解答編
「さて、皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
「僕しかいないけど」
口を挟む良人を無視して、玉黄は続ける。
「皆さん。いいですか。犯人は大きなミスを犯しました」
「なんの? なんの犯人?」
口を挟む良人を無視して、玉黄は続ける。
「赤いきつねと緑のたぬき。この名前には、ある致命的な問題があるんです。それが一体何か、皆さんにはお分かりですか?」
「本当は赤くも緑でもないこと?」
「いいえ、違います。それを言うならポケットモンスター赤・緑だって、別に限定ポケモンは赤と緑にそんなに関係ないよね。たとえば狐っぽいロコンは緑限定ポケモンだし。赤く燃えてるブーバーも緑限定だよ」
「詳しすぎる。あれ90年代のソフトだよ?」
「こないだやったじゃない。ポケモンGoで」
「そっちかー」
「こほん。とにかく、本当に赤いか緑かと商品名は関係なくてもいい。それはそうなんです。だけど、商品名に絶対に入れなくてはいけない情報があるはずなんです。ところが、この商品にはそれがない。
「そのことに気づいたのは、良人くん。あなたの不用意な一言のおかげよ。あなたはつい、犯人しか知りえないことを口走ってしまったの」
「だからなんの犯人なの?」
口を挟む良人を無視して、玉黄は続ける。
「あなたはこう言ったわよね。
『そもそも確かきつね『そば』バージョンで『紺のきつね』だったかがあったと思うし』
ということはつまり……赤いきつねは、カップ『うどん』なのよッ!! これは『きつねうどん』だったッ!!!」
「いやそうだけど?」
「そうだけど? よくも白々しくそんなことを言えたわねッ! わたしが食べた『緑のたぬき』は……『そば』だったのよ?」
「いやだから、そうだけど?」
「ふふ……気づかない? 『赤いきつね』と『緑のたぬき』という名前に潜む、致命的なミスに!」
「え……ま、まさか」
「そう! その通りよ良人くん!!
どうして『うどん』と『そば』という最も重要な情報が伏せられているの?
別に赤と緑を冠するのはいいわ。かまわない。具材を示すのもいいことだと思う。でも、うどんなのか、そばなのかの情報を伏せることに意味はあるかしら? 現にわたしは、良人くんが『紺のきつね』について言及するまで、まさか『赤いきつね』がそばじゃあないなんて――思いもしなかったわ」
「くっ」
がくり、と項垂れる良人を憐れむように、玉黄は言う。
「この商品名からは、かなり重要な要素である『うどん』か『そば』かを読み取ることはできない。それにも関わらず、
「それは、赤いきつねに出会って――
『我をモチーフにしたカップうどんを作れ』
そう言われたからだね。『赤いきつね』以外の名前を選ぶことは――できなかったんだ。赤いきつねは本当にいたんだ。つぶれかけた東洋水産の債権者の血に染まった、真っ赤なきつねが――」
ついに自白した良人を、悲しそうな目で玉黄は見つめた。
そして静かにこう言った。
「これって名誉棄損とかにはならないよね?」
「ならないと思うけど、一応ちゃんと宣言しておいたほうがいいかもしれない」
「この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません」
「あと普通にパッケージに『うどん』と『天そば』って書いてるよ」
こうして――『赤いきつねと緑のたぬき』事件は幕を閉じたのだった。
(終わり)
赤いきつねと緑のたぬき 雅島貢@107kg @GJMMTG
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