後編:いざ、大晦日を迎える。そして緑のたぬきに……!!
大晦日は夕方から出勤して、夜遅くから来る参拝者を迎えて、空いてきたら仮眠が取れて、また朝から昼まで働いて解散ってスケジュールだったんですが、その大晦日の夜に異変は起きたのです。
無雲は子供の頃からちょっと抜けた子供でした。お勉強は出来たけど、どこかぶっ飛んでいるというか、ネジが緩んでいるというか、「そこまで考えてなかった」っていうか何にも考えてなかったっていうか。深い事は考えない。考えるな、感じろ! で成長してきたっていうか。
巫女バイトでも、そうだった。
大晦日と言えば十二月。十二月と言えば冬。冬と言えば寒い。
前日の日中に働いていた時は全然気付かなかったけど、大晦日の夜、境内のテントでお守りを売っていた無雲は、開始一時間で自分の異変に気付いたのです。
「さ、寒いな……」
足元にストーブはあったような記憶があるけど、巫女の服ってスース―していてとっても寒い。『中に防寒着を着こむ』だなんて高等技術、当時の無雲が思い浮かぶわけもない。『言われたままに支給された服を着ていただけ』の無雲にとって、大晦日の夜の空気は厳しかった。
「寒い、寒いよぅ」
段々「寒い」としか言わなくなってくる無雲。一緒にバイトをしていた友人はカイロとか持っていたし、防寒着も着ていたらしいですよ。でもそういうのを分けてくれない子だったのですよねぇ……。
というわけで、一人ガクガクブルブル震える無雲。でも、そんな事で休憩をくれないのが超短期の巫女バイト。無雲の極寒耐久レースは、深夜三時まで続いたのです……。
深夜三時、待機室に戻って仮眠の前に晩御飯と言う名の『年越しソバ』が配られました。やっと暖かい部屋で温かいご飯にありつける、そう思ってホッとした無雲に手渡されたもの。そう、それが『緑のたぬき』でした。
極限まで冷え切った身体、しかも超空腹。その時の緑のたぬきはこの世で一番美味しいご馳走のごとく感じました。もうね、ダシが五臓六腑に染み渡る。
「あぁ、今まで何ともなく食べていたけど、緑のたぬきってこんなに美味しかったのか……」
無雲は本当に感動していました。それからはずっと『緑のたぬき』とシリーズ製品の『赤いきつね』は大好物です。
その日の夜は巫女十数人と雑魚寝だったけど、ほっこりとお腹も満たされてぐっすりと眠る事が出来ました。
して、起きたら元旦ですから、大量の参拝者を迎え撃ち、ヘトヘトになるまで働いて、そして温かいお家に帰ったわけです。
もちろん、翌日からはカイロ持参防寒着増強で挑みましたよ! さすがに学習したよね~。
この巫女バイトはこの一回しかやらなかったけど、良き思い出として無雲の中に残っております。あの時の緑のたぬきの美味しさは生涯忘れないだろうな。
そこのJKのあなた! 巫女バイトするならカイロと防寒着は必須ですよ!! お金貰えて本格的なコスプレ(!?)出来る機会なんて滅多にないからね、機会があったら是非!!!
────了
巫女のコスプレをしたら緑のたぬきに目覚めました! 無雲律人 @moonlit_fables
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