#48
今日は待ちに待ってもいないが、六期生の初配信日である。
夕方から一人当たり一時間ずつ時間が設けられる。
ちなみに設定等色々と出ているので、予習がてら情報を見ることにした。
まず全員異世界にあるセイラル魔法学校というところから来た設定らしい。
来たと言っても事故によるもので、帰れるかもわからないので仕方がなく配信を始めたという設定。
そういえば今更だがsiveaも一期生以外しっかりと設定がある。
なぜ一期生に設定はないのかというと面倒くさくて、普通にREVIA所属の会社員ということになっていたのだが、尖りすぎてこいつら会社員は無理だろとネット内で言われている。
結局誰も設定なんて物を気にしていないし守る気もない。
俺も雪姫雪花の設定を忘れてしまった。
無駄話が挟まってしまったが、スマホの画面を再度見た。
まず今日一番最初に配信をする人のページを見ることにした。
アナ・アメラド
宝石魔法科の成績優秀者
本当は召喚魔法科に入りたかったが、相性が劣悪で仕方がなく宝石魔法を始めた。
動物好きだが動物に嫌われやすい。
Vの姿は学生服ながらも、ツインテールの髪留めに大きめの宝石がついていたり、ブローチなどに宝石がついていて自身の特徴を表している。
うん、至ってありきたりな紹介文が乗っている。
これリアルで動物に嫌われているのではないかと思う。
設定はあくまでも設定だが、自分と真逆の設定を持ってくる人や現実と同じものを持ってくる人は少なくない。
この感じは本当に動物に嫌われるタイプなんだろうと思いながら、次のページへ進んだ。
フェレーナ・ミナミリス
神秘魔法科の生徒
なんでも神秘魔法と言っておけば許されると思っている。
倫理的にどうなんだと言われる実験も平然とした顔でする。
アメ・アメラド同様学生服だが、腰にポーションらしきものを携えている。
これは真面目系だ。
文章から伝わってくる。
まあ初配信見れば考えが変わるかもしれないが、最初破天荒な路線で進むキャラは基本、根が真面目が故に何かしなければと思いびっくりキャラをするので、段々と被っていた皮も剥げて、のちのち真の清楚枠として丁重に扱われる。
今後が楽しみな一人だと思いながら次のページへ進む。
フォルナ・レシーナ
創造魔法科の成績優秀者
成績優秀な理由は魔法の完成度で、類稀なる才能を持っている。
人柄もよく、誰とでも接することができるため他の魔法科に友達が多い。
学生服なことに変わりはないが髪色やメイクもあってか陽キャ感が凄い。
陽キャラだ。
確実に陽キャ。
初配信見たら分かるだろうが、陽キャの話し方と声が聞こえてくる。
ボレーラ・ウェズィナー
箒魔法科&体術魔法科の生徒
セイラル魔法学校では珍しく兼学している。
独自の魔法を生み出すことが得意。
運動できそうな短髪の子。
こういうキャラが好きな人は一定層いるよなーと思っている。
そして、最後俺のVでの妹となる人物だ。
ルリ・パラリナ
基礎魔法科の生徒
過去の記録が一切ない謎の生徒。
俺のV妹、怪しさ限界値迎えてないか?
そのキャラや世界観を表す短い紹介文が『過去の記録が一切ない謎の生徒』はなかなかこうどうして尖っているのだろう。
そのうえフードを被って顔を隠している。
しかしながら、色の塗り方や服などに立凛の性癖が詰まっていてわかりやすい。
中の人がどうかは知らないがまともな人であることを願いたいばかりだ。
一通り紹介文を読み、顔をあげると愛理さんの顔が目の前にあった。
「何見てたんですか?」
「いや六期生の……」
「あー!他の女見てたんですね!これはお仕置きが必要です!」
「もう無理があるだろ」
「樹さんとセッ〇スするまで諦めません」
これまではもう少し言葉を選んでいたはずの愛理さんが突然諦めたのか、いやまあ、本人が言う通り諦めてはいないのだろうが、直接的な言葉に変わった。
「お嬢様なんですからもう少し口調を……」
「樹さん使用人になります?そしたら私は樹さんの事好きに出来るんですけど」
「禁断の恋はダメだな」
「じゃあ逆に私がなれば……」
「それは流石にまずい」
立場的にも理性的にも。
愛理さんを使用人にしたなんて雪上家に知られたら俺の首が飛ぶ。
まあ現状の時点で怪しいような気もしなくもないが……
何をされるか分かったものではないので、そんなことはしたくないのだが、愛理さんがメイド服を着たら似合うだろうな、という俺の中の妄想が理性を刺激する。
一緒に過ごしてきて何度か思った。一度でもいいから愛理さんのメイド服姿を。
今、俺の頭の中は煩悩にまみれているだろう。
しばらく黙っていたからか愛理さんが顔を覗かせてきた。
「えっちな妄想でもしてます?」
「まあ除夜の鐘を半年も待てない感じだな」
「これで堕ちないの逆に凄いですよ」
普通の高校生だったら多分もう愛理さんに骨抜きにされてるだろうが、なぜか分からないが俺は耐えることができている。
まあビビってるだけなんだけどな。
これ以上話を続けても意味がないだろうと思い話を無理やり曲げた。
「しかし六期生は多いな」
「……まあ五人ですもんね。四人か三人デビューが基本でしたし」
「愛理さんはコラボとかするのか?」
「まあそうですねーちょっと経ったらコラボするかもしれないですね」
何気に俺は新入りと他のライバーのコラボが楽しみなのである。
「しかし六期生は可哀そうですね……」
「何でだ?」
「これから忙しくなるタイミングで入るのですから地獄ですよ。多分3Dモデルできてライブとか収録に連れ回されるでしょうし、挙句の果てにはレッスン入れられるでしょうし」
やはり企業勢はあまり自由が利かないみたいだな。
俺みたいな特に何も考えていない個人勢は自由だ
だが、人気になるためや面白くなるために努力を始めると個人勢と言えどもあまり自由はないだろう。
まあそれを加味しても個人勢のほうが楽だとは思うがな。
「もうすぐ始まるみたいだぞ」
「一緒に見ましょうよ」
そう言って愛理さんは頭を肩に乗せてきた。
アナ・アメラドの配信画面を開いてみると丁度オープニングが流れ始めた。
動物のぬいぐるみが置かれた部屋が画面に映っている。
しばらくすると奥の扉からアナ・アメラドが出てきて、椅子に座ったところで画面が切り替わり普通の配信画面へと変わった。
珍しくオープニングが凝ってる勢だ。
大体の人はnow loadingという画面でキャラクターが同じ動きを繰り返したり、ただゲージが増えたりといった物だ。
「はじめまして、皆さん。トップバッターを務めるアナ・アメラドよ。よろしくね」
第一印象はツインテールの似合うお嬢様という感じだ。
Vの姿から出る声と俺の想像の中の声とが、解釈一致している。
「自己紹介していくわ。まずは……」
自己紹介シートが画面に出てきて、項目ごとに淡々と自己紹介が進んでいく。
緊張が表面に現れてこないのもなかなか珍しい。
場慣れしている感じがひしひしと伝わってくる。
「愛理さんも初配信緊張が表に出てなかったよな」
「そうですねぇ。まあ人前に立つこととか話すことが当時から多かった身ではあると思うので」
初めて雪姫雪花を見たときは前世Vとか少なくとも配信者だろうとは思っていたのだが、別に理由があった。
社交界とかで鍛えられていたのだろうか。
「……まあその割には、俺と初めて喋った時声震えまくってたけどなぁ」
「それは……言いますけど、樹さんあの時私が推しだって知ってたらどんな反応してましたか?」
「それはまあ……まあ……同じ反応どころの騒ぎじゃなかったな」
「私まだ納得いってないんですからね。声出して一緒にゲームしたのに一切気付かないの」
俺は頭を下げることしかできなかった。
配信とテンションが違うし、口調も違うし、声も落ち着いた雰囲気を持っていたから気づかなかったと言いたいのだが、推しと言っておいて気付かないのは流石に違うからな。
まああそこで気づかなかったからこその関係だとは思う。思いたい。
そんな話をしていたら、アナ・アメラドの自己紹介は終わりを迎えていた。
「残りの時間は好きなように使っていいと言われてるわ。だから、コメントの質問に答えるわ」
「『宝石魔法ってどんなの?』ね。簡単に言えば宝石を媒介に、魔法を発動する物なのだけれども……見せたほうが早いわね」
予め用意されていたモーションを使い宝石魔法というものを見せていた。
「こんな感じよ。欠点はあらかじめ用意しておかないと使えないということね」
川に流れる葉を一つ一つ取るように、コメ欄に流れる質問に答えていった。
その中でも驚いたのは、自分でオープニングを作っていたということだ。
構図から自分で描いてるそうで、尊敬に値する物だと感じた。
一時間というものは意外と早くもう終わりの時間となった。
「次はフェレーナ・ミナミリスよ。……まあ刺激の強い子よ。じゃあまた次の配信で」
そう言ってアナ・アメラドは部屋から出ていった。
「あと4時間……」
「大変そうだな」
既存メンバーは新メンバーの初配信を見て呟くのが伝統芸となっている。
要は5時間リアタイして、その都度感想をSNSに投稿しなければならない。
5時間新メンバーを見ることは多分そこまで大変ではないとは思うが、何もできず、新メンバーのどの発言をくみ取るのか考えなければならないのは大変そうだ。
次の人の初配信が、始まりオープニングが流れ始めた。
これこそ普通のオープニングという感じだった。
最初のクオリティが高すぎただけだ。
Vの姿が映った。
「……ども」
『ども』
『ども?』
『どうも?』
「モルモットどもめ。騒ぐんじゃない」
「わぁお、やばいの来たかもな」
『ちゅー』
『ちゅー』
コメ欄にはネズミの鳴き声と思われる『ちゅー』というコメントで溢れた。
コメ欄のノリが良すぎてつい笑ってしまいそうになった。
これ挨拶になりそうなのが目に見えるな。
ファンマーク注射器とネズミだろこれ。
未来予知できるのではないかというぐらいわかりやすくて助かる。
「なぜこの私がモルモットに挨拶しなければならないというのだ。自己紹介はなしだ。質問?なんだ貴様ら。質問する権利があると思うのか?」
「あ、愛理さんこれは……」
「リアルで会った時は可愛かったんですけどねぇ。小さくて頭撫でやすくて内気だからすぐ人のいないところに行こうとするので」
「その欠片も見えない……」
これでは暴走しているだけだぞ。
そう思っていたら、
「なに?自己紹介シート作るの忘れていたんじゃないかって?それは……」
口籠らせ、なんとも分が悪いかのような反応をしている。
『あー(察し)』
『なるほどねー』
『ちゅー(分かりやす)』
「う、うるさいぞ!モルモット!」
どうやら答えは明白で自己紹介シートを作るのを忘れていたらしい。
暴走しているのではなく、強がってミスを隠そうとしていただけらしい。
「な、ないものはないんだ!げ、しゃ、社長」
『ちゅー(自己紹介シートはどこかなー)』
「社長って自由人だよな」
「説教ルートですねぇ……」
自由人の社長も頭を抱えているだろうな。
なにせこんな事態初めてなのだから。
逆に初配信で自己紹介シート忘れるってどんな状態だよという感じだしな。
「マネージャーは?」
「これは多分直前になって気づいてマネージャーに言ったけど、取り合えず乗り切れって感じで返ってきたときの状態です」
清楚枠になると思っていたが、天然枠かドジ枠に席を置きそうだな。
それからは頑張って場繋ぎ一時間しっかりと持たせていた。
場繋ぎのほうが上手かったのでもしかすると用意していないというのは嘘で、これも演出の一部としてやったのかもしれないという考えも生まれたが、にしても大胆過ぎると思い、その考えは捨てた。
「あーなんというか大変そうだな」
「コラボ前は見張っておかないと何やらかすか……」
これはまたかなりの大型新人が来たようだ。
時間が経ち配信が終わり、次の配信へと移った。
次はフォルナ・レシーナ、見るからに陽キャ。
待機画面は先ほど同様まあ普通のやつだ。
「どもーフォルナ・レシーナだよー」
これまた声と見た目が一致している。
漫画・小説原作のアニメだと自分の想像していた声だとかそうじゃないとかあるが、あれと似た感覚だな。
フェレーナ・ミナミリスは声と見た目のギャップはあったが、キャラが濃すぎてそういう話はいらなかった気がする。
「きょーは自己紹介してくねー」
「そういえば今更ですけどうちの学校って陽キャっていうかギャルみたいな人少ないですよね」
「あー確かにな」
俺も思い当たるのは千郷ぐらいだ。
一年の頃を思い返してみればまだ多少は……ああそうか。
頭の中で自己解決した。
出しゃばったやつ大体紀里に潰されていたのを思い出した。
まあ出しゃばったというかそういう集団が紀里に突っかかって、返り討ちにあった話に背びれ尾びれがついて、潰されるみたいな話になっていたような気がしなくもないが、俺には関係のない事だったので特に気にしたことはなかった。
「どうせまた紀里なんでしょう?まったく、あの子は何がしたいんですかねぇ」
「愛理さんその喋り方は保護者だぞ」
「まあ今、手綱引いてるのは私なので」
愛理さんは二人のペットを飼っているのだなぁ。
そんな話をしている間に自己紹介が終わった。
「んじゃ、質問コーナー!はーい書いてってーうんうん、何配信するの?ね。そうだねーうちは皆と違ってゲームへたっぴだからねーなーんにも考えなくていいやつやるね」
「ゲーム下手とか言って上手なやつだろ」
「いや本当に下手でしたよ。まずキーボードの指の位置がおかしいんですもん」
指の位置がおかしいということは余程ゲーム……もといPCを触らなかった可能性か、昔の癖がついてしまったかのどちらかなのだが、ゲームが下手ということは前者ということになろう。
逆になぜVになろうと思ったのか問いただしたいレベルである。
「なんでVに……」
「凄く言いづらいんですけど、私の事推してるみたいで……あ、丁度、話してますね」
画面のほうというか音声に注目した。
「なんで配信しようと思ったのかって?それは雪姫雪花様を慕ってるからに決まってんじゃん?」
「……余計分からなくなってきたぞ」
「まー端的に言えば樹さんがVになった理由と同じですね。勢いだけで面接受かったみたいですし」
「じゃあ俺のことは……」
「凛斗っていう単語出しただけで猫の威嚇みたいなことしてたらしいですよ」
互いのために今後一切フォルナ・レシーナさんとの共演はお断りを……
「ただ立場を交換してくれたら許すって言ってたらしいですよ」
「愛理さんしないよな?」
「するわけないじゃないですか!私の樹さんを傍から離すなんて」
依然として主導権が愛理さんにあるような発言は否めないが、別に俺としては、愛理さんの庇護のもとに居れるというのならありがたい話だ。
というわけで、フォルナ・レシーナというVtuberは気にする必要がなくなった。
「いやー、一回話してみようと思ったんですけど、他の人から離されましたね」
「ナイスだ、その人たちに感謝する」
ようやく質問コーナーも終わり、配信が終わった。
今年一番ひやひやさせられたような気がする。
次はボレーラ・ウェズィナーの番だ。
最初は普通のOPかと思ったら、画面が代わりボレーラ・ウェズィナーが出てきた。
「お、よっとこれで大丈夫かな?」
カメラを直すような動作のアニメーションが終わり、椅子に座ると画面が切り替わり配信画面へ変わった。
これまた凝ってるタイプだな。
「やっほーちゃんといけてる?」
『大丈夫』とか『OK』というコメントが流れる。
「じゃ、自己紹介するね!」
元気溌剌な声が聞こえてくる。
「リアルで会ったんですけど、普通にこんな感じなんですよね」
「元気溌剌で運動してそうな感じってことか」
「まあ元気溌剌で運動してますからね。見た目もこのままという感じですし……まあこのVの姿は3Dで動き回られても困るんで軽装備かつ短髪なんでしょうけど」
「技術的な要素いれるのやめないか?」
「悲しいですがこれが現実です」
まあでかいのが付いてたりすると、動き壊れるらしいからな。
派手に動きそうなのを予測出来てるのはいいことだ。
自己紹介は他の人と比べると早く終わらせて、まあ例外はいたが、すぐに質問コーナーにはいった。
「『体術と箒以外何か運動できるの?』水泳とかダンスとか?球技とかも結構できるよ!」
「今は色々できないと事務所入れないの辛い世の中ですよね」
「一期生とか運動は壊滅的だしな」
「3D配信酷かったですもんね……」
全員が開始20分もしないで、床に座ったり椅子に座ったりという始末だ。
そのうえ希華は「ゲームしない?FPS」とか言い出していたのを思い出した。
あの配信を見ていた俺は、あの四人に拳骨を食らわせたい気持ちでいっぱいだったが、離れた身として黙って見ているしかなかった。
「『ゲームとかするの?』そうだね!格ゲーとか!」
リアル体術ができるから格ゲーができる理論ってことか?
それとも本当に出来るタイプなのか?
「ちなみに格ゲーだけなら、希華さんに勝ってましたよ」
「あいつ普通に強いんだがなぁ。勝ったのか」
俺は希華に格ゲーでボコボコにされている。
俺が弱いのもあるが、希華が普通にプロとやりあえるレベルなのがおかしいのだ。
その希華に勝ったというのだから余程の事なんだろう。
それから質問コーナーが続き、ある程度答えたところで時間がきたので、配信が終わった。
いつか希華と格ゲーしているところを見てみたいな。
「次はルリ・パラリナか」
俺が一番楽しみにしていた人のお出ましだ。
OPは……一面の黒画面の真ん中に三つの点が順番に点滅を繰り返すだけという、見るからに怪しさが滲み出ている画面だ。
画面が変わり、ルリ・パラリナが出てきた。
「……初めまして、ルリ・パラリナです」
何故だろうか本能がどこかに既視感を感じている。
俺が既視感を覚え、頭を捻らせている様子に気づいた愛理さんが声をかけてきた。
「どうしたんですか?」
「なあ、こいつ俺のリアルの知り合いか?」
「樹さん……もう逆に凄いですよ」
愛理さんの発言からして俺のリアルの知り合いであることが確定したが、今だ誰か分からない。
「あ、フード……」
フードを取った姿が映し出された。
青髪に黄色の眼、童顔だが幼いというイメージは付かない感じがする。
青髪とルリと声が組み合わさったせいか俺の中で一つの答えへと道が絞られた。
「ルリ・パラリナ……ルリ?おい、待て愛理さんやったな」
「なんのことですか?」
「とぼけても無駄だぞ。ルリ・パラリナは蒼月瑠璃だろ」
「……気づくの遅すぎません?」
「確かに気づくのは遅いかもしれないが、あまりに予想外なところだったからな」
ルリ・パラリナという名前で気づけば良かった。
「瑠璃が配信できるのか?」
「その点を補うために設定をなくしたんです。何があっても路線を切り替えて進むことができるように」
「……しかしよく瑠璃にやらせることができたな」
「そこが一番簡単でしたよ?」
愛理さんは当たり前のように言うが普通に考えて「あなたは事務所所属のVtuberとなって配信をしてもらいます」なんて言われたら迷うぞ。
俺が困惑していると愛理さんが説明を一言にまとめて、話してきた。
「樹さんが義理的な兄になるって言っただけです」
「あー……」
全て納得した。
「ちなみに、返事は『先輩がお兄ちゃんに?』と言ってました」
義理的とかVtuberとか考えてなさそうだな。もう俺と兄という単語にしか反応してなさそうだ。
これは瑠璃との関係が逆戻りだな。
まあもしかすると兄として接するのはまだ楽かもしれない。
お父さんは年齢的にも一歳年下から言われるのもなかなかつらかったしな。
自己紹介から質問まで特に問題なく進んでいった。
「俺との関係性は特になしって感じか?」
同じ絵師から生まれたとしても企業と個人で、棲み分けさせる企業は少なくない。
要は母親は同じでも兄弟と認めさせる企業のほうが少ない。
しかしながら瑠璃が所属することになった企業は、自由奔放とも言われているあのsiveaだ。
しかも俺とsiveaの関係は切っても切り離せないといった具合だ。
「『凛斗は知ってるの?』知ってるも何も私のお兄ちゃんだよ?」
「あーまあそうだよな」
「こっちの世界に来た時に偶然拾ってくれたのが、お兄ちゃんなんだ」
あ、あーなるほどな、そういう感じで行くのか。
と、密かに心の中で呟いた。
俺に設定は存在しないようなものだが、俺が兄だとするとVの世界でゲームをやっている俺と、異世界から来たという設定のルリの設定とがかみ合わなくなる。
しかしそこは多少強引ながらも、俺が偶々ルリを拾って、ルリが兄と言い始めたという設定にしたらそれになりに違和感が減る。
「樹さんコメントしたらどうですか?」
「やめとく」
「なんでですか?」
隣に座っている人が怖いからとは口が裂けても言えない。
ルリがお兄ちゃんという単語を発した瞬間から愛理さんからただならぬ気配を感じている。
愛理さんに怯えながらルリの配信を見守った。
「あ、最後に告知あるよ。みんな入ってきてー」
「いえーい」
「戻ってきたわよ」
「やっほー」
「……どうも」
六期生の他のメンバーがルリの画面に並んだ。
一人だけどう考えてもテンションがだだ下がりしている人がいるが、一旦は無視だ。告知のほうが気になる。
「この後、22時から~?」
「「「「「5人のオリジナル曲出まーす」」」」」
「綺麗にシンクロしたな」
「今、注目するところ明らか違いますよね?」
「オリジナル曲とは驚いたな。これまでなかったしな」
これまでデビューしたメンバーはせいぜい良くても歌ってみただけだったが、ここでとうとうオリジナル曲が出てくるようになった。
siveaが成長してきたという証なのだろうか。
「まあ正直なこと言うと、5人で歌える曲のほうが少ないというか……」
「まあそうか」
「……いい事考えました!」
「俺にとっては?」
「いい事です!」
愛理さんはこちらに満面の笑顔を見せながらそう言った。
本当にいい事なのかもわからないのが怖い所だな。
俺と愛理さんが話している間に、告知も終わり、各々また最後の挨拶をして、六期生デビュー配信は幕を閉じた。
そして少ししてから、オリジナル曲を聞いた。
「ルリって歌うまいんだな」
「全員個性出てて良かったですね~」
全員歌上手かった、しかしそれ以上に瑠璃が歌上手い事を知らなかったことが印象に残っている。
今度いつものメンバーと灰羅と瑠璃と美雨と一緒にカラオケ行くか。
そんなことを考えながら、その日を終わらせた。
推しのVtuberが許嫁だった 夜葉音 @yohane_253
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