第7話 健康は取り柄に入りますか?
その後不満そうな表情をした美月に誠心誠意謝り倒すと、どうにか機嫌は直ったようだった。そしてぽつぽつと他愛のない話をしながら無事高校に到着すると、昇降口のロッカーで靴を履き替える。
すると、俺の後ろのロッカーで同じく内履きに履き替えていた美月から声が掛かった。
「初めて早く登校したけど、生徒が一人もいないのは新鮮ね」
「あぁ、そういや美月っていつも朝のホームルーム、五分から十分前くらいに教室に来るもんなぁ」
「みんな大体そんなもんでしょ。私から見たらこんな早い時間に登校する紬こそ信じらんない」
「早起きは三文の徳って言うだろ? なんの取り柄も無い分、規律の良い生活を心掛けたいからさ」
「…………はぁ」
何故か溜息をつく美月だが、偽りのない本心である。
確かに動画サイトやアニメ、漫画などを視聴していると睡眠時間を削ってまで夜更かししたくなる欲が湧いてくるのは間違いない。深夜の時間帯にVtuberが配信をしているなんてざらだし、ネットワークやアプリの普及により自分の見たい動画や漫画など手に取れる機会がより簡単になった。
きっと、もしも俺に夢中になれる物があったとしたならば、例え睡眠時間を削ってでも健康面に配慮せずに没頭したのだろう。残念ながら今の俺は、広く浅くが現状だが。
今後そういったものが見つかれば良いのだが、それまではせめて健康でいたいものである。
そうしみじみと思いいざ教室へ向かおうと二人で歩みを進め始めると、ふと俺はあることに気付く。
「……あ、そういえば俺にも一つだけ取り柄があるかもしれない」
「へぇ、なによ?」
「俺って一回も風邪とか病気で学校休んだ時無い」
「紬……」
「ちょっと待って」
なんだか不憫そうな、可愛そうな物を見る目になった美月。うん、一旦その憐みの視線をやめようか。
「いや、確かにそういう意味合いもあるにはあるだろうけどテストはいつも平均点超えてるからね!?」
「だ、大丈夫よ紬……。いくらアンタが鈍感でも、頭の回転が遅くても、もしいざとなれば私が幼馴染のよしみで勉強を教えてあげるから……」
「ありがとう。でもその優しさがなんだか目に染みるなぁ……」
これまでの人生を振り返ってみると一度も体調を崩したことが無い。健康が取り柄、というとなんだか地味だが、学校を休まずにずっと皆勤賞を獲り続けてきた事を加味すると、恐らく誇っても良いのだろう。そうであると信じたい。
はぁ、と溜息をついていると、隣から美月の声が聞こえた。
「……ま、良かったじゃん」
「ん、なんか言った?」
「んーん、べっつにー。ほら、さっさと教室に行くわよ」
「??」
何を口にしたのかは残念ながら聞こえなかったが、どこか嬉しげな様子の彼女に首を傾げる。
歩みを緩ませずスタスタと廊下を歩く美月を追い掛けるようにして、俺達は教室に向かったのだった。
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文字数少なくて申し訳ないです…(´;ω;`)
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