第5話 終わりを始まりに変える錬金術士
この世界は夢と希望に溢れている。錬金術、魔術、召喚術、種族。わたしが知っているものはほんの少しで、努力をすれば理想へと近づいていく。
でも、ほんの少しの理不尽が彩りを与えているのだとしたら。
その理不尽を乗り越えなければいけない。
「本当に困った……」
偉大な錬金術士候補のわたし、アンナ・クリスティナは重大な危機を目の前にしている。
『錬金学校マテリア』
世界有数の名門で最高峰の教育・経験を受けられる学校。らしく、『ライトニア王国』に住んでているまだ会ったことのないお爺さんのすいせん? って言うのもあって運良く入学できたけど大きな壁が目の前にできてしまった。
この学校の最初の試練。
それは『使い魔』を手に入れるということ。
調合はできて当たり前、だからその身を、知識を技術を無条件で守ってくれる存在を手に入れることが重要だから。という理由で。
使い魔は『
もしくは『召喚符』って呼ばれる道具を使って、離れた存在の誰かを呼び寄せて同じようにどっちが上か教える。
みんな後者の方法で使い魔を手にしたみたいで、わたしも同じように調合して使ってみたけれど、どういうわけかわたしじゃ勝てそうもない強そうな存在ばかりが呼び出されてしまう。
雷雲を呼ぶ鳥、溶岩を飲む竜、体の半分が霊体の獣。本でしか読んだことのないような強い存在。
まだ子供だったけど、下手したらわたしが食べられてもおかしくないからすぐに帰ってもらった。
じゃあ外に出て使い魔を捕まえればいい。と思ったけど、わたしが今いる『ライトニア王国』は平和で騎士団の人達によって危険な獣はすぐに追い払われるみたいで。近くには家畜にできるような獣しかいないと教えてもらった。
必要なのはミルクやタマゴじゃなくて強さと知能。わたしを守ってくれる使い魔を手に入れないと。
「アンナさん、こうなれば人道に背くことになりますが最終手段しかありませんわ」
「ナーシャ……何かいい方法があるの?」
彼女は『ナーシャ・アロマリエ・フラワージュ』。
マテリアに来て最初にできた友達、お人好しでいつもいい香りを漂わせている。香料の調合が得意な錬金術士。おまけに胸が大きい。村の大人でもここまでのサイズはいなかった気がする。
「使い魔の条件は何でもいいとされていますが、最低でも
「うん、この近辺の獣じゃ3つとも満たせそうなのがいない、召喚符で呼んでも条件を満たせてもにもなぜか高位の存在が来てわたしの力不足で無理」
問題は時間。明日の朝に先生に使い魔と契約したことを証明しなければいけない。
今は太陽が真上で輝いている。まだ時間はある『召喚符』を1枚作ることはできると思うけど、理想的な使い魔を呼ぶための調整案は思い浮かばない。どうしよう……
「ですがその三つを満たすことができ、召喚符を使わずとも従えられる種族がいるとしたら?」
「そんな都合のいい種族がいるの……!?」
なりふり構っていられない! こんな始まってもないのに終わってしまうのは嫌だ! わたしの目的を叶えるためにも足踏みしている場合じゃない。
「人間です」
「……えっ、いいの!?」
予想外の答え。なりふり構ってられないと思ったけど、これには戸惑ってしまう。
でもナーシャはそんなわたしをまっすぐ見て深く頷いてくれた。
「同じ種族同士なら不正だと突かれる可能性があるでしょうが、アンナさんなら大丈夫でしょう」
「それはそうだけど……」
わたしは純粋な人間じゃない、亜人と呼ばれる種族。左片側から生えた角が良い証拠。
この国の殆どが人間、獣人もまだ見ていない、オーガ・エルフ・ドワーフと言った亜人も殆ど見かけない。だからルールとして問題無くても。気持ちとしては納得できない。
使い魔にするってことはその人のこれからを奪ってしまうことになる。わたしは確かに困ってるけど、色々とよくないことが思い付いてしまって契約しようなんて気持ちが沈んでしまった。
「何もその辺りにいる人間を捕まえて使い魔にしようという話しではありませんわ。ここ王都クラウディアには『裏市場』と呼ばれる表では扱われない素材や道具を販売する場所があります。そこで今日の午後8時に競売が行われます」
「きょうばい? それで裏市場がどうして人間と契約することにつながるの?」
「扱われるのは素材だけにあらず。人間も商品として売りに出されますわ。簡単に言えば奴隷。身売りされた子供や大人、はたまた他国の騎士というのもありえるそうですわ」
すごい発想……自分達と同じ種族を売り物にするなんて……山にいたときはそんなこと思いつくこともなかった。生き物の売買なんて家畜用の牛や鳥ぐらいしかなかったのに……。
あれ? ということは?
「……あ! ならお金さえあれば簡単に主従関係が結べて使い魔にできるってこと!」
「その通りですわ。あまり気持ちのいいやり方ではありませんが、アンナさんには時間もありませんし、それに酷い事はなさらない方と
確かにこれは本当に最終手段。見ず知らずの誰かを買って使い魔にする。信頼関係なんてあったものじゃない。錬金術なんて関係ないお金で作られた繋がり。迷う。すごく迷う。
「本当にいいのかな……? 契約できたとしてもその人が望んでなかったら……多分短くても学校を卒業するまでだよね……?」
覚えきれなかったけど入学する時に教えてもらった。3~4年は錬金術を勉強できて、卒業するためには何か位が必要だって話。契約したら卒業までずっとわたしの使い魔となってしまう。家族でもない誰かといっしょになってしまう。それにその人にだって家族も……。
「アンナさんは優しい方ですわね……けれど、そこで買われることが幸せに繋がる人もいるということも事実なのですわ。私もそうでしたが、あそこは自分の価値観がどれだけ狭いかを知れる場所でもあります。早すぎるかもしれませんが行って損はないでしょう」
「…………わかった。このままじゃどうしようもないのも事実だから行くだけ行く。買うかどうかは最後まで考えさせて」
「ええ、それがいいでしょう。本当の最後の手段となれば先生に頭を下げて交渉致しましょう」
「どちらにしても色々と失いそうな選択肢。そうと決まればお金お金……お爺さんから渡された入学資金あとどれくらい残ってたっけ?」
使い魔を買うなんて錬金術士として胸を張って正しいとは言えないと思う。未熟なわたしの腕前を恨んでしまう。
でも決めないといけない。わたしの夢を叶えるためにはここで止まる訳にはいかないから。
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