第2話 嘘告の理由とその返事
「―――いや嘘だろ」
「うぇ!? な、なんで!?」
恋人として付き合って欲しい、という疎遠になった幼馴染からの2回目の告白。
久しぶりに真剣な目を向けられたので思わずはい、と素直に返事をしそうになった俺だったがすぐさま思い直して否定する。
案の定、美月も動揺しているようだ。
確かに初めは驚いたし嬉しかったのは間違いない。きっと久しぶりに話し掛けられて、屋上という二人きりの状況に対しいつの間にか気持ちが舞い上がっていたのだろう。
嘘だ、と判断出来てしまった要因が久しぶりに見た彼女の真剣な瞳というのは何とも皮肉だが。
「だって美月さん、昔から嘘ついたり誤魔化そうとするとヘンに力を入れてジッと見つめる癖があるだろ」
「え……っ、そ、それこそ嘘でしょ!?」
「なんで俺が嘘をつく必要あるんだよ。そんなメリット何処にもないし、人の癖なんてそうそう治るもんじゃない。こうして久しぶりに話すとはいえ、なんだかんだずっと近くに居たんだ。あんまり幼馴染舐めんな?」
「ん、ぐぅ……!」
食い下がろうとしたものの、きっと思い当たる節があったのだろう。どうやら美月は言い当てられたことが悔しいようで、顔を真っ赤に染めながら歯を食いしばっている。
「何か言うことは?」
「…………。はぁ、わかったわよ……」
柄にもなくときめいてしまったので嘘告だと判明した時はとても残念だったが、それを俺にわざわざするということは美月にも何か考えがあるのだろう。
溜息をついた美月だったが、ぽつりぽつりと少しずつ事情を聞いた。結果、つまりはこういうことらしい。
「よく一緒に居るクラスメイトの女子たちとの会話中、恋人の話になったと。今までは彼氏がいるとだけ嘘をついてなんとか誤魔化してきたが、会ってみたいと言い寄られてしまった。どうしようかと悩んだ末、ふと思いついた幼馴染である俺に告白して彼氏役に仕立てようとした、ね。……はぁ、そもそもどうしてそんなガバガバな嘘をついたんだよ」
「し、しょうがないじゃないっ。私以外にも彼氏いない子が一人居たけど、つい見栄を張って言っちゃったんだもん!」
「もんって……」
つまるところ、美月は俺に彼氏のふりを頼んできたという訳だ。
普段教室で見かける様な見た目の割に落ち着いた飄々とした雰囲気ではなく、どこか焦燥感が混じった表情で可愛らしく声を張る美月。相当思い悩んでいたのだろう、若干涙目である。
思わず呆れ気味に反芻してしまう俺だったが、そのまま美月はいじけたように言葉を続ける。
「私だって嘘でも彼氏がいるだなんて言いたくなかったわよ。でもいないだなんて口にすれば内心見下されそうだし、下手に隙でも見せたらあいつらのことだからマウントをとってくるに違いないわ。苦肉の策ってヤツよ」
「でも、友達なんだろ……?」
「友達? ハッ、確かに休み時間とかいつも一緒に居るし、傍から見たらそう見えるのかもしれないわね。でも残念、『わたしぃ、久しぶりに街を歩いてたら何人もの男の人に声を掛けられちゃってぇ~』とか自慢に自慢を重ねて自分の優位性を保たないと変な癇癪を起こす面倒な相手が友達になり得るとでも?」
「うわぁ……」
思わず変な声が洩れる。
俺は極力教室では目立たないようにしているので、特に美月達女子グループの会話の内容に注目した事は無かった。てっきり仲良さげに笑顔を浮かべながらグループ内で話しているので親友なんだろうなぁと思っていたのだが、どうやら現実は違ったようである。
女子の人間関係は複雑だ、と思いながらも、なにやら美月は思い出したような表情を浮かべた。
「あ、でも
「あぁ、
「は? なにそれ聞いてない」
知っているクラスメイトの名前が出てきたので同意を示すと、意外だとばかりに咄嗟に食い気味で言葉を返す美月。感情の篭っていない口調は逆にどこか刺々しく、詳しく教えろとでも言わんばかりにその綺麗な瞳は見開かれていた。
きっと無意識なのだろう。半ば理不尽に思いつつ、そんな彼女の雰囲気に若干慄きながらも俺は笑みを浮かべて平静を装う。
「い、言ってないからなぁ。あっ、あと星川さんって意外とオタクっていうか、趣味がマンガとアニメとアイドルの推し活で実は結構サブカル系女子でーーー」
「んなこと聞いてないっ! アンタが朱莉と話すようになった経緯を教えなさいよ!」
「えっと、俺が朝一番乗りで教室に着いて、だいぶ時間があったからスマホでアニメを見てたら俺の次にやってきた彼女に突然話し掛けられたんだ。それが毎朝星川さんと話すようになったきっかけかな」
「朱莉めぇ……っ」
美月は苦々しげな表情を浮かべながらも、どこか考え込むように地面へ視線を向けた。少しだけ焦って見えるような気がするのは気のせいだろうか。
先程美月は、星川さんに対して友達になり得るという旨の発言をしていた筈である。今の悔しげな表情とは一致しない。
どうしてか、と原因を突き止めようと考えを巡らせるも、俺はあることに気付きはっとする。
美月が表情を一変させたのは、俺が星川さんと会話する間柄であることを知ってからである。
何故それで不機嫌な感情を示すのかは分からないが、勝ち気で負けず嫌いな彼女のことだ。きっと星川さんと親しくなるタイミングを俺に先に越されて悔しいのだろう。
癖や仕草などは覚えていても流石に心の中までは読み取れないので詳細は不明だが、とにかく話を戻さないといけないだろう。
「美月さん、それよりも―――」
「ねぇ、さっきから気になってたんだけど」
「な、なんだ?」
「それ、やめてくれない?」
そう言って美月はじっとこちらを見る。その視線は明らかに冷たかった。
それ、とはつまり"美月さん"という呼び方のことなのだろう。
幼馴染とはいえ俺が美月と疎遠になってからだいぶ日が経つ。久しぶりに言葉を交わすので俺なりに配慮してのことだったが、どうやら彼女はそれが他人行儀に聞こえたようだった。
昔こそみーちゃん、つーちゃんと互いに呼び合っていたが、高校生にもなってそれは些か恥ずかしい。彼女もいつの間にか俺のことを紬とただ名前だけで呼んでいるので、きっと美月もそうなのだろう。
今ではもう戻れない、古き良き思い出。どこか寂しさを感じつつも目を細めた俺はそっと頷いた。
「わかったよ、美月」
「……ん、まぁ及第点ね」
美月はそう言って長髪を人差し指でくるくると巻くと、ほんの僅かに頬を染めてぷい、と顔を背ける。
やや不満が残るような口調だが、及第点と言う割には満足そうだ。きっと彼女なりの照れ隠しなのだろう。何気に俺も美月のことを初めて呼び捨てにするが、彼女の見せる反応とどことなく言い慣れない感覚に身体がむずむずした。
俺は片手を首元に置いてじわりと摩る。
さて、これから美月に伝える言葉はきっと酷だと思う。それでも、俺は自分の気持ちに嘘をつく訳にはいかなかった。
「でさ、美月。さっきの話に戻るんだけど、その内容なら俺は告白に了承することは出来ないよ」
「ど、どうしてよっ」
「最初は勘違いしていたとはいえ、真面目な告白だったなら俺も真剣に考えてた。これまで疎遠だったけど知らない仲じゃないし、何より幼馴染である美月からの告白なら、特に」
「な、なら……っ!」
「―――俺は、美月の都合の良い男じゃない」
そう言い切ると、美月はハッとしたような表情を浮かべた。
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続きは明日更新致します!(/・ω・)/
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