幕末の混迷する時代。とある地方にある青海藩でおこる群像劇。
時代の波はこの藩をも飲み込んでいくのだが、そこに暮らす人々は己を見失わないようにけなげに時代の波に乗るのではなく、かぶりながらも懸命に生きていく。
……とかけば、どうしても人情あふれる時代小説の世界を思い浮かべるだろう。
しかし、この話はじんわりほっこり染みるいい話ではないのだ。
とにかく、熱い、ノリが熱い。そう、少年漫画のノリである。友情、努力、勝利である。
主人公の板野喜十郎は、下級武士で家計は火の車。傘張りの内職をしているようなうだつのあがらない、平凡な人物に一見見える。しかし、刀を待たせると人がかわる。このヒーローの造形は少年漫画のテッパン設定である。
くわえてヒロインの絵都は喜十郎がかよう道場主の妹。もうマネージャーのように喜十郎を陰からみている。しかし、見守るだけではなく、果し合いに弟の代わりに出向いていくような気骨のある女性。
一見うだつのあがらないヒーローにマネージャー気質のヒロイン……とくれば、双子の弟が必要(?)
双子の弟ではないが、喜十郎には脱藩した兄がいる。その兄は何やらこのご時世の波に乗り暗躍し、喜十郎と絵都の前にその存在感を見せつける。
カーー!! 兄上!! 最高か!!
……私の心の叫びはおいておいて、おもしろい少年漫画には魅力あふれるヒールの存在なくして語れない。その点でもこの青海剣客伝は少年漫画の系譜をひいている。
とにかく、かつて少年漫画に熱狂したいい年した大人たちへ。これは、そんなあななたちが読む、時代小説です。
本格的時代、剣豪ものです。
キャラがいいです。
斎道場の家政を担う女性、絵都。
かっこよく、かわいいです。
女性剣士いいです。
斎道場の門人、板野喜十郎。
道場への出入りを禁じられており、普段は傘張りの内職に明け暮れているが、
強いです。かっこいいです。
骨太な文章で読ませます。
色んな短編が入っています。
道場破り。
用心棒の仕事。
綺麗ごとだけでは生きてはいけませんね。汚い金であっても生きていくためには、必要ですね、特にこの時代は。
息を呑むスリリングな展開。
かっこいいセリフ多いです。
桜の綺麗なエピソード。
構えなど、本格的でさすがです。剣術のリアリティがいいですね。
ミステリ仕立てのお話もあります。
坂本龍馬も登場するエピソードもあります。
新撰組編、面白いです。
阿片。
板野新二郎の野望の一端が明らかになってゆきます。
息を吞む壮絶な物語もあります。
大作でした!
舞台は幕末のとある藩、剣術道場を中心に物語は進みます。
となれば剣劇の描写がまず魅力的なのはもちろんですが、それだけではなく時代の空気、世情、そこに営まれる人びとの想いや機微が丁寧に描かれる、本格派時代小説です。
剣の腕は立つが世渡りはうまくいかない下級藩士と、道場運営や門下生たちのあれこれに気を揉む道場主の妹を中心に、世渡り算段や世間体や日々の暮らしといった等身大の悩みが描かれすっと物語に入りこめます。
そうかと思えば幕末の時流のなかで不穏な動きも垣間見えて、それが登場人物たちの運命にどう絡んでくるのかは今後のお楽しみ。見どころたっぷりです。
普段あまり時代劇を読まない私ですが、こちらの作品はとても面白いです。
「時代小説」と聞くと、私のなかで、なんとなく堅苦しいイメージがあったのですが、読んでいてとても痛快で続きが気になる作品です。
敵を華麗に倒したり、一癖ありそうなキャラが味方になったり……そういったところは、時代を問わず、誰もが好きな展開ではないでしょうか。
個人的に一番いいなと思うところは、文章が浮ついていないところです。
作品に真摯に向き合い、誠実に筆を尽くしていらっしゃる感じが伝わってきて、とても好感をおぼえます。
読み手としても心を落ち着けて読むことができて、時代を超えて作品世界にどっぷり浸ることができます。
おかげさまで、とても良い読書体験をさせていただいている実感があります。
一度お手に取ってみてはいかがでしょうか。お薦めです。