第8話 幼馴染の優しい追及
教室の扉を開けると、どうやら俺と美月が一番乗りのようだった。
ちらりと壁に掛けられている時計を見てみると針は7時40分を指している。朝のホームルームまで約一時間空いていると言えど、おそらくもう少しすれば他の生徒も登校してくる頃合いだろう。
「ふーん、いつもの教室と違って早いと静かなのね」
「そりゃ誰もいないからなぁ」
見渡すように教室を眺める美月に対し、俺にとって既にこの光景は慣れたものである。誰もいない教室特有のひんやりとした空気と
俺の席は窓側の1番後ろに位置している。窓からは外の景色も見れるし、授業中は教壇に立つ先生との距離は離れているので、何気に気に入っているポジションだ。
ついでに今日は陰鬱とした雨の日と違い天気は良く快晴。
昨日から美月の彼氏役ということで内心緊張していた俺だったが、これは幸先の良いスタートを切れそうだと自然に表情が綻んだ。
すると、いつの間にか鞄を自分の机のフックに引っ掛けた美月がこちらにやってきた。
「ねぇ紬」
「ん、なんだ?」
「紬ってさ、こんなに朝早く学校に来て何してるの? スマホ? 読書? それとも……まさか人間観察とか?」
「流石に最後のそれは含まないで欲しかったなぁ」
きっと純粋な疑問なのだろう。こてん、と美月が可愛げに首を傾げると俺はそっと視線を横に向ける。
俺らが在籍する二年二組の教室は校舎の三階、つまり登校する生徒を見下ろせる場所にあるとしても、実際にそれをしたらただのやばい奴である。朝早く登校してるとはいえ生徒を見下ろして優越感に浸る趣味など俺にはないし、もし見られでもしたらイタい人間に仲間入りしてしまうのでそれは無い。
(……まぁ、一回だけ某大佐の真似をして「人間がゴミのようだ!」って心の中で高笑いした記憶があるけど恥ずかしくなって直ぐ止めたし。うん、ノーカンノーカン)
一瞬だけ当時の事を思い出すが、小さく
友人同士でふざけ合って言うのならまだしも、澄ました顔でたった一人そう思ったのは事実なので俺にとっては軽い黒歴史である。もし美月に知られでもしたら引かれるのは間違いないので絶対に隠し通すつもりだが。
「? 紬、顔真っ赤だけど大丈夫?」
「あ、あぁ! 大丈夫! 平気! 問題ないぞ!」
「そ、そう……?」
訝しげな視線を俺に向ける美月だったが、どうやら無事誤魔化せたようだ。時折りこれに似た羞恥心がふとした拍子に襲ってくる場合があるので、今後のことを考えるとメンタルを鍛えておく必要があるだろう。
それはともかく。
「早く教室に着いてからは基本的にスマホをいじってるな。音楽を聞いたり、動画を観たりしてる。それからしばらくすると星川さんが教室にやってくるから、色々な話をして―――」
「色々ってなに」
「へ?」
「色々ってなぁに? そこ詳しく」
「み、美月? ちょーっと顔が怖いんですけど……?」
美月は前の席の椅子に座ると、にこやかな笑みを浮かべてこちらをじっと見つめる。表情は笑顔なのだが、細められた瞳の奥は全く笑っていないのでなんだかそれが逆に怖かった。
それはおそらく彼女が美少女、つまり端正な顔立ちをしていることも影響しているのだろう。何故美月が俺と星川さんの会話の内容を気にするのか分からないが、至って健全なもので別段隠すような内容でもない。
わかったよ、とどこか美月に申し訳ないような気持ちになりながらも、俺はその内容を口にした。
「星川さんとは漫画や深夜に放送してるアニメの感想を言い合ったりしてるかな。他には星川さんが推してるアイドル……あ、Vtuberな。の魅力とか布教されたり、たまに一緒にその動画の切り抜きを観ながら話題を膨らませて会話してるよ。まぁ言っても俺は口下手な方だから、基本楽しげに話す星川さんの話に頷いたり相槌を打ったりする程度だけど。他にも放送中の恋愛ドラマの話とか、授業で分からないところを教えあったりとか……」
「ごめん紬、やっぱりもういいや……」
「え、あ、そうか……?」
先程まで美月の背後には般若が居たような気がしたのだが、今度は何故か意気消沈したかのように項垂れている。原因はいまいち不明だが、情緒が些か不安定なのだろうか。いきなりどんよりとした雰囲気を醸し出す彼女に、俺は思わず戸惑ってしまう。
俺としてはただ素直に星川さんとの会話の内容を話しただけである。
美月とは幼馴染でもあり、仮とはいえ恋人同士なのだから無暗に隠し事なんてしたくないというのが心情だ。なので星川さんとの出来事を咄嗟に思い付く限り言葉にしていったのだが、どうやら彼女にとって心に刺さるようなものが何かあったらしい。
「…………あ」
「?」
とはいえ、その原因を作った張本人である俺が美月に直接訊くのは正直
そして、はぁ、と溜息を一つ。
「……私、ダッサ」
「えぇ!?」
まさか勝ち気な性格をしている美月が自虐を口にした事実に驚愕するが、さらに彼女は言葉を続けた。
「紬」
「は、はい……?」
「アンタが好きなもの、私にも教えなさい」
「は、はぁ……」
「ほら、紬は今はどういうのが好きでどういうのに嵌ってるのよ?」
そう口にした美月の表情は先程に比べると幾分か晴れやかというか、穏やかである。
どんな心境の変化か分からないが、突然向けてきた彼女のくすぐったい視線に俺は目を丸くしてしまう。好きなもの、ということは俺自身の趣味嗜好できっと間違いないのだろう。今まで疎遠になっていたというのも関係しているのだろうが、改まってそう訊かれるのはなんだか新鮮だ。
(どうしたんだろう、美月……?)
戸惑いの感情は未だ消えないが、なんだかんだ自分に興味を抱いてくれて嬉しくない筈が無い。美月の現在の趣味も気になったものの、一先ずそれは置いておく。
そうして俺は喜色の表情を押さえつつ早速スマホの動画アプリを立ち上げたのだった。
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