第14話 また会える日がきっとくる
「ヴェルおにいちゃん、いくよ!」
「あぁ、頼む!」
フーリさんがここを去ってから約半年の月日が経った。
あれからずっと、俺たちはいつもの図書館と使われていない空地で秘密の訓練を続けていた。
俺はひたすらに剣術を磨き、マナはひたすらに魔法を磨く。
俺もマナも、己の得意分野を納得のいくレベルに仕上げるまで、中途半端に他の分野へ手を出さないというのがフーリさんとの約束だ。
そして今、俺を囲う形で半球状に展開された大量の水玉たちが、マナの合図で不規則かつ連続的に襲い掛かってきている。
俺の手には魔剣【桔梗】が握られている。これ一本で、この魔法攻撃を凌ぐのだ。
マナの水属性魔法に、ほとんど音はない。
かなりの高速で迫りくる水玉群を前に、俺はゆっくりと息を吐いて、集中モードへと移行する。
「――はぁっ!」
まずは右手の方向。
魔力を用いて世界を満たす大いなるエネルギーの変化を感じ取ることで、全方向からの攻撃を察知することが出来ると教わった。
俺はすぐさま完璧なタイミングで右側へと剣を振り下ろす。
「お、らっ!」
次は背後。無駄にエネルギーを消費しないように、効率よく背後の水玉を弾き飛ばす。
立て続けに上方向から、今度は三連撃だ。
一振りですべての破壊は不可能。だから俺は地面を蹴ることで一つを回避し、直撃コースの一つを斬り落とす。最後の一つは強引にすり抜けを用いて回避した。
「スピードあげるよ!」
「っと、了解だ!」
次々と補充されていく水玉。その勢いと回避難易度は段々と上がっていく。
昔、弾幕シューティングゲームにはまったことがあったが、リアルでやるとこんな感じだったんだなと懐かしくすら思えてくる。
ちなみにこの水玉。触れると小爆発を起こしてめちゃくちゃ痛い。
死にはしないけれど、一発喰らったら声を上げてしまうレベルなので、そのまま立て続けに追い打ちを食らう羽目になる。
この訓練を最初に試した時は地獄を見たもんだ。
マナもマナで泣きそうな顔をしながら回復魔法をかけまくってくれたのも今となってはいい思い出。
「もっともっとあげるよぉ!」
「えっ、ちょっ、これ以上はキツ――」
「だいじょうぶ! ヴェルおにいちゃんならできるよ! がんばって!」
「くっそぉ! かかってこいいいい!!」
そんな満面の笑みで応援されてしまっては、アドレナリンを放出して頑張るしかない。
そんなわけで可愛い妹に1時間近くいじめられた末に、俺はようやく解放された。
終わった瞬間、俺はその場でばたりと倒れたのは言うまでもない。
「えへへ。さすがヴェルおにいちゃん! すごかったよ!」
「はは、まあ、な……」
へとへとの俺のすぐ横で、優しい笑顔で回復魔法をかけてくれるマナ。
もう一生こんな感じで楽しく生きるのもアリなんじゃないかとすら時々思い始めるくらいには、充実している日々だった。
でもそんな生活はある日、あまりに突然勝つ一方的に奪われることになる。
そう。スキル鑑定の日がとうとうやってきてしまったのだ。
そして話は冒頭へと巻き戻る――
♢♢♢♢
「おら! さっさと歩け、おら!」
スキルガチャで見事〝すり抜け〟て大ハズレを引いてしまったらしい俺は、屈強な男たちに酷く乱暴に引きずられている真っ最中だ。
(くそっ、こいつら程度ならどうにかなりそうだが、ここで暴れるのは流石に分が悪すぎる)
状況は最悪。これからどんな目にあわされるのかさっぱり想像がつかない。
だが、こんなところで死ぬわけにはいかねえ。
フーリさんとの約束。そして今回鑑定に呼ばれなかったマナも残している。
(何とかすきを見て逃げ出さねえと……こういう時の対処法もしっかり勉強しておくんだった!)
脳金剣術修行ばかりしていたので、結局あの大図書館に合った本の1パーセントも読めていなかった。
この日が来るのは分かっていたはずなんだから、しっかりと対策しておくべきだったと、己の短慮さを深く反省した。
だが、いまさら反省だけしたってしょうがない。
どうにかして、生き延びる。
その強い意志だけを再確認して、俺はその機会をただじっと待つことにした。
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