カンファー王国のはずれの、山中で。
身なりの良い美少年、ヴィーが、盗賊にとっつかまって、縛り上げられていた。
彼は、淡い金髪で、とても上品だ。
その彼を、物陰から、そっとうかがう、十歳の男の子がいる。
身体は痩せ、殴られたあとがある。
盗賊どもにつかまって、下働きにこき使われているのだ。
「……その傷、先ほど出ていった男たちにやられたのですか?」
ヴィーは、男の子にそっと話しかける。
それが、お互いにとって、どんなに意味のある、運命的な出会いであるか。
この時はまだ、知る由もなく……。
精神の強さを持つ、訳ありのヴィー。
男の子を襲う、数奇な運命。
人の心の強さ、葛藤が、抜き差しならない政治劇、綿密な国・経済の設定に支えられ、展開していきます。
読み応えがたっぷり。
ヴィーと男の子の間の、心のつながりに胸が熱くなります。
そしてあとからでてくる、一癖も二癖もある、黒騎士がかっこいい!
主従のやりとりに、皮肉が効いていて、非常に面白いです。
一話が10000字くらいあり、心理描写がきめ細やか。物語の世界にひたりながら、読書していただきたいですね。
おすすめですよ。
ぜひ、ご一読を!
ファンタジーといえば、剣と魔法、昨今では異世界に転生転移して始まる物語が多いような気もしますが、こちらの物語には魔法も異世界も(現時点では)登場しません。
現実とは全く違う世界、独自の歴史や宗教があり、その中でも人々は政争に明け暮れ、あるいは謀略に巻き込まれ、大切な人を失ってしまう。
この物語の主人公ディルはそんな世界で、父を失い、野盗に攫われてこき使われている最中、同じように野盗に囚われ縛り上げられた青年ヴィーと出会います。何やらドラマチックな展開が始まりそうですが、あにはからんや、何か食べ物をくれたら助けてあげる、と言ったディルに対し、困り果てて助けを求めたはずのヴィーの応えがなんとも変わっています。
「……今貴方に食べ物を差し上げるのは簡単なことです。でも、それではすぐに飢えてしまいますよ。今食べられる、ではなく、ずっと食べていける、にならなくては」
あなた今、縛られて転がってますよね?? とディルとともに読者もキョトンとしてしまうのですが、こんな思考回路、物言いをしてしまうヴィーには驚くべき秘密がありました。
はじめから登場する国の名前や貴族などの情報が多めなため、少し戸惑うかもしれませんが、一度この世界に入り込んでしまうともう止まりません。
特に離れ離れになってしまったディルがヴィーと再会するシーンは、ディルと一緒に読者も感動で思わず震えてしまうほど。ぜひ読んで確かめていただきたいシーンの一つです。
主人公のディルの健気な様子に聡明さや思わぬ勇敢さ。のんきで優しい騎士に見えたヴィーのふとした拍子に見せる冷徹さとどこか危うい雰囲気。のちのち敵役として登場するグネモン卿でさえもディルに対するあまりに非道な行いに怒りを覚えつつも、身内に対する情や、かつてのライバルに想いを馳せる姿には、憎みきれず心動かされてしまいます。
さらには物語が進むにつれ、ディルとヴィーは互いに不思議な縁を見出し絆を感じていきます。
次々と困難に見舞われる彼らが、この先どんな運命をどう乗り越えていくのか。
地図や登場人物索引のある紙の本でページを繰りながら読みたいなあと心の底から思ってしまうおすすめの一作です。
ここにあるたくさんのレビューをご覧になると分かる通り、読者の皆様に支持され絶賛されている素敵な作品です
少しずつ紐解かれていく物語なので、あまり先入観なしで、小説が進むままに読むのがおすすめです
端正で無駄のない筆運びで、中世の空気感のある独特の世界に誘われます
読後感はとても爽やかです
中世に近い文化がある異世界もの
魔法など超常の力の類は登場しないけれど、その分、人と人とのつながりが丁寧に書かれており、心に沁みます
伏線の張り方が巧みなので、読書でそれを見つけていく喜びもあります
番外編『アドベントカレンダー2023 〜親愛なる我が従弟殿へ〜』と合わせて読むと世界観が補完され、もう一つ世界の奥に踏み込むことができます
こちらもおすすめです
旅の途中、賊に捕らわれてしまった謎の少年ヴィーと、そこで出会った孤児のディル。ヴィーはディルが一人で生きていけるようになるまで手助けすることを持ち掛け行動を共にすることになるが、実はディルはもっと大きな別の権力に命を狙われていた。
「約束を、絶対に忘れないで」
その言葉を胸に、分かれた二人の運命は――?
しっかりとした落ち着いた雰囲気ながら、丁寧な表現でどっぷりと世界に入り込める文章です。物騒な展開でも会話のテンポの良さなのか暗くなりすぎず、ぐいぐいと読み進められます。
登場人物たちもみんな魅力的!主役の二人もさることながら、脇役のオジサマたちがみんな良い味を出していてお気に入りです。
1章あたりがじっくりと描かれているため腰を据えて読める方向けかも。でもその分読み応えはたっぷりです。
絶妙に謎を残しながら進む物語。その塩梅が見事で、続きが気になって仕方がないですが、序盤の謎は明らかになったところです。読むなら今がおすすめ!
第12話まで読了いたしました。
あちらこちらに伏線が張り巡らされており、読み進めたい欲求が止まりません。
主人公の一人・ヴィーの物腰柔らかい口調が特に好きです。16歳にもかかわらず、達観したその様が、過去にあった出来事を匂わせており、早くその時のことを知りたい、その場面を読みたいと思わされます。
また、もう一人の主人公・ディルは少年らしく迂闊な面がある一方、その経験から自分の利になるよう考え行動できる聡明さを兼ね備えており、とても魅力的です。
自分を拾ったヴィーの言葉を信じ、孤独に負けないよう奮闘する彼を応援せずにはいられません。
まだ、物語は序盤で、ヴィーのもつ「力」、各権力者たちの思惑、国同士の関係性などはこれからみえてくることでしょう。
書籍として出版されていてもおかしくない、文章力と世界観を兼ね備えた優作です。