40 バレンタインデーと、アイビスの誕生日。そして、パーティー

 1月8日から、3学期が始まった。

 さいしょのころは、「冬休みなにしてたー?」とか、「どこに行ったの?」とか、「クリスマスプレゼントもらった?」とか、クラスの女子に聞かれることが多かった。


 アタシ以外にも聞いてたけど、まあ、そんな空気だった。

 でも、しばらくすると、「バレンタインデー、どうする?」という、話題になった。


 Cさんは、K君のことが好きでーとか、去年のバレンタインデーに、TさんがM君に告白して、フラれてーとか、教室にいるだけで、アタシの耳にも入ってくる。

 色でたとえると、ピンクだろう。


 目をキラキラさせた、ピンクな女子たちが、キャイキャイ、キャイキャイ、恋の話でもり上がる。

 楽しいことはいいことだ。

 だけど、教室には、男子もたくさんいるんだよって、思ったりもする。


 恋バナに、夢中な女子たちは、気づいてないようだけど。

 いや、実はちゃんとわかってるのかも。

 好きな男子以外には、どう思われてもかまわないのかもしれない。


 女子は強いな、と思う。集団になると、最強な気がする。


「――ねえ、ツムギちゃんはどうするの? 好きな子できた?」

 修学旅行で同じ班だった、恋バナ好きな恋中こいなかさんに聞かれて、アタシはううんと、首を横にふる。


「いや、男子とは、あまりしゃべらないし。学校の子を見て、キュンッとしたりもしないから……」

「そっかぁ。好きな子できたら、おしえてね」

「好きな子ねぇ。できるかなぁ?」

「うん! できるよっ! 女は恋して、美しくなるんだよ!」

「美しく?」

「うん、おばあちゃんが言ってたっ!」

「そうなんだ……」


 恋愛なんて、したことないから、どんな気持ちになるかわからないし、恋中さんに話せるようなものなのかも、今のところ、わからない。


 その数日後。

 千穂ちほから、アイビスの誕生日パーティーをやるから、よかったらきてねと言われた。アタシはコクリとうなずいた。


 アイビスの誕生日は、2月14日だ。

 そのあとの休みの日に、鈴絵すずえさんのアトリエで、パーティーをやるらしい。



 バレンタインデーの朝。

 なんだか外がにぎやかだ。そう思っていたら、玄関のチャイムが鳴った。


 お母さんに呼ばれて、行ってみると、大家さんと、女子たちがいた。

 大家さんが、なにかを持ってくるのには、なれたけど、女子たちが、お菓子を持ってくるとは思わなかった。うちにきたことがない子ばかりだし。


 同じ学年の子は、なんとなくわかるけど、知らない女子もいる。


 どうしたらいいんだ? って、正直思った。


 学校で、わたされるよりはいいのかな。

 先生に、怒られたらどうしようって思うし。


「えっと、ホワイトデーに、お返ししないよ?」


 そう、つたえてみたんだけど、みんな、お返しはいらないと言うので、ビックリしながら受けとった。

 女子だし、同じ学校の子たちだし、モンダイはないだろう。


 大家さんが、「みんなの愛を受けとってあげて! それだけで、みんなしあわせになれるのよっ! 愛はね、なによりも尊いの! すばらしいわねっ!」って、感激しているみたいだし、ことわるなんて、できなかった。


 もらったものをお母さんにわたしたあと、アタシは、楽しそうにはしゃぐ女子たちといっしょに、学校まで行った。


 そんなアタシたちは目立つのだろう。

 学校の子たちが、こっちを見ながらさわいでた。

 あと、妖精たちがはしゃいでた。


 教室で、千穂とひなちゃんに、家まで大家さんと女子たちがきたと話すと、「そうなる気がしてた」と言って、ひなちゃんが笑った。


「えっ? アタシ、思いもしなかったんだけど……」

げきで、妖精の王子したから、それでファンが増えたんだよっ! 気づいてなかったんだねっ!」

「……あれは劇だし。アタシ、女の子だもん」

「それでも、キュンとしたり、感動したんだよっ! あの劇のあと、しばらく、みんなさわいでたしっ!」

「さわいでるのは、いつもだと思うけど……」

「そうだねっ! まあ、好かれるのはいいことだと思うよっ!」


 ひなちゃんに明るく言われて、きらわれるよりいいか。と、思うことにした。



 その日の夜、アイビスが顔を出した。


「――あっ、アイビス。誕生日おめでとう」


「ウム。今日はオレサマが生まれた日。父と母にカンシャなのだ。父と母が出会ったから、オレサマが生まれたのだ」


「……アタシ、自分が生まれたことに、カンシャ、してなかったかも。誕生日おめでとうって言われて、ありがとうとは言ってたけど……。ちゃんと、お父さんとお母さんに、2人のおかげで生まれたから、ありがとうとは言えてないな……」


「その気持ちがあればいいのだ」


「……うん、そうだね。気持ちが大事だよね」


「ウム。そうなのだ」


「ふふっ」



 アイビスの、誕生日パーティーをする日。

 家を出ると、フードをかぶってない、黒いマント姿のシオンがいて、おどろいた。

 シオンのとなりには、人間の姿をしたルルカ。


「ルルカがいる……」

 おどろくアタシ。


 キンチョウした顔のルルカが、口を開く。


「ツッ、ツムギ、おはようっ!」


 なんか、いっしょうけんめいな感じがつたわってきて、つい、笑ってしまう。

 笑顔のまま、アタシはルルカに、「おはよう」と返した。


 それから、チラッとシオンに目を向ける。


 シオンと目が合った――つぎのしゅんかん。

 スタスタと歩き出すシオン。


「ちょっと待ってよ」

 と言いながら、アタシはシオンを追いかけた。

 ちゃんと、ルルカもついてくる。


 シオンに話しかけても、しゃべらないので、アタシはルルカに聞くことにした。


「むかえにきてくれたの?」


「うん、むかえに、きた」


「そう。ありがとね。千穂はいっしょじゃないの?」


「うん、千穂は、アトリエにいるよ。ボク、一度、この世界に、きてみたかったんだ。だけど、こわくて……」


「……そう。こわかったのに、よくこれたね」


「……うん。あのね、今日、お菓子作りを手伝ってたら、外に、シオンがいたの。それで、鈴絵さんに言ったんだ。そうしたら、お菓子はもういいから、千穂の代わりに、ネコ神社まで、ツムギちゃんをむかえに行ってらっしゃいって、言ったの。ボクがムリだって言ったらね、シオンがいればダイジョウブよ。妖精もいるしねって、言ったんだ」


「そっか……」


「ボク、ドキドキしたけど、鈴絵さんが言ったことをシオンにつたえて、こっちの世界にきてみたんだ。ずっと、きたかったから、がんばったの」


「そうなんだ。で、ネコ神社から、アタシの家まで、きてくれたんだね」


「うん。シオンが、せっかくきたんだから、家まで行こうって」


「そっか」


 アタシたちは、ネコ神社まで行ってから、ルルカの力で、異世界に転移した。


 アトリエに着くと、鈴絵さんと千穂とひなちゃんと、アイビスがいた。

 シオンのうでわを鈴絵さんが外したあと、みんなで食事を始める。


 今日の食事は、野菜たっぷりのポトフと、エビグラタンだ。

 そのあと、ミルクティーを飲んだり、ガトーショコラを食べたりした。


 ガトーショコラがあると、バレンタインデーだなぁって感じがする。

 アイビスの誕生日パーティーだけど。


「もうすぐ卒業なんて、信じられないわね」


 しみじみという感じで、鈴絵さんがささやいた。


「そうですね。去年の3月に島にきて、もうすぐ1年経つなんて……」


 アタシがつぶやくと、「あっ、3月にきたんだったね! 時がすぎるのは早いねー」と、ひなちゃんがうれしそうに笑った。


 ひなちゃんは、3月生まれだったな。卒業式の前だ。


 どんな、卒業式になるんだろう?

 そして。どんな、中学生活が待っているのだろう?


 楽しみだな。


 そう思えることが、しあわせだな。


 アタシが、そう思ったあと。


『今あるすべては、たくさんの恵みでできてるの。それは当たり前じゃなくて、キセキなのよ。そのキセキにカンシャする時に、ありがたい――昔の島言葉で、ニャハハハというの』


 という、カオリさんの言葉が浮かんだ。


 この島にきて、ほんとによかった。ありがたい。


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ニャハハハ島 ~妖精たちが笑う島~ 桜庭ミオ @sakuranoiro

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