R602年7月32日

 晴れ。いよいよ遺跡に入った。午前中にはほぼ全員で(定時に起きろ、タッティ!)入口前の瓦礫を撤去し、修復時に必要そうな石を整理した。昼食を挟んで、私は入口の1つ内側の回廊について手当たりしだいに記録を残すことにした。


 まず左翼側の壁面だが、おそらくトゥナカプ(Tunakapi)と思われる亀と、コタン=マフルム(K'otan-Malhilumi)神群と思われる神像が彫られている。風雨による損傷が甚大。トゥナカプ誕生のシーンか? だとすると、『風の書』に書かれている初期の部分の話なので、ここを起点に(おそらく)時計回りに話が進んでいくはずである。


 次に、本殿に面した壁面である。この面は比較的保存状態が良いが、木の根などに覆われていて見えない部分が多い。今後へばりついた木の根や苔などをはぎ取る作業が必要になると思うが、おそらく推測が正しければこの面には、風神ルパタキ(Rup'atakï)が太陽神バドゥン(Badun)と月神ヒーセミ(Xîsemï)を連れて、大陸パフスマナリ(Palhisimanarï)に到達する図が描かれているはずである。月神と思しき神像の部分だけ見ることができた。


 おそらく、右翼側の壁面は世界の終末の場面である。天に大きな穴が空き、最高神ムパカヌタリが地上に降り立とうとしている。下側には、豪華な仮面をつけた人が数人立っていて、精霊や神々に取り囲まれている。


 入り口に面した壁面も、左翼側の壁面と同様に損傷が激しい。しかし、中央部分に古い形のアトゥフルン語とみられる言語で文章が彫られている。さすがにそのままでは読めないから、明日あたりスケッチをしてヴァイラに翻訳を頼もう。

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フィラクスナーレ:ある考古学者の手記 中野智宏/トルミス・ナーノ @TormisNarno

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