幕末舞台の本格派時代小説。等身大のヒーローの機微の描写がこまやか。

舞台は幕末のとある藩、剣術道場を中心に物語は進みます。
となれば剣劇の描写がまず魅力的なのはもちろんですが、それだけではなく時代の空気、世情、そこに営まれる人びとの想いや機微が丁寧に描かれる、本格派時代小説です。

剣の腕は立つが世渡りはうまくいかない下級藩士と、道場運営や門下生たちのあれこれに気を揉む道場主の妹を中心に、世渡り算段や世間体や日々の暮らしといった等身大の悩みが描かれすっと物語に入りこめます。
そうかと思えば幕末の時流のなかで不穏な動きも垣間見えて、それが登場人物たちの運命にどう絡んでくるのかは今後のお楽しみ。見どころたっぷりです。

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