にいさん、と口にしたところで、誰のことか思い出せない

古い絵本が燃えている。舞い上がった灰が空の青に吸い込まれていった。

にいさん、と口にしたところで、誰のことか思い出せない。

僕のたいせつなひと。いつも傍にいてくれたひと。先生はそう教えてくれたけれど、隣にあったぬくもりを、僕は忘れてしまった。

最後の一冊が灰になる。

思い出が消えていく。


2021/11/29

星満つるギムナジウム

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