物心ついたときから、彼女の背を追っていた

物心ついたときから、彼女の背を追っていた。少年の内に宿る核がみせるまぼろしだとしても、一度だけ。たった一度だけでいい。

やわらかな黒髪に、澄んだ菫の睛に、かたく結ばれた唇に、ふれてみたかった。

「君は頭がおかしいんじゃないのか」

誰も彼女の存在に気づかない。気高き菫の花が足元で揺れた。


2021/11/30

星満つるギムナジウム

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