影が、あまい香りとともに、ゆるりと近づいてくる
- 僕は、ここがいい。君のそばにいたいんだ
- アズライト、目を覚ませ。あれは災いを呼ぶ標本だぞ
- 君がわざわいを呼んだとしても、僕はずっとそばにいる
- よほど、標本室に行きたいとみえる
- 君の核の輝きは、変わらないもの
- 親友という名のヴェールに覆われた昏い感情は、はたして、健全なものであっただろうか
- 世界を救う神子様にも、苦手なものはあるのね
- 神子とたたえられた少年の、世界を呪うたましいだけが溶けている
- 人々のいのりを浴びて、神子は剣をとった
- 短い春の、ほんの一瞬、さしこむ太陽の光がまぶしかった
- たった一輪の花が、仄暗い日々を、ほんのすこしだけ鮮やかにしてくれる
- 偽りの太陽が地下都市を照らす中、唯一“本物”の光が射し込む聖域だ
- 僕たちが書き写しているものは、なんなのだろう
- 本来ならば、此処に立っているのは優秀な兄のはずだった
- だから、僕は、このままでいいのだと総てを諦めて瞼を伏せる
- ほろほろとこぼれ落ちるかけらは、創星主が流した泪のようだった
- 海の底に溶けた残骸は、世界を呪いながら、深い闇を漂っている
- どんなときも兄が傍にいてくれた
- 磨き上げられたグラスの底に月が沈んでいた
- かつての結晶庭園跡に、私たちは身を寄せ合って暮らしていた
- 涙のかわりにこぼれるのは、シトリン、セレスタイト、ガーネット、ベリル、アクアマリン、さまざまな結晶のかけらたちだ
- この身が人としての機能を維持できなくなって久しい
- 私は家族のぬくもりを知らない
- かつて、この庭にすんでいた標本たちのいのちが、変わり果てた姿だと、お父様がおしえてくれた
- まがい物の月は、やさしい記憶ごと吞み込むように、ぎらぎらと輝いている
- 私は、ヒトを模しただけの、ただのモノだ。核が、私をヒトに近づけているのかもしれないがね
- 春先になると、弟は決まって体調を崩した
- ベリー摘みの途中、兄さんと寄道をするのが好きだった
- 父さんがつくってくれた天象儀は今宵も正確に星空を投影する
- 浄化計画が終盤にさしかかった頃から、月と母星を往復する宇宙船は数年先まで予約が埋まっていた
- 僕たちは、散らばったかけらをむりやりつなぎ合わせたような、いびつなかたちをした“家族”だ
- あのときの選択は間違っていなかった。私には彼らが必要だったのだ
- 孤独な研究者があいした子どもたちは、かつての残骸に成り果てていた
- 其れは、何度も、何度も、繰り返されてきた、擦り切れた祈りだった
- ゆるやかに溶けていく熱が、君の存在をしらせてくれる
- あの日、一番星をつかまえようとして、彗星に撃たれたのは、彼の方だった
- この船がどこへ向かっているのか、だれも知らなかった
- どこからともなく星が砕ける音がした
- 世界の果ての研究所で、"星"の再生がはじまる
- 星はうたうと教えてくれたのは、だれだったのか
- 澄んだ青の核を砕く。毒素の濃度をはかる計測器が音をたてた
- どこまでも、やさしくてあたたかな時が、続いている
- 博士、この星の外側には何があるのでしょう
- 青白い羽を広げ、最後の“魔女”は微笑んだ
- 其れは、かりそめの祝福だと、はじめから理解していた
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